第17話
そうして我が家に帰った後、緊急家族会議が始まった。もちろん今日は何かあった時のために父もフルム兄様も仕事を休んで家にいたの。
「シーラ、モア、お帰り。こんなに早くに帰ってくるなんて何かあったのかい?」
父は玄関まで迎えに出ていたので私の姿を見てギョッとしている。
「どういう事なんだい?とりあえず、モア、湯浴みと着替えをしてきなさい」
私は頷いてメリダと共に部屋へ下がった。すぐに湯浴みと着替えをして父の執務室へと入室すると、そこには苛立ちを隠しきれていない父がいた。どうやら王宮で起こった事を母から少しばかり聞いたようだ。
「モア、詳しく教えてくれないかな?」
父は私に微笑みながら聞いてきたが、目は全く笑っていない。フルム兄様も見ると兄様も父と同じだった。
「実はあの時に……」
私は事の顛末を父達に詳細に語った。あの時、母は王太子殿下から話を聞いて駆けつけた騎士に馬車で私が待っているとすぐに帰ってきたので詳しくは母も知らなかったが、私の話を聞いて扇子がパキリと割れていた。
「お父様、これは良い口実ですわ。私はこの国の貴族社会が怖くなりましたのでお祖母様の所へ静養に向かいます」
「あぁ、そうだな。すぐに向かうように手続きをしよう。それと我が娘を虐めて我が家を侮辱した家には抗議とそれ相応の罰も考えないとな」
父の言葉にフルム兄様も母もうんうんと頷いている。
そうして緊急家族会議が終わると私は部屋へ戻った。大丈夫だと思っていたけれど、やはり疲れていたみたいでベッドに腰かけていたつもりがいつの間にか眠ってしまっていたみたい。
翌日目覚めた時、私はメリダと共に隣国へ向かうために荷物を纏めることになった。朝のうちに父は隣国に向かうための書類を持って王宮へ向かったようだ。
フルム兄様の話では隣国で一旦フルム兄様のお父様ウェルム侯爵の邸に行ってからお祖母様の元に向かう事になる。もちろん隣国に行く時はフルム兄様が一緒に付いてきてくれる。
父は早々に王宮から我が家に帰ってきたわ。けれど顔色はどことなく悪い。その理由を聞いてみるとどうやら書類はしっかりと提出は出来たみたい。けれど、受理されるまでに早ければ数日で、遅ければ一ヶ月以上掛かるといっていた。
問題はそこではなく、提出した文官が言っていたらしいけれど、どうやらクロティルド殿下が私を気に入ったと側近に漏らしていたらしい。
側近伝いに父へ私の婚約者の話や仲良くしている子息がいるのかどうか聞いてきたようだ。父は咄嗟にフルム兄様の名前を出してしまったと言っていたわ。まぁ、兄様は優しいしいつも勉強を教えてもらう仲なので婚約しても可笑しくはないと言えばない、かな。
ただ、現実問題として血が濃くなってしまうので婚約はないと思っている。私の顔を拭いた時に素顔を見られてしまったのね。しくじったな、と思う。
そうして父が城に書類を提出して約半月が経った。
抗議文を出した家からは次々と謝罪文が送られてきた。お茶を掛けた令嬢の家からは直接謝罪がしたいと言われたけれど、『あれ以来娘は人を怖がるようになり、邸からも出られない状態だ』と言って両親は謝罪や面会を拒否しているわ。
そして王宮からも謝罪文が届き、会って話がしたいと使者から伝えられた。私はフルム兄様に変わらず勉強を教えて貰いながらまだかまだかと隣国行きを待っているのに中々国から返事はこない。
父や母がうやむやにして逃げていたのだが、王家の方から痺れを切らしたように王妃様から私へお茶会がついに届いてしまった。
流石にこれは出席せざるを得ない。しかも私一人で出席するようにと指示までされてあった。
その招待状を見た父も母も憤慨していたのはいつもの事。王家は娘を無理やり連れて行こうとするのかと。関わりたくないと思っていても向こうから関わってくる理不尽さにがっかりするわ。
きっと幼い私ならすぐに丸め込めるだろうと相手は踏んでいるに違いない。
私だって『時戻り』をした時間も合わせると社会の常識や判断力はそれなりに養っている。必死に勉強だって続けてきた。そう簡単に丸めこまれる訳にはいかないわ。
私の人生が懸かっているのだもの。
前はシクシク泣いて後ろ向きに抵抗するしか無かった私。今は私の家族もフルム兄様もお祖母様もいるのだもの。弱いままではいけない。自分の人生なんだもの、しっかりしないといけない。
私は自分を奮い立たせて父に話をする。
「お父様、私も頑張ってみます」
「無理をさせたくない。あぁ、凄く心配だ」
そうして私はお茶会に参加する事になった。
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