第32話
「お婆様、これから学院へ行かねばなりません。お婆様と離れるのは寂しいです」
「嬉しい事を言ってくれるのね。私もモアと一緒に暮らせて嬉しかったわ。そうそう、私から余計なお節介を一つさせて頂戴」
祖母がそう言って笑いながら誰かを手招きしている。
「お婆様、この方は?」
「彼はマティアス・レフト。素敵でしょう?」
祖母はニコニコと上機嫌で彼を紹介してきた。私には祖母の意図がわからずに首を傾げる。レフト、確かその名前は伯爵だったはず。騎士団長の息子なのかしら?
「ふふっ。彼は今年から学院の二年生なのだけれど、騎士科で将来有望なのよ?モアの護衛をエリアスに紹介するように頼んだら彼を推薦してくれたのよ。エリアスがいうにはモアの護衛に手を挙げる人が多くて困ったらしいわ」
すると彼は一歩前に立ち、私の手を取りキスを一つ落とした。
「モア・コルネイユ男爵令嬢。ようやく会えました。私マティアス・レフトと言います。モア嬢の護衛としてこれから学院に登下校する際は一緒にするので宜しくお願いします」
「えっ、と、レフト伯爵子息様、私の方が爵位も下ですし、護衛だなんて……」
私は慌てたが、私の慌てぶりを他所に彼はフッと笑った。彼は格好良くて長身で鍛え上げられた身体は逞しくて令嬢達に人気そうだと思った。
「モア、何を言っているの?貴方は男爵令嬢だけれど、あと数年は要警護人物なのよ?しっかり守ってもらわないと」
「でも、護衛と言っても学生ですし、登下校が一緒だとレフト伯爵子息様の婚約者の方にご迷惑を掛けてしまいますわ」
「大丈夫ですよ。私には婚約者はいませんし、想い人もいないですから」
彼はそう笑いながら私に告げた。こんなに素敵な人が私の護衛だなんて、と思うだけで恥ずかしくなった。
「ふふっ。マティアス、孫のモアを宜しくね」
「はい。命に代えても守ります」
祖母にそうしっかりと答えるレフト伯爵子息様を見てとても素敵な人だなと思ってしまったわ。でも私はしがない男爵令嬢だし、傷物。このふわふわとした気持ちにはしっかりと蓋をしようと思う。
それから私は学院に行くために泣く泣く祖母と別れてレフト伯爵子息に送られ実家に戻った。父達に護衛に付いてくれるレフト伯爵子息の話をすると、エリアス国王様から両親に先に話があったみたい。
レフト伯爵子息は将来、騎士団長と目されるほどの剣の腕前なのだとか。彼の婚約者は何故いないのか聞いてみると、ついこの間まではいたらしい。
だが彼は元々剣一筋で恋愛はもちろん女の子に全く興味がなかったようだ。親の伝手で決められた婚約者だったのだが彼女はレフト伯爵子息に熱を上げて色々と声を掛けたり、手作りの物を渡したりと甲斐甲斐しく付いて回る事をしていたらしい。
けれど、他の令嬢たちの嫌がらせや一向に振り向かない彼に嫌気が差したようで別の令息と仲良くなり、高位貴族の集まるお茶会の席で浮気相手と一緒に婚約破棄を言われたそうだ。その話を聞いて私は絶句してしまった。
誇り高い騎士が公衆面前で言われるのは辛かっただろう。
彼の事を思うと、何とも言えない気持ちになる。
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