第21話 油断の結果。
海底洞窟の中ではブランドがモノを言う。
違和感は確かにあった。
本来のイリゾニアでは、船の上から風魔法のエアシールドで海底洞窟に降りていくのだが、今回は思いつかない体裁でいると、ブランドが聖剣レイザーイ…否、聖剣レイザーイがブランドを動かしてひと足先に飛び込もうとしたが直前でブランドが一瞬動かなくなった。
「ブランド?」
「どうしたの?」
男とライムが話しかけるとブランドは飛び込んでいき、先に海底洞窟に辿り着くと待ち伏せの魔物達を倒していく。
海底洞窟には毒のエムソーが居るせいで、毒の瘴気が満ちていてブランドは緑色になってグッタリしながらも奥へと進んでいく。
イリゾニアの外で見ていた男は、「毒のエムソーと闇のスゥがいるので用心しましょう。毒に備えてあとは出たとこ勝負ですね」と言うと、海底洞窟周辺の海を凍らせると階段状に掘り進めてウインドブラストを応用して降りていく。
「帰りはこの階段で帰りましょう」
「うわ…高いけど泳ぐよりいいから助かるよ。ありがとうカイン!」
「帰りも余裕だったら空を飛ぶ感覚で連れて行ってください」
男は「換気」と称して海底洞窟に魔法純度の高い空気を入れて、魔法を使ってもおかしくない状況を作ると海底洞窟に突入する。
中の魔物達はキリングマシーン・ブランドが皆殺しにしてくれるので、男達は警戒だけして奥へと進んでいく。
ここで助かったのは、ブランドが片っ端から闇のスゥが仕込んだ罠にかかってくれていた事だった。
闇のスゥは闇魔法で視界を奪い、正常な判断を阻害して罠にかけるタイプだったが、ブランドを操る聖剣レイザーイからすれば何のこともなかった。
複雑に入り組んだ海底洞窟の全てを踏破したブランドとほぼ同時に到着した男達。
根暗そうな猫背の男の子が、「うきょ?きたきたきた!酷い勇者達だなぁ〜。お仲間に先行かせて、後から重役出勤?」と言い、ガサツそうな見た目の中年男性が「まさか水を凍らせて、この海底洞窟で魔法を使えるようにするとはな!だがお前達の死は必至!このエムソーの毒を喰らって死ね!」と言って剣を構えた。
見た目だけでもわかるが、スゥは一歩下がると「ウキょ!ダークボール!」と唱えて魔法を放ち「お前の魔法まで使ってやるぅぅうっ!」と言う。
エムソーは緑色のブランドに斬りかかると、ブランドは紫色になり耳から膿のような血が滴ると、その姿を見て「この場の魔法が尽きた時に、人間専用の毒霧を放って殺してやるわ!」と勝ち誇る。
確かに今のままだと、せっかくの魔法が使えなくなる。
そうなると術に頼るしかなくなるが、ここで隠し球を出すのは良くない。
「短期決戦で決めます!ライムさん!僕と共にスゥを倒します!エムソーはブランドに任せます!パールさん!帰り道の確保と投石で戦ってください!魔法はギリギリまで我慢です!」
男がライムと共にスゥに向かった時、油断が命取りになり…文字通り男の命を奪いにきた。
背中に走る激痛。
腹部を見ると貫通したレイザーイが見えた。
「な…何?ブランド?」
男が見ると紫色で血走った目のブランドが、「うひひひひひ」と笑っていた。
その場で男は吐血をすると想定外の脱力感に襲われる。
「ぐはははは。聖剣の勇者は狂ったか?何にせよ僥倖!吾輩の毒が聖剣経由で最大の敵に届いたな!」
男は耳を疑う。
確かに毒のエムソーの剣と聖剣レイザーイは打ち合っていた。毒が剣に付着してそれが体内に入る。
この状況をひっくり返す方法はいくつもない。
男が考える少しの時間に、腹からレイザーイを抜いたブランドは高笑いと共に、「お前の魔法が尽きて死んだら、ライムとパールは俺が可愛がってやるよ!」と喜んでいる。
最悪だった。
男は本の外に意識を向けると、ブランドの奇行に理由がついていた。
簡単な話だった。
聖剣レイザーイは肥沃山の火口に飛び込んだ時に、経年劣化を上回る深刻なダメージを受けていた。
それによりブランドの支配が弱まりここ一番でブランドに身体を奪還されてしまっていた。
しかもブランドの言葉の通り、自分の死なない身体を利用して、この場でカインを亡き者にしたらエムソーとスゥを殺し、パールとライムを陵辱する事しか頭になかった。
死ねない。死ぬわけにはいかない。
だが、今も魔法を無駄撃ちするスゥのせいでロクな魔法は放てない。放てたとしても殺し切れるかわからない。
それならば魔法はパールとライムの為に残したい。
そうなると手は少ない。
口にしなければイリゾニアにはバレない。
後の事は何とかするとして、今はブランドとエムソーとスゥをどうにかする事だった。
男は一つ目の隠し球を出すことにした。
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