第26話 何の為に戦うのか。

男は委細をライムに口頭で伝えながら、術で口にできない部分を伝えた。

ライムは顔を暗くして、「ブランドは勇者ではない」と言いながら、術で「最終決戦は置いていけるように手を尽くす。仮について来られても私がパールを守るわ」と言ってくれた。


エドはそれから10日後に迎えに来てくれて、馬車旅になると、鍛治王はさっさと弟子探しだと言って旅に出る。


男とライムで決めたのはブランドの徹底排除で、エドにはエムソーの毒で狂ってしまっていてカインすら傷つけた危険な存在だからと説明をして、鎖で縛って棺桶に突っ込んで馬車の荷台に乗せている。


炎天下でも関係なく荷台に乗せていられるのはエドの意志というより、ブランドの評判はデイドリーで最悪になっていたからで、ナイメアが滅んだのも、カインが重傷を負ったのもブランドが足を引っ張り、裏切り、活躍しなかったからで、ある程度雑に扱っても仕方ないとなっていた。


男は偽装術で聖剣レイザーイを装備して、魔物の群れを見つけると剣技のみで圧倒して見せたり、ブランドに上被せるように大魔法も放つ。


男とブランドの会話は男の読み勝ちで、術使いだと打ち明けなかった事、聞こえなかったフリをする事でブランドが毒のせいで気がふれて、1人で妄言を吐くようになったとイリゾニアには書かれている。


デイドリーに戻る頃には、カインは真の勇者だとなっていて、冒険に出るまでのカイン村でのアレコレは全て無かったことにされていた。男からすれば都合の良い話だが、人々はカインを真の勇者だと称賛を送る。

そんな人々の称賛を浴びるカインを見るパールの目は、恋する女性のそれだった。


男は後一歩。

ブランドと魔王さえどうにかすればいいと思いながらデイドリーに戻ったが、ここで数個の問題に当たった。


ひとつ目は旅路に無理があって、城の地下で鳴動する何かを感じて掘り進めるイベントが追いついていなかった事。

本来なら水晶谷に行っていたし、大河でのイベントもあったのにそれが無かった。

男は仕方ないと割り切り、聖剣レイザーイを構えて「レイザーイ、この地下に何かあるのか?」と問いかけて、伝心術で「地下に何かあるかイリゾニアとして示してくれ」と伝えると、棺桶のブランドから「魔法陣」「魔王の城」と声がした。


ライムが拾い上げるように「神子の言葉か!?」と言い、男がカインとして「ここにあったのか…」と言う。


パールと国王が気にしたところで、男は神託の祠での話を伝えながら地下に降りて、聖剣レイザーイを突き立てると「道を開け!」と言いながらアースシェイクの魔法を唱える。


すぐに地面に大穴が開くと、その先に光り輝く魔法陣が現れた。



男は本の外で「なんとまあ、昔5将軍を倒した時は無反応だったのになぁ」と笑ってしまう。


だがすぐに笑えなくなった。

カイン、パール、ライムの3人では魔法陣は作動しなかった。


[1人足りない。気がふれた戦力外の裏切り者だとしても、やはり魔王の討伐には4人の勇者が…、勇者ブランドが不可欠なようだ]


この一文に男は頭を抱えてしまった。

嫌々ブランドの棺桶を魔法陣に乗せて4人揃えると、魔法陣は煌々と光を放つ。

傍目に見ても一目瞭然だった。


男はエンディングが間近な事もあって、すぐにでも旅立ちたかったが、国王から一度キチンと休息を取るように言われてしまい、一晩城で過ごす事になった。

悪評の体現者になったブランドは、治療の名目で城の離れにある、投獄前に一時的に拘束する為の部屋でベッドに括り付けられて居た。

万一を考えて、世話を死刑囚達に行わせた所、ブランドは傷だらけの身体でも女からの世話を求め暴れる。仕方なく死刑囚に見返りとして恩赦を与えることにして女囚を用意すると、女囚を見た途端、無理矢理拘束をはぎ取り、拘束をはぎ取った事で更に傷だらけの身体になっても女囚を襲うブランド。

ブランドは読心術で女囚すらしらないポイントを見つけると的確に責め、女囚を催淫術でこれでもかと悦ばせ、洗脳術で拒絶させずに延々と抱き続けた。


逃走防止のための見張りの兵士達は部屋の中から聞こえてくる悲鳴と絶叫、一晩中聞こえてくる嬌声、そしてブランドの「どうだ?最高だろう?」、「これだよこれ!この為に俺はここにいるんだ!」、「女が足りないぞ!もっと連れてこい!」という言葉を聞いて恐怖に震えてしまっていた。


カインとライムはまだブランドを理解していたが、ブランドをよく知らない国王達は、その女への執念と執着を聞いてドン引きしていた。


それは本の外の男も同じで「おいおい、女囚が凌辱される様を事細かに書かないでくれ」と漏らしながらドン引きしていた。



翌日、魔法とレイザーイで意思を奪ったブランドを無理やり棺桶に押し込む。

本来なら以前のようにレイザーイで常に意思を奪う事も考えたが、耐性がついて裏切られると話にならない。


ブランドが棺桶に押し込まれていた事で出立式は執り行えなかった。

棺桶に入れなくても、あの歪んだ表情に狂った人格では、人前には出せない。


本来のイリゾニアなら盛大な式が執り行われていた。

この頃には気持ちを隠さなくなったブルガリとクラムを、ライムとカイン、2人だけでなくデイドリーの人々も応援と祝福をしていた。

疲弊した中でも国民達がフラワーシャワーをやってくれて、ブルガリ達は「人々の為に命をかける」と口にしていた。


人々の為、そんな気持ちはパールにしかない、ブランドは性欲の為に、ライムは職務、そして男は妻の為、聖剣レイザーイはこの物語を終える為、皆自分のことしか考えていなかった。

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