第24話 MO前段作戦

 MO作戦始動を前にして前段作戦(形成作戦)が行われた。ニューギニアの連合国軍拠点を破壊する下準備が行われる。まず、ラエとサラモアを発した海軍陸攻隊と陸軍爆撃隊がブナ爆撃に向かった。陸海軍の仲は悪いのが一般的だが、ニューギニアにおいては例外である。なぜなら、戦場を共にしているため、苦楽を共にして連携意識が自然に生まれた。


 ブナにはアメリカ軍とオーストラリア軍の飛行場が存在する。ポートモレスビーと合わせて大規模な航空戦力と評した。海軍基地航空隊の一式陸攻と陸軍基地航空隊の百式重爆が出撃する。護衛戦闘機は零戦と一式戦の混合が組まれた。前者が重戦闘機的で後者が軽戦闘機的である。


 ブナに対する航空爆撃が行われている間にミルン湾に対する奇襲作戦が行われた。なぜ、ミルン湾なのかと言うと、米軍の水雷艇基地が整備されている。飛行場を建設する前に魚雷艇基地を整備した。日本軍の輸送船団を奇襲して上陸を未然に防ぎたく、実際に海軍は上陸船団をビスマルク海を通る航路を採用する。もっとも、最近は水上機基地から護衛機が付いた。


 ブナが爆撃を受けていることを知るが、ミルン湾の米兵は油断し切る。


「ここに日本軍は来ない。駆逐艦1隻もないんだからな」


「だが、ブナが爆撃を被っている。こいつは大作戦が始まったんじゃないか?」


「まぁ、それはあり得るか。あいにく、俺達はボート漕ぎだ。目標は輸送船が精々だろう」


 ニューギニアに展開する兵士は熱帯特有の高温多湿に悪戦苦闘する。彼らの魚雷艇は高速で鳴らすPTボートのため、PTボートで海を駆け回りたい気持ちがそこら中で確認された。海水を被って風を切ると存外気分が良いのである。


 もちろん、実戦は一定の緊張を余儀なくされたが、日本軍の輸送船団は非力な駆逐艦と非武装の輸送船で構築された。特に魚雷艇を封じる護衛艦がない。よって、彼らは楽に雷撃を仕掛けた。


 突如として耳に入る爆発音が余裕を崩壊させる。


「ほ、砲撃だぁ!」


「そ、そんな馬鹿なことがあるか!魚雷の調整で事故ったんじゃないのか!」


「敵襲!敵襲!」


 内陸の方で爆発音が聞こえたかと思えば「砲撃」との報告も入った。誰もが信じないで魚雷の調整ミスによる事故と思うが、直後に見張り台の兵士が絶叫を挙げ、一様に海を見る。


 そこには多数の水陸両用戦闘車両と上陸用舟艇があった。


「ワレ奇襲に成功セリ!」


 ミルン湾に突入したのは大日本帝国海軍陸戦隊である。日本海軍がイギリスの海兵を倣った。装備は大半を陸軍から融通してもらったが、海軍らしい発想を繰り出している。特設巡洋艦『浜岡丸』と『池谷丸』から発した奇襲兵器は、ミルン湾米海軍魚雷艇基地に奇襲攻撃を成功させた。


 余談だが、特設巡洋艦は日本海軍の仮装巡洋艦とされる。海軍は大和建造で軍艦の大量建造が難しくなった。そこで、商船を徴用する仮装巡洋艦に注目する。仮装巡洋艦は新造の軍艦に比べ性能は劣った。しかし、安価で短期間に戦力を揃えられる強みは無視できない。


「武装大発の支援が受けられる!全車突撃せよ!」


 その奇襲兵器は大日本帝国海軍の特二式内火艇だ。これは水陸両用車両のため水上航行から陸地走行に切り替えられる。陸戦隊は陸軍の装備を運用するが、戦車や装甲車も含まれた。海軍は既存車両の水陸両用改造を考える。アメリカ軍のLVTを参考にして開発を進めた。そして、完成した特二式内火艇の元は九五式軽戦車であり、水上航行用にフロートを装備している。


 当初は着脱式にして上陸後に切り離す予定が面倒と判断された。よって、フロートと一体式の車体となる。フロート自体は薄い鉄板だが実質的な空間装甲を為した。元の九五式軽戦車の宿命である軽装甲は空間装甲で強化される。37mm以上の対戦車砲には耐えられないが、米軍が広く使用する12.7mmのM2ブローニングの貫徹を許さなかった。機銃弾はフロートにより弾頭を潰されて貫徹力を失う。


「一兵たりとも逃がすな!」


 主砲は37mm戦車砲に変わりなかった。いいや、新式の一式37mm戦車砲に変更されている。追加された榴弾を撃っては敵兵を薙ぎ倒した。さらに、主砲同軸7.7mm機銃を有する。対空機銃に駆け込む敵兵をハチの巣にした。完全に特二式内火艇の奇襲が成立している。とは言え、魚雷艇基地を制圧するには兵の数が足りなかった。完全に制圧するには歩兵が必要で陸戦隊を満載した大発が突入する。


 大発の中には武装大発と呼ばれる、簡易的な砲艇が少数見受けられた。陸軍の九六式15cm榴弾砲を装備して上陸支援に使われる。砲撃時の反動は海が受け止めるため、意外と精度は良好であり正確に基地施設を叩いた。また、魚雷艇対策に旧式化した13mm機関銃も装備している。幸か不幸か、特二式内火艇の奇襲効果が発揮されて魚雷艇の発進は抑止された。13mm機銃は敵の機銃掃射を許さない逆掃射を行っている。


「突撃ぃ!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 特二式内火艇が砂浜を制圧して安全を確保すると、大発が乗り上げて陸戦隊の歩兵を放出した。アメリカ軍とオーストラリア軍は満足な守備兵を置いていない。小銃を手に取る間もなく陸戦隊に撃ち抜かれた。ニューカレドニアに代表される補給線破壊が弱体化を強いる。


 しかし、日本海軍陸戦隊は内陸部まで侵攻できなかった。米豪軍の反攻に備えて増援要請を暗号化して送る。2時間後に洋上で待機していた特設巡洋艦が突入した。特設巡洋艦は万が一に備えており、主砲の14cm砲と副砲の8cm砲が内陸を睨んでいる。まだまだミルン湾に増援を派遣する必要性を確認した。陸軍は余剰戦力の一木支隊約900名を送り込む。


 さて、ブナ飛行場を破壊してミルン湾を制圧した。


 これでMO作戦の用意が整う。


=大和=


 大和はトラック諸島にて電探の試験を行った。不発魚雷の被雷(右舷バルジへの突き刺さり)については、工作艦『豊橋』が付きっきりでバルジを取り換える。柔らかい金属と木材で構成されるため作業は数日で完了した。


「連合艦隊三和参謀より、MO作戦参加要請が入っています」


「もちろん、参加する。フィリピンの戦いで新兵は叩きあげられた。応急修理も特に気にしていない。全力の戦闘が可能な本艦が参加しない理由があるか」


「ありません。艦載機も大幅に刷新され、偵察専用機も頂きました」


 全力戦闘が可能であると太鼓判を押された以上は、MO作戦に参加しない理由が見つからない。上層から命令されれば従わざるを得ないが、大和に限って山口多聞中将に広範な裁量が認められた。米太平洋艦隊撃滅の大戦果が発言力を強め、連合艦隊は命令という要請の色が濃い。


「山本長官は本艦を温存したいそうですが」


「長官は冗談を仰る。見敵必殺の精神で大和はハワイに突入する覚悟だ。臆して生きるよりは戦いて散るが本望である」


 いかにも山口中将は猛将なのだ。ハワイに突っ込んで撃沈される方がマシなのは本音だが、万に迫る数の兵士を鼓舞する方便が込められ、今までの戦いを経て全員が闘志を燃やして士気は最高潮に達している。


 ただし、50万トン空母考案者でもある山本五十六連合艦隊長官は温存の意思を漏らした。大和は艦載機を刷新したばかりの不安がある。不発弾と雖も被雷は不吉の前兆に捉えて心配しきりだ。唯一無二の切り札のために失いたくないのだろう。


「勝たねばならん。勝負に出し渋って負けるは大和男児でない。長官のお心遣いは染み入るが、大和は不沈艦であり、ニューギニアの戦いを結するのだ」


 結局は山口多聞中将の鶴の一声だ。


 しかし、大和は遂に米機動部隊と直接対峙することになる。


続く

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