第11話 不協和音。
ライムがお見舞いを兼ねて、誤解を解く為に話しかけたが手遅れで、パールは「ライムさんは騙されているのよ!アイツは魔王の手先よ!」と言っていた。
「アイツねぇ…。泣けるねぇ」
本の外では男の分身が代わりに泣く。
今もライムは説得を試みたが、最後には「ライムさんに頼むなんて最低!男らしくないわ!」となっていて、ライムもカインの言葉を思い出して説得を諦めていた。
ブランドの復調には1ヶ月かかっていた。
本来のイリゾニアなら、もう大河を渡る為に海賊達の頼みを聞き、水のスゥが裏で手を引く、エビとイカ対カニとタコの戦争に介入して、海底洞窟でスゥを倒している。
しかもブランドの奴は、一週間で冒険が可能なまで治っていたのに、【怪我が酷かったアピール】と、【パールにカインの悪口を吹き込むため】と、【城でのんびり過ごすため】に1ヶ月も引きこもっていた。
ライムがお見舞いに行って、復調具合を見て旅立ちを提案してみつつ、医薬品や食料を惜しむべきだと言うが、ブランドの奴は「当然の権利」と言って聞かずに、パールのヒール、最高級の薬品、城での療養生活を満喫していた。
ようやく旅立てる時、国王はライムに宝剣を授けたかったが、ブランドが自分にこそ相応しいと言い出してしまい、あのトカゲ騎士にやられた姿を門番から聞いた国王は、ライムに謝りながら兵士達が使う上等な剣をライムとブランドに渡す事で済ませてしまった。
「いえ、ありがとうございます。報奨金もありますから、現地調達しますので平気です」
ライムは恭しく言ったが、ブランドは「勇者に対して死地に赴けと言いながら、支援に余力を残すとは何事ですか?」と言い出してしまう。
男はカインとして、「陛下、僕が魔法でフォローしますので、お気持ちだけ頂戴します。ブランドの事は皆でフォローします」と間に立って話を切り上げるが、ブランドは不快感を隠さずに、「何を言うか、魔王の手先め!何が魔法でフォローだ?お前はこの俺様が魔物の攻撃で苦しんでいる時も、助けに来なかったじゃないか!それにブランド?様はどうした!様をつけろ!」と食ってかかってきた。
男は頭が痛かった。
本来のブルガリならこんな事はなかっただろう。どうしてこうなった?と思いながら、「仲間に様なんておかしいですよ。ライムさんとパールさんは女性だからさん付けをしました。ブランドは男同士だからさんを付けていないんですよ」と言ってみたが、パールがぽそりと「馴れ馴れしい」と言う。
「魔王の手先?いくらなんでも、言っていい事と悪い事がありますよ?それに十万の魔物を倒しながら助けるなんて離れ業を、ブランドはやれるんですか?」
ブランドは男の反論に顔を真っ赤にして、早口になると小難しい言葉を並べ立てて怒鳴ってくる。
聞くに堪えない言葉達だが要約すれば、あの大魔法は人間業ではない。だから魔王の手先で間違いない。勇者の俺様が言うから間違いない。アレだけの大魔法が放てるのなら、国民よりも勇者の自分を率先して助けろ。そんな所だった。
「たったそれだけのことを、長々と魔物に袋叩きにされて心はボロボロで我慢の限界がとか、魔物でないと言うのなら、人間であることを証明するのはお前の仕事だとか、仲間だと言うなら何よりも優先して助けるべきだとかうるさい奴だ」
男はイリゾニアの外で悪態をつくことで、カインとしては冷静でいられた。
数行先を見て男は笑う。
ブランドがつい漏らした失言に、デイドリーの国民は不満を抱いた。
当然ながら国民よりも勇者の自分を優先しろとは頭が痛くなる話だ。
男は国王達の不満を見て、行動に出ることにした。
「陛下、ならばこのパーティはここまでです。僕がどれだけ譲歩の意思表示をしても、ブランドは僕を魔物と疑い、上下関係を強要してくる。とても共に戦えません。魔物と言われて背後から切られても困ります」
この言葉にパールは「無責任だわ。全部自分が悪いのに」と憤慨している。
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