第11話 大和の一撃!富士弾の威力恐るべし!【後】

 白山隊の中でもトップクラスの技量を有する、西木機は第四小隊に振り分けられた。


「先端の敵艦は第一小隊が行ったから、対空砲が元気なアレをやる」


「敵機無し。離脱する時にばら撒くが」


「頼む」


 彼は対空砲が元気な戦艦を選択する。自分達が危険を冒すことで、他の小隊に爆撃を通し易くした。位置を合わせるため、一旦は通過と旋回を挟む。それから、3機の白山が直線的に並んだ。第四小隊は敵艦の前部・中央部・後部を満遍なく爆撃する。前部主砲と後部主砲を無力化し、欲を言えば、主砲弾薬庫を誘爆させたかった。轟沈せずとも、主砲の全壊を直すには相当の期間を要する。あのアメリカだろうと最低で半年はかかるはずだ。残りの敵艦中央部への爆撃は艦橋を破壊して指揮能力を奪う。


 双発機の直線飛行は対空砲火に絡め取られる危険が高まった。しかし、彼らは白山の装甲を信じて突貫する。白山は被弾上等の戦闘を担うため防弾板と防弾仕様の燃料タンクを備えた。敵艦側はかの有名な40mmボフォースを装備していない。この時は76.2mm高角砲と12.7mmブローニングが精々だった。単発の艦爆ならともかく、重艦爆の白山は止められない。


「よし…」


 覚悟を決めて白山隊第四小隊は敵戦艦に緩降下爆撃を開始した。緩降下爆撃と急降下爆撃の違いは一概に定まらない。なぜなら、その国の海軍で基準が異なるのだ。日本海軍においては、角度45度を境界線に定めている。角度が45度以上を「急降下爆撃」とし、角度が45度以下を「緩降下爆撃」と設定した。


 白山は急降下爆撃にも対応し、ダイブブレーキを装備する。ただ、1,500kg爆弾の富士弾は緩降下爆撃が絶対と厳しく制限された。白山による急降下爆撃は500kg爆弾、または250kg爆弾を装備した際に行われる。800kg爆弾は水平爆撃か緩降下爆撃に回った。


 西木らパイロットは自機を包む対空砲弾の炸裂、飛び交う機銃弾を目の当たりにする。思わず、額に冷や汗が浮かんだ。月月火水木金金で幾度となく繰り返した動きだが、実戦と言う非日常に身を置けば勝手に身体が機能する。しかし、彼らは零式射爆照準器を通じ敵艦を捉えた。幸いにも、敵艦の回避機動は鈍く偏差は容易い。


「投下、投下、投下!」


 緩降下爆撃の体勢から高度1000m以上を保持し投下した。富士弾は規格外の破壊力故に危険範囲が著しく大きい。原則として、1000m以上を確保して機体を持ち上げた。仮に1000mを切ると炸裂により生じた衝撃波に巻き込まれかねない。


 機体を慣れた手順で引き起し、一目散に離脱を図った。何もない状態で最高速は600km/hに迫り、爆撃後の離脱は艦爆と艦攻よりも高速である。仮に敵機に追われている場合でも、直線速度はアメリカ海軍主力機F4Fワイルドキャットを圧倒した。


 しかし、数秒後には凄まじい振動に襲われる。ビリビリビリッと防弾ガラスの風防が震えた。左右の主翼もブルブル動いており、機体が持ってくれるか心配が生じる。それでも。白山の頑丈さを信じて離脱に集中した。


「どんな感じだ! 見えるか!」


「辛うじて大爆発しているのが見えた。だが、細かいことまではサッパリだ!」


「わかった。第四次攻撃隊に確認を任せる」


 全て直撃したのか判断しかねるが、最低でも1発が刺さったことは間違いない。富士弾の一撃は経験したことがない威力を発揮した。炸裂と同時に発生する衝撃波も尋常じゃない。高速で離脱中の白山を震わせるのは相当のことだ。後部銃座につく機銃手に戦果を聞いても、彼もあまりの衝撃によって、敵艦の様子を捉え切れていない。


 第四小隊の標的になったのは『テネシー』だった。キンメル艦隊の中では最も新しい戦艦である。20ノットの速力以外はサウスダコタ級に匹敵した。しかし、1.5tの徹甲爆弾は想定していない。艦前部と艦後部へ投下された富士弾は、それぞれ一番砲塔と三番砲塔に直撃した。


 基本的に主砲塔の装甲は厚く施されている。もっとも、富士弾は自身の貫徹力よりも大重量で装甲を食い破った。砲弾の重量で装甲を無理やり破ることは珍しくない。主砲塔の内部へ突入した富士弾は遅延信管が作動し、辺り一帯に最悪の破壊の限りを尽くした。第一砲塔と第四砲塔は仲良く吹っ飛ぶが、弾薬庫は重装甲に守られている。テネシーの重装甲は辛うじて主砲弾薬庫の誘爆を防いだ。


 残念ながら、致命的だったのは艦中央部を狙った富士弾である。これが逆にテネシーにとって不運となった。中央部を狙った富士弾は右舷の76.2mm高角砲を押し潰している。装甲は薄いため勢いそのまま二番砲塔の弾薬庫側面に到達した。甲板装甲も厚めの方で二重に施されている。いいや、富士弾の貫徹力と重量の前に遠く及ばなかった。二番砲塔弾薬庫側面で炸裂し内部の砲弾は高温に曝される。ついには、砲弾が自爆を開始してしまった。


 二番砲塔弾薬庫の誘爆により弱体化した一番砲塔の弾薬庫が破られる。直接に高温と火に触れた一番砲塔の弾薬も自爆した。こうなると、もはやダメージコントロールは意味をなさない。一番砲塔と二番砲塔の弾薬庫誘爆がテネシーに対してチェックメイトを打った。


 瞬く間にテネシーは真っ二つに割れる。


 爆撃を終えて暇な白山がテネシーの最期を視認した。


「敵戦艦1隻の撃沈確実」


「これで5隻目だな。投弾は全機完了している。確実に沈んでいるのは3隻と認めた」


 白山21機の内で攻撃に成功したのは19機である。2機は投下装置が正常に作動しない故障で諦めた。故障なく投下した19機の内で14機が直撃させる。先述の『テネシー』に加えて、『ネヴァダ』と『オクラホマ』を撃沈確実と判定した。2隻は弾薬庫誘爆と機関自爆に伴う轟沈である。


 残りの『アリゾナ』『ペンシルバニア』『カリフォルニア』は最低でも大破と見た。主砲が全壊したり、艦尾が吹っ飛んだり、など三者三様に大破している。腐っても鯛と言うように、戦艦は相応に堅牢で持ち堪え、何とか沈没を持ち堪えている。


 せっかくの機会の割に戦果を挙げられていない。なんせ、富士弾は1.5tもあり操縦は困難を極めた。さらに、敵艦隊の対空砲火を受けて制約が加わる。最後に敵艦は懸命の回避機動を取るのだ。富士弾を直撃させるのは決して簡単なことではなかろうに。


「第四次攻撃および第五次攻撃の要ありと認む」


 ここは追加攻撃の必要があると大和に要請した。山口中将も一切容赦しないと宣言している。大和が敵艦隊に接近を続けた甲斐があり、第一次攻撃隊が帰投済みだ。第一次攻撃隊は甲板上で給油と給弾を受けている。驚くべきことに、補給を受けた機から発艦して第四次攻撃隊に加わった。なるほど、大和の圧倒的な飛行甲板であるが故に可能な荒業である。第四次攻撃隊は第一次を含んだ。よって、残りの白山(大和居残り組)は第五次に回される。


 かくして、燃料と機銃弾、500kg爆弾を満載した零式艦爆が戦場に到達した。この頃には第三次攻撃隊の白山は全機が退避している。第四次攻撃隊の眼下では『カリフォルニア』が沈没の最中に置かれた。彼女は艦後部に集中爆撃を被り、艦尾は完全に消し飛んでいる。


 よって、辛うじて持ち堪えている『アリゾナ』と『ペンシルバニア』が標的に絞られた。


「これは悪夢だ。悪夢なのだ」


「司令、これは現実であります! お気をしっかり!」


「更に敵機来る!」


「あの島は空母だったのだ。私は日本人を侮っていた…」


 奇跡的にキンメルが乗る旗艦『アリゾナ』は耐えている。彼女は旗艦のため護衛の巡洋艦がありったけの対空砲火を提供した。艦爆隊の攻撃は巡洋艦に吸い込まれている。そして、双発爆撃機による爆撃は1発のみ被弾して艦内で火災が発生した。現在は応急修理要員がダメージコントロールに精を出している。


 しかし、多勢に無勢で傷ついた戦艦2隻に引導を渡す艦爆が殺到した。


「ハズバンド・キンメルはここで終わりか」


続く

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