第10話

私がどうにか出来ないかと悶々と日々を過ごしていたある日、母が私の部屋へとやってきた。


「モア、今度、フルムがサルドア国からこちらへ来てくれることになったの。良かったわね」

「お母様!本当ですか!?フルムお兄様に会えるなんて嬉しいです」


 私の従兄のフルム・ウェルムお兄様。私と十二歳ほど離れていてよく手紙をくれるの。もともと母は隣国、サルドア国の出身で祖母は王太后様なの。父が貿易でサルドア国に行った時に知り合い、結婚したと言っていたわ。


祖母は母を自国の高位貴族と結婚させようとしていたけれど、父の商才に目を付けて父なら両国と深いつながりを作ってくれるだろうと母との結婚を許したみたい。ちなみに母はサルドア国の第六王女。兄弟が多いため重要視されることもなく恋愛結婚出来たのだとか。


私にも継承権はあるけれど、第三十九位だったかしら?ほぼ無いわ。フルムお兄様は大きくてクマさんみたいでとても優しくて大好きなの。フルムお兄様は母の姉、第四王女の嫁ぎ先であるウェルム侯爵家の次男。


 ウェルム侯爵家は織物を主産業としていて我が家を通して他国へと輸出しているの。フルムお兄様は次男なので現在、侯爵家で織物事業の手伝いをしている。


「お母様、フルムお兄様は今回旅行でこちらに来るのですか?」

「違うわ。モアの勉強を教えにきてくれるのよ?フルムは厳しいからしっかりと勉強しなさい」

「何故お兄様が勉強を教えるためにくるのですか?」


私の疑問に母が答える。


「この国でモアに教師を付けるとモアの容姿を噂する人がいるかもしれない。なるべくモアの情報を漏らさないためよ」

「……お母様っ。有難うございます。でも、お兄様は長期間こちらに来て大丈夫なのですか?」

「ふふっ。フルムの心配をするなんて優しい子ね。フルムはダミアンの仕事の補佐をしながら貿易の勉強をすることになっているのよ。

その合間を見てモアの教師をしてくれるの。将来は領地で侯爵の補佐をするより、ダミアンの元で働きたいそうよ。各国を回って織物を自分の手で広めたいんですって」


母は笑いながら話をしてくれたわ。私は嬉しくてフルム兄様が来ることが楽しみで指折り数えて待つようになった。

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