第4話 勇者カイン。
男は最悪だと呟く。
イリゾニアを開くと、魔術書に行っている間に話は進んでいたし、本来の話からは大きくズレていた。
男の妻は能力を発露するイベントで、ファイヤーボールに目覚めるオークとの戦闘中に負傷した。
本来の筋道なら、群れと言っても6匹のオーク相手だったが、今回は文字通り11匹のオークの群れに襲われて、ファイヤーボールを浴びて苦しむオークが苦し紛れに投げた棍棒が妻の頭部を擦り、妻は当たりどころが悪く寝込む羽目になる。
そして意識が戻ったのは20日後で記憶を失っていた。
男は即座にこれは本が仕組んだことだと気付く。
イリゾニアが妻を帰さないための処置。
それは仕方ない。
妻は男に再会して「帰りたい」と言って泣いていた。本の強制力が妻の記憶を消して冒険に出す事にしても致し方なかった。
「こうなると何が正解かわからないが、俺も本に住むくらいの勢いで行くしかないな」
男は本に入ると次の強制力が働いた。
それは降り立った場所にも問題があったが、勇者の1人、魔法を得意とする勇者カインとして降りたってしまう。
勇者カイン、妻とは違っていたのは、妻は本来のキャラクターが不在になり、妻が勇者の1人でパールの名前になっていた。
だが男は本名ではなく、本来の本の登場人物のカインの名前にされていた。
男は「何の違いがある?」と言って訝しんだが、ここは勇者としての能力が目覚める部分。
すぐに魔物達が現れるのだが、どうにも規模が違う。
男は慌てて作っておいた出口から外に出て本を読むと、そこには目を疑う事が書かれていた。
[勇者カインは他の勇者と何かが違うと察した魔王が、持てる戦力の3割を投入した。ここで亡き者にする気だろう]
原作は違う。
[勇者の出現を察した魔王が斥候を放った。魔物達の圧に震えるカインだったが、母や村人達を守りたい一心で力を振り絞って魔法を放ち村を守った]
男はこの状況を推察でしかないが、イリゾニアが男を危険視して、男を勇者カインに位置付けて、合法的に殺しにきていると思っていた。
その間も話は進んでしまう。
男が不在の間でも物語は進み、見当たらないカインが逃げ出したと憤慨する村人達。
村には数万の魔物が大挙してきていた。
「おいおい、数万の魔物を倒す?勇者ブルガリの覚醒パートでも300だったぞ?」
男はこれ以上話が乱れてしまい、カインが謀殺された影響で、妻が死んでしまうと困る事を考えて、「くそっ、やるしかない」と言って再びイリゾニアに入った。
イリゾニアに入ると身体は6歳の子供のものになる。
それはカインの年齢。
カインに気がついた父母は、「どこに行っていた!?」、「お前のせいで魔物が来た」と罵声を浴びせる。
物語も何もあったものではない。
本来なら父母は怯えるカインを最後まで守ろうとしたし、魔物達がカインを求めて来た事は知らないので、[何でこんな村に魔物が?]と慌てふためく。
この罵声をイリゾニアが歪めたものとして飲み込むしかないが、6歳の子供に向けるものではない。
しかも村の中心で、石まで投げてくる村人を守りながら数万の魔物に嬲られる。
男はあり得ない状況に激高していた。
そして心を決めた。
「そこまでやるなら本気の戦争だ。俺もパールを巻き込んだ負い目があったから、登場人物として参加してやるつもりだった。だがお前が俺を殺そうとするのなら、俺も本気で戦ってやる!」
男は激高すると「大気の魔法純度が高いなら!ファイヤーボール!ウインドストーム!生まれろ!火炎竜巻!」と言って魔法を使う。
とても6歳の子供が放てるような魔法ではないが、男は魔術に辿り着くまでにどんな与太話も本気にしていた。
霊峰と呼ばれる禁足地の最奥に蘇生魔法があると聞けば、危険な魔物が住まおうが突き進んだ。
全ての魔法を使いこなせば蘇生魔法を閃くと聞き、全ての魔法を習得した。
蘇生魔法には膨大な魔法量が必要と聞いて、修行も怠らなかった。
その結果、男は大魔法使いと呼ばれても遜色ない実力を身につけていた。
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