第21話 ドゥーリットル隊本土空襲を阻止せよ!

「敵機は帝都に向かって低空を飛行している。我々は初動の迎撃に徹し、本格的な迎撃は木更津帝都防空隊に任せる。ホ301とマ弾の使用はぶっつけ本番だが、自機をふっ飛ばしてでも、敵機を落とせ!」


「了解!」


 新兵器の実射試験で離陸待機中の陸軍航空隊は、突如として入った緊急通報を受け、命令を待たずに独断で発進した。新兵器を敵機へ使用して確かめる。本来の試験を迎撃と同時に行うのだ。敵機は空母から爆撃機を発したようであり、艦隊は取り逃がしても、爆撃機の針路は掌握している。


 茨城県と千葉県の遠洋に展開する黒潮部隊と親潮部隊が全滅覚悟で通報した。その正体は日本本土空襲を図るハルゼー機動部隊である。敵地に向かうため新装備のレーダーを携えるが、小型漁船は最初期型のレーダーに映らなかった。微かな反応に不具合を疑い、肉眼による確認を挟んでしまう。これで特設監視艇に通報の時間的余地を与えた。


 ハルゼーが気づいた時には通報が届いている。慌てて駆逐艦が排除を開始し、艦載機も機銃掃射を行った。ドゥーリットル隊のB-25は既に発進を完了している。敵の監視部隊を排除して直ちに退避した。


 ドゥーリットル隊は天候に恵まれない。気象観測班の予測は外れて曇天だ。分厚い雲が阻み低空を飛行せざるを得ない。米海軍は雲の切れ目から攻撃を仕掛けるが、あまりにも雲が厚く広がった。さすがに爆撃機の音はよく聞こえ、爆沈覚悟で突撃する装甲巡洋艦『八雲』がB-25を視認する。彼女は「敵は本土空襲を仕掛けている」との報告を最後に力尽きた。


「横須賀方面に向かった機は防空砲台に任せる。とにかく、帝都には一機も通すな!」


 全機が無線機を標準的に装備する。陸軍は無線機を装備した上の小隊単位による空戦で威力を発揮した。現在は陸海軍問わず大半の隊が無線機を搭載する。本土で念入りに調整されて雑音は殆どなかった。明瞭な意思疎通によって侵入中の敵機の針路を常に確認できる。


「飯盛機、敵爆撃機を視認しました!」


「よし、隊形を組み直せ。2+2の4機でいく!」


「一番槍行かせてください!」


「いけ!時間は限られている!」


 ドゥーリットル隊のB-2516機は8機ずつに分かれた。一方は帝都東京を目指し、もう一方は海軍都市横須賀を目指す。当初は無差別爆撃を行う予定がドゥーリットル中佐が強硬に拒絶した。したがって、折衷案に横須賀の海軍施設爆撃に変更される。事前の諜報では碌な防空装備が無いと聞いた。残念ながら、それは偽情報であり、堤防に偽装した防空砲台がある。ドイツ製の高射砲を多数導入した日本はコピーした75mm高射砲と88mm高射砲が空を睨んだ。国産の12.7cm高射砲と15cm高射砲が自動演算装置と共に敵を待つ。


 さて、帝都侵入を図るはドゥーリットル中佐が指揮する本隊だ。曇天が災いして捕捉され易い低空飛行は、最悪の状況と歯を食いしばる。周囲警戒に精を出す名ばかりの機銃手が「敵機来る!」と叫んだ。すかさず、防弾ガラス越しに確認する。あの機体は手元の識別表に無い新型と見えた。


「日本の新型だっ!」


「気づくのが遅かったな!」


 主翼から突き出す機銃が光った。その閃光は大口径砲らしい眩いものである。光った直後に外縁部のB-25の主翼がポッキリと折れる。そのままキリキリと墜落していった。


「これはいい機関砲だ。垂れるのは腕で補うしかない」


 2+2の4機体制で突っ込むは陸軍の二式単座戦闘機『鍾馗』である。アメリカ軍の多種多様な爆撃機を迎撃する、インターセプターにして局地戦闘機と据えられた。航続距離を犠牲に速度・上昇力を重視している。陸軍戦闘機と言えば一式戦『隼』が浮上した。隼隊はインド国境まで連合国軍の戦闘機を駆逐し、究極の軽戦闘機として後世に語り継がれる。


 しかし、海軍の零式艦上戦闘機が重戦闘機に寄った。零戦は島嶼部の戦闘から機動部隊決戦まで活躍している。陸軍は「重戦闘機の運用も考えるべき」と考え、局地戦と称し二式単座を計画した。開発担当は隼で実績のある中島航空機であり、三菱重工業が海軍に偏るため、中島航空機は陸軍に偏っている。


 高速と上昇力は機体設計だけでは得られない。1000馬力級エンジンは非力で1500馬力を要求した。手っ取り早いのは火星を採用することであるが、火星は既存機の改良で生産が追い付かない。また、中島の自社製で纏めた方が整備マニュアルも作り易かった。よって、自社製の空冷星型複列14気筒1800馬力『護』を選択する。火星に並ぶ発動機だが問題が多く、同じ空冷発動機を作るBMW社の助力を得て解決した。


 機体設計は自社で完結する。大馬力エンジンに優秀な機体本体の組み合わせは良好な成績を収めた。最高速は600kmを優に超えて上昇力は零戦と隼を上回る。ただし、機動性は劣悪と評された。速度と上昇力に物言わせた一撃離脱戦法を厳守する。採用前から生産に入ると本土防空へ優先供給され、余剰を前線の航空隊へ回した。


「銃座が動いてない。まぁ、いいか」


「暴発したら骨拾ってくれ。頼んだ」


 実弾射撃を行う試験は数種類を同時並行している。先の機体は大口径機関砲を装備した。現在進行形で銃撃を試みる機は武装自体の変化こそなかった。機銃に込める弾が新型なのだろう。


「マ弾の威力を教えてくれ」


 敵機の銃座が動いていないのを確認し、思い切って敵機と敵機の間を縫った。機首と主翼の機銃が同時に光り、曳光弾が綺麗に吸い込まれる。熟練パイロットの狙いは正確無比を誇り、脆弱なエンジンに直撃した。一撃離脱戦法のためすぐに反転せず降下を続けるが、後方から流れる爆発音から撃墜確実を知る。


「すごい…アメリカ製爆撃機を一撃か。マ弾は海軍さんにも提供すべきであるよ」


「良い調子だが、そろそろ味方が到着する。弾も燃料も少ないから、無理するなよ」


 B-25を3機撃墜したが限界が近かった。というも、飛行場近辺での飛行を想定している。弾薬と燃料は本格的な戦闘用から減らされた。元々が局地戦闘を主とすると長時間は耐えられない。敵機に撃墜されるならともかく、燃料切れで墜落するのは恥ずかしかった。ただ幸いなことに緊急通報を受け取った本土防空隊が到着する。


「B-25と思われる敵爆撃機を3機撃墜した。お上にはホ301と12.7mmマ弾は有効と報告しないといけん。まったく、アメリカ軍もとんでもない反撃を考え付いたものだ。しかし、我らの大地は汚させん」


 鍾馗隊が抱える新兵器は2種類だった。


 大口径機関砲と称するは、ホ301という40mm機関砲である。なお、弾の発射原理から機関砲より、ロケット砲やグレネードランチャーに分類された。発射原理のおかげで反動は弱くて主翼に装備できる。弾道は典型的なしょんべん弾のため、直撃させるのは至難の業だ。しかし、直撃した際の破壊力は圧倒的であり、頑丈な米軍機を一撃で粉砕する。


 12.7mmホ103に込まれた弾はマ弾と呼ばれる炸裂弾だ。12.7mmは傑作航空機関銃として、陸軍から海軍まで幅広く使われている。中口径のバランスの良さが強みでも、相手が爆撃機では威力不足が露呈した。先も述べたが、米軍爆撃機は極めて頑丈を誇る。何度も銃撃を繰り返すか、敵兵を撃ち抜かなければ、なかなか撃墜できなぁった。よって、海軍はエリコン20mmを改良した長砲身20mmを打ち出す。世の中は20mm不要論が叫ばれがちだが、敵機を一撃で粉砕可能な大威力は魅力的だ。


 陸軍も20mmの導入を決めるが、12.7mmで20mm並みの威力を欲する。新しい弾に炸裂弾を開発した。ドイツから技術導入するが、機械式信管は過敏で事故が多い。信管は自力で開発せざるを得なかった。技術者の尽力で空気式信管が開発され、高い信頼性から事故は激減する。炸裂弾の威力は凄まじくあり12.7mmに20mmと同等の破壊力を与えた。現在は試作品の生産に留まるが、帝都防空戦闘から急ぎ大量生産に入り、同じ12.7mmを使う陸海軍で仲良く運用する。


 かくして、黒潮部隊と親潮部隊の献身と鍾馗隊の独断専行が功を奏した。帝都侵入を図ったB-25は全機撃墜され、複数名の敵兵を捕縛することに成功している。横須賀方面は軽く被害を受けたが軽微であり、防空砲台と防空隊の活躍によって逃亡は許さなかった。


続く

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