第14話
「さて、勉強を始める。まずどこまで出来るか見てみよう」
フルム兄様は用意していたようでテスト問題を出してきた。私は記憶を掘り出しながら解いていく。
……うん。結構忘れているわ。改めて解いていくと解けないものね。
自分にショックを受けたわ。
「ふむ。五歳にしては上出来だよ。これから時間は沢山あるから大丈夫!」
兄様はフォローをしてくれ、学院に行くための勉強が始まった。淑女科はあまり勉強が出来なくてもいいみたいなのだけれどね。
「兄様、私は将来侍女か文官になって働いてみたいの。難しいと思う?」
「うーん。文官は学院でも優秀な者しかなれないから相当勉強しなければいけないだろうね。文官になれたとしてもモアの可愛さで周りは仕事が出来ないかもしれないな」
「ふふっ。そんな事はないと思うけど、頑張ってみるわ!」
私はそう言いながら勉強に取り組む。丸一日兄様と勉強、という訳ではなく午前中だったり、午後からだったりと兄様の仕事の都合で教えて貰う時間が違ったりしたが、問題なく勉強に取り組む事ができた。
フルム兄様が居ない時間はアルフと遊んだり、刺繍やマナーの勉強をしたり、図書室から持ってきた本を読む毎日。
そうしている間に二年という月日が流れていた。
私が七歳を過ぎた時に王宮からお茶会の招待状が送られてきた。
「お、お母様。王宮からの招待状が」
私は血の気が引くような感じがした。忘れていた恐怖が蘇ってくる。母に震える手で招待状を渡した。時戻り前の記憶では初めて王宮のお茶会に呼ばれるのは十歳だったのに。
二年も早まっているのは何故?
今日はたまたま母が家にいたので一緒にサロンでアルフと過ごしていたの。毎日勉強ばかりで疲れたわよね?と言われて今日ばかりは甘える様に母と過ごしていたの。執事の持ってきた一枚の手紙。差出人を見て震えた。
「私の記憶では十歳だったのに……」
私がそう呟くと母は少し困った顔をしながら口を開いた。
「きっと私達のせいね。モアの『時戻り』を知った私達はすぐに動き出し、隣国へ移住するように動いて来たのは知っているわよね?」
母の言葉に私は頷く。
「秘密裏に少しずつ動いていたのよ?これでもね。ようやくサルドア国への移住へ目途がついた所だったの。まだモアの事を望んでいるという訳ではないから我が家を引き止めるためのお茶会と言ってもいいと思うのよね」
確かについ先日、父から邸の使用人達に話があった。隣国へ移住するから一緒に隣国へ渡るかこの国に留まって新しい職場を紹介するかと。メリダは家族が居るのでこの国に留まる事を選択していた。
けれど、別の貴族に仕えるより我が家の仕事を手伝っていきたいと申し出があったので職種は変わるけれどこのまま我が家で働く事になったの。使用人に移住の事を知らせたという事はあちらに住む準備は整ったと言う事だと理解はしていた。
まさかここにきて王宮からの呼び出しがあるとは思いもしなかった。いや、我が家を引き止めるために父が王宮に呼ばれるのはわかるけれど、何故私が呼ばれたのか。
人質に取るため?
そう考えると怖くなる。
「お母様。どうしましょうっ」
声を震わせる私を母はそっと抱きしめた。
「きっと大丈夫。そのために時間を掛けて準備していたのよ」
「……そうですねっ。お母様のいう通りだわ」
私は自分を納得させるように何度も頷く。
「さぁ、こうしてはいられないわ。すぐにダミアンとフルムを呼びましょう。これから家族会議を始めるわ」
母はそう言ってから執事に指示をして父の執務室へと向かった。因みに執事は生涯この家に仕えますと家族と共に隣国へきてくれるらしい。
父の執務室に入って母とお茶を飲んでいると父とフルム兄様が帰ってきた。
「王宮からモアにお茶会の招待状が来たというのは本当かい?」
「えぇ、ダミアン。これがその招待状よ」
母は父に招待状を見せる。王宮でのお茶会、五歳から十五歳までの子息・令嬢の交流を目的としているためモア嬢には是非参加をしてほしいと書いてあった。名指しをしているところを見ても我が家を決して逃さないと言っている気がする。
「これは召喚状のような物ですね」
「だろうな。最近ラオワーダ国の事業を縮小し始めて納税が減ってきたせいで気づいたのかもしれんな」
「ダミアン、モアに目を付けられてしまうわ」
「あぁ、そうだな。でも参加しなければ隣国へ渡る事が出来ないだろうな」
「叔父さん、どうしても出席しなければいけないならお茶会の後すぐにモアだけでも隣国へ行かせた方がいいんじゃないかな?エリアス伯父さんの庇護下に入るし安全だよ」
「……そうだな。フルム君の言う通りだ。クラウディア様が孫に会いたがっていたとでも理由を付けて隣国へ向かわせる。
爵位返上の手続きには時間が掛かるだろうからな。モアと少しの間離れてしまうのが寂しいが」
父達はこの二年間の間にエリアス国王や祖母と何度も話をして私達が問題なくあちらに移住できるように手配をしていたみたい。王宮のお茶会後に私だけ先にサルドア国の祖母の所へ向かう事が決まった。
「それにしてもどうしようか。こんなに可愛いモアがお茶会で目立たないようにするのは難しいぞ?」
「そうね、ドレスは既製品の地味な物にして髪型も流行遅れにでもした方がいいわね」
「シーラ叔母さん、それでもきっとモアの可愛さは隠せない。化粧をして誤魔化すのはどうかな?」
「えぇ、もちろんね。メリダが嫌がるでしょうけれどね」
そうして私達は細かな部分まで話し合った。父は私を着飾らせる事を楽しみにしていた分、残念だったようだ。
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