第16話 男の本懐。

ライムが「パール!ブランド!」と声を張ると、空を見たパールが「え?…ライムさん!?カイン!?」と驚く。

男は妻が無事だった事に少しだけ安堵したが、イリゾニアに悟らせないように「ライムさん!姿勢制御!着地しますよ!ウインドブラスト!!」と言って魔法で衝撃なく着地をすると、すぐにパールの横に立って「パールさん!あなたはここを動かないで、ファイヤーボールでライムさんの援護をして敵を倒してください!ライムさんは剣を渡します!ひたすら切り刻んでください」と言った。


突然の事で悪意もなく「わ…わかったわ」と言うパールと、「お前の実力は見させてもらった!神託の祠から飛んできた実力は本物!従うわ!」と言うライム。


パールは話を聞きたかったが、カインがそれを許さないように「アイスソード!」と唱えると氷の剣がライムの前に現れる。


「柄はそんなに冷たくないはずです!切れ味が落ちたら交換します!言ってください!」


ライムは剣を受け取ると、「カイン!お前はいい男だな!剣の形が私好みだ!」と言って前に出ながら剣を振る。

剣は引っかかる事なくするりと魔物に入ると簡単に真っ二つになる。


「凄い」とパールが喜びを口にすると、男は「感動は後です!先に援護です!」と言う。


そんな男を見てセウソイが「お前がカインか、お前1人の登場で、この場が大きく変わったな」と言う。


「大軍のセウソイ…」

「そうだ。致し方なかろうが、まだ生き残りがいるかも知れない中で、範囲攻撃は行えまい?更にお前はその女を守る為に、魔法使いにあり得ない立ち位置で戦うしかあるまい?」


セウソイのどこか勝ち誇る顔に、男は鼻で笑うと「問題ない。この程度の敵なら僕はパールさんを守りながら戦える。範囲攻撃が出来ない?それは素人考えだ!」と言う。



そして即座に「サーチフィールド!サンダーボルト!」と唱えると、綺麗に魔物の頭上限定で落雷が発生して周囲の魔物を消し炭に変えていく。



突然の出来事に「な!?何ぃ!?」と驚くセウソイ。

男は「僕は6歳で万の魔物を倒したんだ。その時から研鑽は怠らない」と言った。


その時、人喰い鬼を斬り殺していたライムが、「カイン!切れ味が低下した!」と声をかける。

男は「ライムさん!剣は大量に用意します!足りなくなったら言ってください!」と言ってアイスソードの魔法を再び放ったが、話は全く違っていた。


アイスソードは先ほどと違い、天から降り注ぐと魔物を次々と刺し殺していく。


「好きに使えと言うのだな?まかせろ!」

ライムは剣を取り替えると次々に魔物を殺していく。


セウソイはカインの実力を見誤っていた事に気付き、青くなり始めるが「まだだ!直接お前を倒せば!」と言って金棒を振り上げる。


「すみませんが倒します。アイスシールド」

「氷の盾?そんなもので何が出来る!」


セウソイはそう言ったが、その場から一歩も動けなかった。


「アイスシールドは氷の盾ではなく、アイス…氷の、シールド…封じるです」


男がつぶやいた時、セウソイは肉厚で強大な氷に封じられていた。


「僕の事を知らないという事は名前だけ同じで、別の個体なのですね?元々の火のセウソイなら良かったのに、残念でしたね」と言った男は、カインとして「殺すのは最後です。あなたを失って、魔物達が制御不能になると厄介です」と言って「風魔法…ウインドカッター30連。ウインドジェイル」と唱えると、家屋を破壊しないようにナイメア中を覆った風刃の檻が狭まってきて、全ての魔物を切り刻む。


呆気ない幕引きに、「なんだ?私は不要だったか?」と言うライムに、「いえ、ライムさんがいてくれたからこその魔法です」と言って、不服そうなライムに微笑みかけた男は、セウソイを見て「後は生き残りが居ても、ライムさんがいますから問題無しです」と言う。


勝敗が決した事で、観念したセウソイは「見事だな勇者カイン。だがお前達の旅路に安息はもうない。無駄な長期滞在をすれば、その場に軍勢を送り込んでやる」と言って目を瞑る。


それはセウソイを通じて語り掛けてくるイリゾニアの意志。

最短最速でこのイリゾニアの物語をエンディングへと導けという意味だった。

男は深く頷く。


妻に人型魔物の5将軍を殺すのは見せたくなかったが、その考えを捨てて「アイスソード」と呟くと、セウソイを覆う氷の檻からコレでもかとアイスソードが生成されてセウソイを貫き殺していた。


魔物の生き残りも、人の生き残りも居なかった。

男が「ブランドを回収したら先に進みましょう。すぐにデイドリーからエド達がきてくれて、ナイメアの人達を埋葬をしてくれるはずです」と言うと、ライムは頷いてブランドだったものを手頃な大きさの空き箱に集める。

ブランドは不思議な力のおかげで、ぐちゃぐちゃでも繋がっていたので回収は早かった。


身体が戻るまでと言って、ライムは血まみれになりながらブランドの箱に封をしている時、パールはバツの悪そうな顔で男を見て、口をとがらせて「ありがとう。助かったわ」と言った。


その顔は最愛の妻のもので、男は「いえいえ。パールさんを助けられて良かったです」と微笑み返した。

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