第2話 50万トン空母とは【前】

~前書き兼注意事項~

本話は50万トン空母の全容を綴り、セリフは極薄となっています。


さらに、作者が好きに書いている非現実的のロマンの塊であり、現実的で硬派な架空戦記を求める方はブラウザバックを推奨します。


最後に、本作について原則ご意見は受け付けておりません。


以上のこと、ご了承いただけない場合は、本作を読まないことを推奨いたします。


皆様のご理解とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。


~本編~


 50万トン空母『大和』の姿は海軍都市呉にあった。


「山本長官から米本土爆撃に関する命があった。源田参謀は米海軍のハワイ艦隊が動くと思うか」


「彼らは我々の動きをハワイから吊り上げるための罠と見るはずです。それなら、それで、米本土まで一直線で爆撃を行います。自国の都市が爆撃されれば否が応でも対応しなければ、国内における海軍の威信が失墜し、大統領も焦り撃滅を命じましょう」


「普通の空母なら二兎を追う者は一兎をも得ず。しかし、大和には200機の零戦に100機の零式艦爆、50機の白山がおります。白山は温存して艦戦および艦爆を以て本土爆撃を遂行し、敵艦隊を捕捉した際は白山で仕留める。大和にしかできない芸当でしょう」


「そうだ。しかし、本来は基地航空隊と中継する役もあるのだ。完全な百の力は出せないのが悔しい」


 50万トン空母は護衛艦と一緒になって一個艦隊を組み、その艦隊司令官は山口多聞中将が務めている。航空主兵に舵を切った大日本帝国海軍において、真っ当に空母を操って敵を撃滅できるのは山口多聞ただ一人なのだ。すでに猛将と知られて選抜された兵士には伝統的な「月月火水木金金」の猛訓練を課している。そのため、兵士からは「人殺し」と呼ばれた。


「大和建造には八八艦隊と扶桑型など戦艦を犠牲にしました。運悪く恵まれなかった戦艦のためにも、この戦は勝たねばなりません」


「本艦の建造に際して凄まじい勢いで資材と金が消えた。完了し切った今でこそ幾らかの余裕が生じているが、その余裕を食いつぶさぬよう、私も頭を働かせるよ」


 会話を聞いているだけで50万トン空母『大和』がいかに化け物であるか理解できる。とは言え、具体的な数値を挙げないと想像は難しく、神の視点を以て大和の全貌を以下に記した。


【50万トン空母『大和』】


全長:609m

全幅:91m(部分的なせり出しを含めると100m弱) 

排水量:50万トン以上

速力:最大20ノット


艦載機

最大の最大は単発機換算で約1000機だが、洋上基地思想のため原則満載しない

・零式艦上戦闘機 200機

・零式艦上爆撃機 100機

・白山艦上重爆撃機 50機


副砲

10cm連装高角砲100基

88mm単装高射砲50門

37mm高射機関砲80門

20mm高射機関砲200門

その他予備機銃多数


以上


 特筆すべきはその大きさであり、四発の重爆撃機がすっぽり収まる。全長も609mと長く重装備の艦載機は易々と離陸でき、着艦も制動し切れないで海に落下することはあり得なかった。横幅も91m確保されているため単発機は2機同時発艦が可能である。


 この巨体のため内部の格納庫も馬鹿げているが、可能な限り艦載機を詰め込みたいため、艦載機は概して主翼を折り畳む機構を装備した。したがって、単発機の零式艦上戦闘機から双発機の白山まで、主翼を折り畳んで格納されている。


 巨体を敵弾から守る装甲は空母としては重装甲に施された。飛行甲板自体は資材節約のため木製である。ただし、飛行甲板の下には厚い装甲が張られ、500kg徹甲爆弾の貫通を許さない。最も警戒すべき潜水艦の魚雷に対しては両舷にバルジを設け、中には緩衝材となる木材を入れ込んだ。浮力の確保と防御力の確保を両立させている。また、直接的に防御力に繋がらないが、本艦は日本海軍にしては応急修理も充実される。被弾前提の運用が強いられるため、応急修理要員を多く確保した。彼らは艦内のブロックごとに配置することで、被弾時に迅速で効率的な応急修理を図る。


 本艦が都合の良い的であることは対空防御も同じだ。したがって、対空防御は比類なき重武装のハリネズミと化している。日本人の体格問題から従来の八九式12.7cm連装高角砲から最新の九八式10cm連装高角砲を選択した。本艦に張り巡らすために数を確保することが前提になり、九八式は八九式と部品を共通化して生産性を確保したている。それでも、本艦以外向けの数が不足してしまった。やむを得ず、八九式が改良を続けて運用される。九八式以外にはドイツから88mm高射砲を輸入しコピーした九八式88mm高角砲を装備した。言わずもがな、あのアハト・アハトであり優秀を誇る。対空機銃はドイツ製37mmをコピーした37mm高射機関砲と同20mmをコピーした20mm高射機関砲を有した。


 これだけの巨体を動かす機関はドイツから技術導入した艦本式ディーゼルである。主流の艦本式タービンに比べて信頼性で劣るが、ディーゼルは航続距離を長く確保できた。まさに移動要塞の本艦に適しても、開発には血反吐を吐くような努力が注がれる。当初計画した30ノットは諦め20ノットに抑えることで何とか動かせる範囲に収めた。艦本式ディーゼルは本艦のみの一品限りの逸品生産である。大量生産はもちろん予備部品を除いて少数生産すらせず、整備も本艦に絞り込むことで辛うじて成立した。


 以上のザックリとした概要から、とにかく馬鹿げた本艦の建造は途方も無い月日に労力、資材、金が費やされている。元々は八八艦隊計画が実現可能背に乏しく、金田俊太郎中佐(当時)が『50万トン戦艦』という、八八艦隊代替案を世に送り出したことに始まった。金田中佐は「大艦隊を作れないなら、超巨大な戦艦1隻を浮かべればよい」と述べる。確かに、幾つも戦艦を建造するよりは大戦艦1隻を用意した方が安上がりに済んだ。彼の言うことは間違いでこそなかったが、50万トン戦艦試案が八八艦隊以上に突飛抜けている。


 しかし、当時の貧乏国家では八八艦隊も無茶苦茶なため両案ともに採り難かった。八八艦隊の部分採用が優勢になる。いいや、既に対立が見え始めた米国は八八艦隊に匹敵する大戦艦を大量に建造するはずだ。八八艦隊の全面か部分か関係なく採用しては勝ち目は薄いだろう。どうせなら、50万トン戦艦に賭けてみるのも面白かった。


 50万トン戦艦は酔狂で練られたのではない。太平洋の波浪に影響を受けない設計が組まれ、計算上では余程の大荒れでない限りは微動だにしなかった。よって、主砲を百発百中の精度に高められ、米海軍が大艦隊を押し立てた場合は圧倒的な砲の数と高精度で撃滅する。


 ついに、採択されてしまった50万トン戦艦計画に軍縮の波が立ち塞がった。戦艦の保有比率にメスが入る。しかし、日本海軍は旧式戦艦を解体することで難を逃れた。というのも、八八艦隊は廃案に追い込まれて長門型は生まれることなく、扶桑型2隻は練習艦へ各下げの後に解体が約される。伊勢型戦艦は欠陥が見つかったと中止した。つまり、日本海軍の戦艦は金剛型と練習艦扱いの旧式戦艦しか残されない。


 各国は日本の大規模な軍縮と大戦艦建造の不穏な噂を突っついた。もっとも、確固たる証拠と言う証拠が無い。ましてや日本側から「日本はこれだけ縮小したのだから、英米も戦艦を縮小すべきである」と叩きつけられた。日本の主張は認められるとアメリカはコロラド級2隻、イギリスは新戦艦(ネルソン級)建造を放棄することで合意される。


 50万トン戦艦は条約締結時点で全く完成していなかった。そもそも論で「存在しない」とすることで回避している。たった一人の軍人が提示した試案である以上は証拠を掴めるわけがなかった。ただし、戦艦として建造するのは条約発効により厳しくなった。失効を待っては間に合わない。やはり、八八艦隊を押し通すべきだったと悔やまれた。ここで急速に勢力を増した航空主兵論が登場し、巨大な船体を空母へ転用する「空母化」を提案する。


 なるほど、空母なら大量の主砲と副砲が不要で資材と金は僅かでも浮いた。とは言え、空母自体が世界でも希少な頃で懐疑的な意見が多い。大艦巨砲主義が真っ向から反対したが、戦艦以上のアウトレンジから敵を一方的に叩ける点は魅力的だ。そして、何よりも敵と同じ戦法で勝てるわけがない。仮にアメリカ海軍と艦隊戦を演じる舞台が用意されても、圧倒的な物量の前に粉砕されることは目に見えた。敵が持たぬ兵器で出し抜くことが勝利の鍵である。


 もう始まってしまった建造を終わらせるには空母化以外に道は無いのだ。ただし、単純な空母とすることはしない。50万トン空母という名の洋上航空基地を為して陸地の基地航空隊を中継させた。また、本艦にも双発爆撃機を搭載してアウトレンジ攻撃を磨き上げる。


 50万トン空母の艦載機はどのような物か見て行こう。


後編に続く

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