第6話 乱れるイリゾニア。

物語は大きく変わっていた。

男はイリゾニアの外と中を行き来していた。

物語では[それから3年が過ぎた]の一文で済むのに、中にいると本当に3年が過ぎようとする。

恐ろしいのは魔物の襲来もあるのに特筆すべき点はないとして書かれない。なのにキッチリ魔王の軍勢は攻め込んできていた。


なので男は可能な限りはイリゾニアの外で過ごし、少しでも本の内容がおかしくなると中に入って修正と対応をしていた。

前もって読むと、[それから3年が過ぎた]なのに、急に文章が変化して、[冬の寒い日、勇者として城に迎えられたカインを倒すべく、5将軍の1人、大地のサシュが勝負を挑んで来た]となり、そのまま先を読むと[無念、カインはサシュに敗れてしまった]と書かれているので、慌ててイリゾニアに入ってサシュと戦う事になる。


若干8歳のカインはイリゾニアに謀殺されようとしていたが、男がイリゾニアにくると毒すら無効化して鬼神の働きをする。


サシュと戦う時の敗因は、援護という名のフレンドリーファイア、誤射という名の謀殺で、背中に矢を受けたところに、陸上では負け無しと自負するサシュの一撃を受けていたが、男が降り立てば問題はない。

矢の全ては風魔法のエアカウンターで跳ね返し、サシュの一撃すら水魔法のウォーターウォールで防ぎ、ウォーターシンクで溺れ死にさせてしまう。


時折イリゾニアに来て敵を倒して報奨金を貰うと、その半分を村に回して村を強固にしてしまい、旅人達を歓楽街でダメにする。

薬物暴力なんでもアリにして更に収入を得ると、儲けの2割を回収していた。

村長は最早ビッグボスと呼ばれていて、かつての穏やかさは微塵もない。

権力に溺れていて、少しでも気に食わないと誰彼構わず殺してしまい、暴力と恐怖でカイン村を支配していた。



ある日、貧困に喘ぐ母娘がカインに助けを求める。

王都からカイン村までの帰路では珍しくも何もない光景。

だが、資金援助を拒んでも受け入れてもイリゾニアの意思で、カインは悪く言われる。


「援助ですか?僕は構いませんが、貸しても悪く言われるので、そこだけは対処してくれますか?貸した後で、あなたの事で僕が悪く言われたら…、わかりますよね?」


この言葉に目を見開いて、「殺します!カイン様を悪く言う輩は全て殺しますから、助けてください!」と母が言う。


男はそれならと母娘を連れてカイン村に戻ると、金と食事を渡してしまう。

受け取った者は周りから悪く言われるが、カインは取り立てもしない者として、悪るく言った者と本気で敵対をしてしまう。


これでもイリゾニアは乱れた。

男はそんな姿を見て、イリゾニアの中でも貧富の差は埋まらないのかと思っていた。



イリゾニアの物語は、修復不能なラインをとっくに越えていて、別の物語になっている。

本来なら魔物に怯え、荒んでいく人々の心だったが、その他にカイン村が歓楽地になった事で、人々の心は悪い方へ加速していき、魔王の軍勢にしても、本来なら勇者達が集まるまで大きな動きは見せないが、既にカインが14歳の時には、全兵力がカインの元、一応は人間の国デイドリーの城を目指し、王の依頼でカインが全て討伐していた。

この戦いで5将軍を全て倒してしまっていて、カインからすれば残りは魔王だけであった。


カインは徹底して生きていた。

後世悪魔と呼ばれても構わないように、本来なら救国の勇者として名を残す、カインの偉業すらイリゾニアは悪く言い、人々は「人間離れした力が怖い」と言って謀殺を諦めないので、カインは徹底して人を疑い、自身の周りには孤児や使用人の子供達を配置して、毒味から何からをさせる。万一毒殺を試みる輩が居れば、一族郎党を皆殺しにして見せしめにする。


それでもイリゾニアの意思は強固で、謀殺を諦めていなかった。


だが徹底する事で、ある程度の自動化が図れた男は、このままパールの16歳、カインの17歳までイリゾニアの時を進める事にした。


本来の物語なら、[度重なる魔王からの攻撃で疲弊して、人々の心に暗い影を落していた。それを憂いたデイドリー国王が神に祈ると、光が天から降り注ぐ。その光が降りた箇所に4人の勇者がいて、魔王との戦いに出る。苦難の旅路だが助けてあげて欲しいと神の声が聞こえた。国王はすぐに光の方角へ兵士を向かわせて、4人の勇者を城へと招いた]となり、城に勇者達が集まって可能な限りの支援を得て、勇者達は右も左も分からないまま、仲間達はそれぞれの願いの為に魔王討伐の為に旅立って行った。


だがまあ、魔王以外の魔物に関しては、大軍は全て男がカインとして葬っていて、[遂にカインは魔王の軍勢を全て1人で倒してしまった]と書かれてしまうし、頼みの5将軍は全滅している。

魔王のみになっているし、国は魔王の攻撃で疲弊していない。疲弊しているのはイリゾニアがカインを謀殺しようとして、その反撃で疲弊していて、人々の心に落とされた影は、カイン村の歓楽地と金で心を汚された連中が主に落としている。


男はイリゾニアの外から読み進めながら、「どうやって冒険を始めるんだ?」と呟いていると、イリゾニアはなんとか軌道修正を図り、勇者達を集める事にしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る