第41話
―誕生祭当日―
二、三日前から各国の使者が王宮へと到着し始める。それに合わせて祖母も久しぶりに王宮へと足を踏み入れた。もちろん祖母は後宮に入り私も侍女としてずっと側にいるの。お茶の淹れ方だって祖母から美味しいと言われるほど上手になったと思う。
マティアス様も祖母が後宮に入ってから毎日王太后の護衛に付いている。私も侍女として働いているのでマティアス様とは休憩時間や仕事終わりにお話をしたり、お茶をしたりするくらい。
今、王都は各国の要人が沢山いるため警備はいつもの何倍も厳しくなっている。私も実家に帰らずに後宮の一部屋で過ごしている。
「王太后クラウディア様、準備が整いました」
公式な場なので勿論お婆様とは呼ばない。私はベールを被り、お婆様の後ろに控える。
今回、侍女長が私と一緒にお婆様の後ろに付いている。私の事を知っているので同じようにベールを被ってくれているわ。私の後ろにはマティアス様と他の護衛騎士が付いている。
お婆様は昼の部に少し顔を出し、夜の部に出席する事になっている。昼の部では私は会場の袂で控えていたわ。袂から見えた会場は貴族が沢山いてとても煌びやかだった。夜は各国の使者と親睦を深めるために母は大忙しかもしれない。
「本日は余の誕生祭、戴冠二十年の祝いに駆けつけてくれた事を嬉しく思う……」
エリアス国王様からの有難い言葉があり、乾杯となった。祖母は国王様夫妻の隣に座ってにこやかに食事をしている。私はもちろん後ろで控えているだけなの。
他国の方が祖母に話し掛けている所を時折私や侍女長に合図をしてワインを注いだり、事前に用意された小さな箱をこっそりと渡したりしている。賄賂!?と思ったけれど、どうやら違うらしい。
王太后と会った記念品程度の物なのだとか。晩餐会も盛況のうちに終わったわ。
この後、各国の使者や王宮に泊まっている貴族達は部屋に戻ったり、サロンで交友を広げたりする時間となっている。
「モア、さぁ行くわよ。マティアスもちゃんと分かっていますね?」
「……はい。お婆様」
「もちろんです。クラウディア様」
お婆様の後ろに私。両隣に護衛騎士が付いている。侍女長は後宮で待機となった。
私達はサロンの横にある一室に入った。
この部屋はどうやら情報交換のために設けられている部屋のようだ。
祖母はゆったりとカウチソファに座り、私は後ろに、護衛騎士達は四隅と祖母の斜め後ろに付く。暫くすると、王宮の従者の案内で二人の男が部屋へと入ってきた。
「クラウディア王太后様、誕生祭にお呼びいただき有難うございます」
部屋に入ってすぐに挨拶をしたのはクロティルド王太子殿下だった。
その後ろに従者の格好をしていたのは……ノア様だった。
まさか殿下と共にこの国に来るなんて。
私は驚きと記憶が蘇ったのではないかという不安、連れ戻されるのではないかという怖さが一気に身体を支配する。きっと今の私は表情に出ていたと思う。慌てて表情を抑えた。
幸いな事に今日は一日ベールをしているので相手には読み取れていない様子でホッと小さく息を吐いた。
「殿下とはいつぶりだったかしら。ようこそ我が国へ。まあ、まず、お掛けになって?」
殿下は祖母と対面するように席に着いた。私は殿下と祖母にお茶を淹れる。従者のノア様はジッと私を見て気にしているが特に動く事はないみたい。
この後祖母はどうするのだろう。私はお茶を淹れた後、一礼して祖母の後ろへと下がった。
「……単刀直入に聞くわ。クロティルド王太子殿下はどういった用件で孫のモアに会いたいと仰るのかしら?貴方はもう婚姻されたのでしょう?」
祖母は笑顔で話を切り出した。あくまで優しく微笑んでいるけれど、いつもの祖母とは違い、厳しいものが含まれている。
「えぇ。私は既に妻もおりますが、王妃候補だったモア嬢の安否が知りたいのです。彼女に傷をつけてしまった事を今でも後悔していますのでこの国を訪れた時に彼女に会えれば、と思い希望を出したのです」
「モアは元気よ。残念ながらまだ顔に傷は残っているけれどね。でもそれでは呼び出す程の理由にはならないわねぇ」
すると先ほどまでにこやかだったクロティルド王太子殿下が真面目な顔をする。何かあるのだろうか。
私はただジッと祖母の侍女として後ろに立つだけでそれ以上の事は指示がないので見ているだけ。
「少し話しづらいので他の者を下げても?」
「貴方達、下がりなさい」
そう言うと私とマティアス様を残して他の人達は部屋を出た。
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