第15話
そうして迎えた王宮でのお茶会当日。
父とフルム兄様は仕事のためお茶会には参加しない。私は母に連れられて王宮の中庭に向かっていた。
この日のために準備は整えられた。眉毛を書き足し、唇を厚ぼったくして既製品の少し大き目のドレスを着て参加する事になった。
メリダは大泣きしながら私の準備をしていたわ。これでもお嬢様の美貌が隠せていないと。型落ちしたドレスを用意したが、母にとっては屈辱でしかないようだった。
本当ならこの国で一、二位を争うほどの裕福な我が家なのに、と。
馬車の中で母はずっと国を罵倒し続けていたのは仕方がないと思う。
因みに、サルドア国へ徐々に資産を移していたので今はラオワーダ国での資産保有は貧乏子爵か男爵程度になっている。もともと貿易を主としている我が家は領地を殆ど持っていないため貿易で赤字を出すと我が家は途端に立ち行かなくなってしまうの。
きっとお父様はこの国で赤字にならない程度しか取引をしていないのだと思う。そして今日のお茶会で我が家の凋落が話題になると決まっているわ。
「ウルダード伯爵夫人並びにモア様到着いたしました」
私達は従者に案内され、王族から一番遠い席に着いた。本来なら爵位の一番低い者が座るのだけれど、私達は気にせずそこに座ったの。そして我が家の凋落ぶりが貴族中に知れ渡っているのか誰も私達の近くには座ろうとしないし、話し掛けてもこない感じだった。
これは好都合ね。
母を見ると母も少し困った顔をしながら微笑んでいる。目は笑っていないけれど。母の事だ内心腸が煮えくりかえっているに違いない。
暫くすると、王妃様と王太子殿下が会場へと入ってきた。王太子殿下のクロティルド様は今年で十四歳。ノア様の三つ上だったはず。クロティルド様の婚約者はまだ居ないのよね。
だけど、公爵や侯爵といった高位貴族に令嬢が多いためじっくりと選んでいるのかしら。前は確かアーデル・メイエル公爵令嬢が婚約者となっていたから実は内々では決まっていたのかもしれない。
私がそう思った理由はクロティルド様の隣の席がアーデル様の席となっているから。公爵家だからかもしれないけれどね。
そして一番気になっているクリストフェッル家の座席は会場の丁度中央といった辺り。
既に令嬢に取り囲まれている様子。彼はこちらに気づいていない様子。
……という事は思い出していないのかしら。
思い出していれば入場した時に何らかのアクションがあっても可笑しくはないもの。
私は不安に思いながらも母と王族への挨拶の列に並んだ。何十人と人が列を成していたけれど、一言挨拶をするとさっと席に戻っているため私達の順番はすぐにやってきた。
「ウルダード家シーラと娘のモアです。本日は王宮のお茶会にお招きいただき有難うございます」
「シーラ夫人、貴女が来るのを楽しみにしていたわ。そちらが娘さんね。……か、賢そうね」
「お褒め頂き有難うございます」
「今日のお茶会を楽しんでいって頂戴」
一瞬王妃様は私を見てあっ、と思ったようだ。母はこんなにも美人なのに娘の私は……という感じね。
くっ、作戦が成功しているとはいえ、態度に出されるとそれはそれでちょっと心が削られるわ。
私達は礼をしてすぐに席に戻った。着席すると同時にお茶会の開催が告げられた。従者達は一斉に各人にお茶を淹れている。
「お母様、お菓子を食べてもいいですか?」
「えぇ、いいわよ?口に合うかはわからないけれどね」
母は何か含んだような言い方をしている。先ほどの王妃様の態度も気に入らなかったのかもしれないわね。でも断っておくけれど、我が家で出てくるお菓子はもちろん一流品なのよ?各国から取り寄せているもの。
「ふふっ。我が家のお菓子も美味しいけれど、王宮のお菓子も美味しいです」
「良かったわね」
私はお菓子を堪能していると、会場はいつの間にやら親同士、子供同士に分かれているみたい。
「お母様、私達も行った方がいいのでしょうか?」
「うーん、そうねぇ。私は仲のいい方達に挨拶だけしておこうかしら。モアはこの中でも幼い方だから変わらない歳の子と適当に遊んでいるといいわ」
「わかりました」
私は母と話をした後、私と同じ歳くらいの令嬢達がいるグループに向かったのだけれど、グループには入れてくれないらしい。
型落ちしたドレスを着ているのは貧乏の子だ、貧乏が移るなんて苛めのような言葉さえ聞こえてきた。仕方がないよね。
私は一人会場の奥に噴水があったのでその場所へ向かった。
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