妻が本の中に蘇り、勇者と結ばれる前に俺が魔王を倒すだけ。

さんまぐ

第1話 魔法と魔術。

剣と魔法の世界でも無理なものはある。

今、1人の男がその現実に直面している。


死者の蘇生


死んだ者は蘇らない。

万物の理。


だが男はそれに疑問を持った。

最愛の妻は、新婚早々に不治の病を患い、2年の闘病の末に死んでしまった。


周りの手を借りて葬儀を終えた男は、誰もいない家で泣き腫らした。

次男坊として、家屋と田畑を貰えなかった男は、生まれた村を捨てて旅立った。

そして3年前にこの村に立ち寄って、後の妻に一目惚れをして猛アタックの結果、ようやく結婚をしたが、これからと言うところで、不治の病を患ってしまった妻は死んでしまった。


村人達は葬儀を手伝った後で、「旅に出るのも構わない」と言ってくれていた。


直訳をするとリセットしてやり直せ。

それは優しさからくるものだろう。


男は1人で狂いそうになる中、家の中で一つの事に気付いてしまった。


なんで魔法があって、治癒魔法まであるのに死者蘇生は無理なんだ?


そう思った男は「蘇生魔法を探してくる」と言って旅に出た。


皆ショックで男が狂ってしまったと思ったが、初めは1ヶ月で戻ってくる。

そして、どんどん不在の間隔は広がるが、男は必ず戻ってくる。


そして毎回戻ってくると、貴重な魔物の爪や牙なんかを渡してきて、「村の財産に充ててくれ、その代わり家と墓守を頼む」と言って数日すると、また旅に出て行った。


もう10年になる。

10年。

いえば一言だが、相当の時間がかかる。


この年に戻ってきた男は、「遂に魔術を見つけた」と言っていた。


男は帰宅すると用意を始める。

まず初めに、村人に魔物の素材を渡して、「1ヶ月くらい外に出ない。1年しても出てこなければウチに見にきて欲しいが、1年経つまでは誰もこないでくれ」と言い、家に戻ると手記を書く。


[この手記は、魔術書を授けてくれた老人に頼まれたものだ]

その書き出しから始まった手記には、神々の戦いで魔法を使う神と魔術を使う神の戦いは、魔法を使う神が勝利して、この世界の主流は魔法になっていたと言うもの。


[魔術を失ってはいけない為に、この手記を残すから、俺の身に何かがあった時には、この本を南方のコクバーノレまで持ち帰って欲しい。興味があれば魔術を極めても構わない]


そう書かれていた。

魔術書をめくり、男は「まずは10年を取り戻す」と言うと、「魔術・身体操作」と言い若返る。


自分の腕を見て「この身体なら成功できるはずだ」と言って一晩休むと、翌日から魔法にはない禁忌の方法をとった。


「魔術・肉体生成」

男は1日かけて亡くなった妻の身体を魔術で生み出すと、倒れ込んで3日ほど眠りについていた。


そして出来上がっていた肉体に触れて、「ようやく会えた。10年ぶりだ」と涙ながらに言った。


「この身体の時間は始まっていない。まだ動いてもいない。次は魂を呼ぶ。10日は休もう」

男はそう言って妻の肉体をベッドに横たわらせると、生活をして力を蓄えた。


その間、魔術書を開きながら食事をすると、「藁にもすがる思いで手に入れた魔術書で、半信半疑だったが何とかなるもんだな。折角だから読み込むかな」と言ってページを読み進める。


「何に使うんだこんなもん?身体を小さくする魔術?身体操作の派生か?年齢操作が派生なのか?」

「本に入る魔術?…この中にも入れるのか?まあ今はいい」

「相手の心を操る魔術?これは催眠魔法があるな」


魔術への知識を深めれば、10日はあっという間だった。


再び妻の肉体を持ち出して床に寝かせると、「よし、ここに魂を呼び込んで、身体を動かせば成功だ」と男は言って集中をする。


「反魂術!帰ってこい!帰ってきてくれ!」

男が力を奮うと、部屋は鳴動し妻の身体は浮かび上がる。


だが男は不安だった。

始めた以上辞められないが、男に本を託した老人は、自ら禁忌として死者蘇生や身体操作を行わないようにしていた。

その為どうなるかはわからない。

それでも妻に再び会いたい為に、男は必死に反魂術を使った。


暫く力を使うと変化が起きる。

体内に蓄積する術量が減らなくなってきた。

後は妻が目覚めるまで術を使えば成功すると思い力を使った。



その直後。

妻の身体は光を放った。

眩い光の後、妻の肉体は消えていた。


「し…失敗?」

男は失敗を悟り膝から崩れ落ちたが、失敗したならもう一度試せばいい。

そう思い肉体生成を行おうとしたが失敗した。

魔術書には失敗に対するペナルティは書かれていなかった。キチンとペナルティが書かれる中、書かれていないと言うことは肉体生成にペナルティはない。


そうなると考えられる事は一つしかない。

成功している。

肉体は消失していない。

どこかに転移した。


移動魔法なんてものはない。

だが魔術書には転移術がある。


本来ならコクバーノレに行って、魔術書を譲ってくれた男に相談すべきだが、万一を考え村を離れたくない男はなんとかする方法を考えた。


そして一つの答えに行き着いた。


魔術書の前に行き「中に入る。何かしらわかるはずだ」と言うと、「入本術」と唱えて男は本の中に入って行った。

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