第20話 黒潮部隊の誉

~お知らせ~

 内容のマンネリ化が発生し始めました。よって、読者参加型を建前にアイディアを募集いたします。既にぶっ飛んだ作品なので、特にリアリティは要求しません。ご安心ください。もちろん、本作を根底からひっくり返したり、公序良俗に反したり、政治的な主義・主張を行ったりする場合は弾きます。


 以上のこと、ご理解とご協力をお願いいたします。


~本編~


 フィリピン陥落で第一弾作戦を完了した。日本軍は一時的に攻勢を緩め、この間に部隊の交代や補充を行う。艦艇はオーバーホールに入って次段作戦に備えた。しかし、1日はおろか1秒も休むことを許されない部隊がある。


 それは本土警戒線を構築する『黒潮部隊』と『親潮部隊』の二つだった。どちらも本土警戒の監視にあたる。黒潮と親潮に差は見られなかった。したがって、便宜的に二つで一つの部隊とされた。日本海軍ではあまり聞き慣れない名である。それもそのはず、彼らの任務は本土の監視、偵察、哨戒なのだ。華々しい水上艦勤務とは言い難い。さらに、民間の遠洋漁船が元の特設監視艇を運用した。これで聞き慣れる方がおかしい。


 とは言え、たとえ地味だろうと祖国を守ることに直結した。皆が誇りを持って職務を遂行するが、元が漁船のため長期間には適さない。波でグワングワン揺れる船内では食事もままならなかった。落ち着いた暇を見つけては釣りをして、食料を確保することさえもある。この環境では敵影を見逃すことのヒューマンエラーを起こして当然だ。日本が貧乏国家でも酷いと問題になる。よって、開戦直前に本土攻撃を察知する警戒線強化が図られた。


 百聞は一見に如かずのため、黒潮部隊と親潮部隊の広がる、遠洋に目を向けよう。


=鹿島沖=


 茨城県の鹿島沖に黒潮部隊の特設監視艇数十隻が広がった。民間人から引き抜かれた者もおり、出身も年齢までバラバラである。ただ、監視艇は狭い空間のため一隻で一つの家を為した。


「訓練艦が来てから、仕事が捗るようになりましたねぇ。交代制が導入されるだけでも大違いですわ」


「他の艇が遠いからって、あんまり愚痴をこぼすなよ。万が一に聞かれたら銃弾飛んでくる」


「最近は37mm砲弾が来ますよ」


 特設監視艇は民間船を徴発した都合で統一されていない。排水量が100tに満たない漁船もあれば、100tを超える大型船まで十人十色だ。100t未満の小型は荒波に揉まれやすい。荒天に遭うと容易に転覆した。まったく酷い環境だが開戦直前になって改善がされ、創設当初の最も酷い時から極めて良好に転じている。


 特設監視艇の親玉として警戒線の一区画を統括する大型艦が配置された。主に貨物船を徴発した特設艦が充当される。しかし、貨物船の徴発は前線輸送に影響を及ぼした。ここは老齢の軍艦を訓練艦と変更した上で増備に充当する。特に重要度の高い関東の遠洋では装甲巡洋艦、防護巡洋艦が置かれた。どちらも建造から数十年が経過している。とても最前線の戦闘に耐えられないが、腐っても軍艦のため、練習艦には適した。雨風から逃れられるだけでもありがたい。


 鹿島沖では旧装甲巡洋艦(現練習艦)『八雲』が母艦だ。20cm連装砲など武装の大半は撤去される。必要最低限の自衛として高角砲、機銃しか持たなかった。外から見える範囲は変わらない。外から見えない艦内の設備は改修で旧式から主流に換装された。なおも古さは否めないが、装甲に守られながら就寝できる。漁船で風・波・雨に曝されながら寝るのとは大違いだ。そして、特設監視艇の人員も交代制が導入される。一定期間の勤務を終えると母艦へ戻り、交代の人員に引継ぎし、数日の休養を挟んだ。


「もし敵艦と接触したら、どうします?」


「いの一番に通報する。平文でいいから無線で呼びかけるんだ。信玄丸が沈んで本土の民が救われるなら、両腕を振り上げて万々歳を叫ぶさ」


「せめてもの抵抗で13mmを撃ちましょうぜ。敵兵1人でも道連れしましょう」


「自分の7.7mmも忘れないでください。あと、アジが釣れました!」


 最前線の最前線とは異なり、敵の真正面には配置されない。環境が過酷は過酷でも大半は暇が占めた。天候が荒れない限りで神経を尖らせ、時折は雑談に興じる。時には贅沢を得るべく釣りに集中した。日本本土とアメリカ本土・ハワイは太平洋で隔絶され、そう易々と艦隊を差し向けることはできないだろう。


 他にも、精鋭空母機動部隊がアメリカ海軍太平洋艦隊を撃滅したことは広く知られた。太平洋艦隊の再建には最低でも1年を要する。再建しても南方地帯の奪還に注力するに違いなく、わざわざ、日本本土まで艦隊を送るのは徒労を極めた。


 しかし、最悪を想定した覚悟は引き締まる。特設監視艇の武装は13mm機銃が1挺か2挺の低火力だ。対空戦闘が精々の武装であり、対艦戦闘は以ての外である。駆逐艦相手でも豆鉄砲のため、接敵した場合は通報が最大の抵抗手段だった。ただし、大型の監視艇は比較的に充実している。陸軍から供与された迫撃砲や37mm対戦車砲を装備した。海が反動を吸収してくれるため、小舟でも運用可能だが、所詮は舟艇の持ちうる武器だろう。小型だろうと、大型だろうと、無事に静観することは絶望的を堅持した。


 船によっては掻き集められた武器を独自に装備する。この船には予備と称し九二式七粍七機銃を備えた。イギリスの旧式ルイス軽機関銃をライセンス生産している。7.7mmの対空機銃扱いだが、兵士が携行できる点から、せめてもの悪足掻きに加えた。


「アジを釣るには小舟で間に合う。マグロを釣るには砲艦じゃないといけないらしい。今日も元気そうに煙を出している」


「俺たちは小魚で結構じゃないか。デカい魚を釣っても食い切れんよ」


「一旦本土に戻り竹竿と紐を貰えたら、何とか小魚程度なら干せますが」


「そうか、会原は漁村出身か」


「えぇ、魚の保存法はよく知ってます」


 民間漁船では心許ないという問題は常に付き従う。安価で数を揃えられることを前提に据え、本格的な沿岸防護を担える小型艦を志向した。丸急駆逐艦よりも小さくし、約半年の期間で完成することを目指す。その規模から広義の『砲艦』に含まれ、河川警備から輸送船団護衛まで投入された。その砲艦の一部が沿岸警備と称して黒潮部隊と親潮部隊に参加している。


 後ろの方で食糧確保の釣りに勤しんだ男が合流した。彼は新米兵士で大砲屋を志したが、成績が振るわなかった都合で特設監視艇に回される。海軍内の一般的には閑職とレッテルを貼られた。本人は挫けることなく、戦場はこれ以上に過酷と理解する。本土には米軍の指を一本も触れさせはしないと覚悟を改めた。


 また、彼は田舎の漁村出身であり、食料確保の重役を担う。幼少期から釣りを嗜んでおり、腕前は漁師に匹敵した。内陸で生活した兵士よりも身体は丈夫である。激しい雨風を気にしなかった。この船は茨城と千葉の沖合に置かれ、運が良い時はアジやイワシと言った小魚が釣れる。大きな船で釣りの設備が整っているとブリにマグロも釣れた。


 一定量の携行糧秣が配布されるが、やはり、新鮮な魚を食する以上の贅沢はない。


「む、スコールの気配だ」


「来そうですかね」


「あぁ、ねちっこく纏わりつくような空気は局所的な雨の前触れだ。海軍の気象予測は世界一だが、局所的な予測は実際に触れて見ないとわからない。奴さんが攻撃しにくるなら、艦載機を飛ばすに苦労するだろうよ」


 ベテランの艇長は海の男だった。己の感覚から局所的なスコールを予測する。自然の脅威は恐ろしく、大和を除いた艦艇はあっという間に揉みくちゃだ。作戦行動に大きく支障をきたすため、日本海軍は伝統的に気象研究を怠らない。開戦前は国際航路を通る船舶に予測を提供し、的中精度の高さは絶大な信頼を得た。


 しかし、人間が培った長年の経験による感覚は最も鋭い。


「こういうのがあると干せないな」


 悠長な会話に聞こえるだろう。


 いいや、大海で頼りない小舟で敵の襲来を待つのは筆舌し難い苦痛があった。


 話すことで少しでも紛らわせる。


続く

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