第34話
入学式当日。
私はレフト伯爵子息と一緒に学院に登校したわ。
馬車から降りてエスコートするレフト伯爵令息。
「ここまでくれば後は皆様に付いていくだけですので大丈夫ですわ。有難うございます。レフト伯爵令息様」
私は入学式の式場となっているホールの入り口でお礼を言う。
「私の事はマティアスと呼んで下さい。席まで案内します」
「ではお言葉に甘えてマティアス様とお呼びしますわ。私の事はモアと呼んで下さい」
「モア嬢、こちらへ」
マティアス様はそのまま会場の中へと入り、Sクラスの場所まで連れて行ってくれた。周りが少しざわついたのは仕方がないわよね。こんなにマティアス様が素敵なんだもの。そうそう、私はSクラスになんとか入ることが出来たの。フルム兄様やお婆様のおかげよね。
マナーも離宮でしっかりと学んできたので誰からも笑われる事はない、はず。
ここ聖ローザンド学院は貴族のみが通う事の出来る学院でSクラスからBクラスまでしかないの。人数は一クラス二十人程度。平民は平民用の学校が国内に数か所用意されている。もちろん貴族は平民用の学校へも編入可能なのだが、わざわざ行く必要もないのでほぼ平民となっている。
たまに病気で王都に住めない事や高額な学費が払えないという理由で貴族が通う事はあるようだが。あとは騎士になるための学校がある。その学校は貴族や平民区別なく受け入れているらしい。騎士としての実力が物を言う所なのだとか。
聖ローザンド学院は一応王都にある王族も通う由緒正しき学院なのだ。残念ながら現在、王族は通っていない。
今、この学院で一番爵位が高いのが侯爵位の方。第一王子は私より十以上歳が離れている。将来を見据えて王子達に合わせて高位貴族方の出産ラッシュがあり、私達の年代は高位貴族が少ない。
そのせいか令嬢、令息同士が王妃や側近になるためといがみ合う事もないようだ。とはいえ、私は必要最低限のお茶会しか出ていないので本当の所はまだよくわかっていないけれどね。これから学院で過ごす間に分かってくるはず。
「モア嬢、邸に帰る時には私が送りますのでクラスで待っていて下さいね」
「マティアス様、分かりました」
そう告げるとマティアス様は颯爽とクラスへ戻っていった。そこからすぐに入学式が始まり学院長の長い話があった。私は夢にまで見ていた学院生活に心躍らせている。他の貴族たちはどうか分からないけれど、私は学院に行きたかったし、出来なかった勉強も一杯したいし、友人も作ってみたかったの。
入学式が終わり、各クラスへ別れていく。私はSクラスの人達に付いて歩いていく。教室までの道のりで思ったけれど、やはり貴族のみが通うため内装は豪華だわ。廊下は絨毯が敷かれ、両端に絵画が飾られている。そして警備が各教室前に二人ほど立っている。警備もしっかりしているため貴族たちは安心して過ごせるのだろうと思う。
Sクラスに移動した後、各自空いている席に座っていく。前から詰めて座っているので私はどうやら一番後ろの席になった。目立たなくて丁度いいわ。
そして担任の先生が教壇に立ち、自己紹介をする。それに倣って私達も一人一人自己紹介をしていく。Sクラスは男の人が多いけれど、爵位の殆どは子爵、男爵で二人ほど伯爵がいた位。そしてお茶会で見たことのある人達ばかりでホッとしたわ。隣の席の子爵令嬢とも仲良くなれそうで良かったと思う。その後すぐに下校となった。
流石に入学式は勉強もないのでマティアス様はすぐに迎えに来てくれたの。クラスメイトから婚約者かと聞かれたが、少し家の事情で彼が学院の送迎をしてくれていると話をすると皆が納得してくれたようだ。彼の家は騎士だし、私の母は元王女。みんなが察してくれているのだと思うと何かごめんなさいと思ってしまう。
「モア嬢、今日は午前中で学院も終わったのですから一緒に街に出て食事でもいかがですか?」
馬車に乗り込もうとした時にマティアス様はそう話をする。私は街に出たことが無いのでとても驚いた。
「街に?いいのですか?」
「男爵様には確認を取ってありますし大丈夫です。まだ街に出たことがないから連れて行ってあげてと母君からも仰せつかっております」
「本当!?嬉しいです」
私は飛び上がりそうな程喜んだ。一度、街歩きをしてみたいと思っていたの。
「ふっ。街に行くのにそんなに喜んで貰えるなら毎日でも行きますよ」
マティアス様は御者に行き先を話した後、私達は馬車に乗り込む。活気ある王都の街は沢山の人が行き交っている。彼はどうやらレストランを予約していたようですぐに席に座ることができた。いつのまに予約をしていたのかしら。店員から渡された紙を見てまた驚く。
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