第24話:第二の協力者
「その……あんまり俺だけが大量に新聞を閲覧すると怪しまれるから、雪夏と先輩も一緒に調べてるってことにしたいんですが……ダメですか?」
「別に構わないわ」
「わたしもいいよ!」
「ありがとう! じゃあ新聞を片っ端から見てこうか」
異七木大学図書館にたどり着いた不知、雪夏、朱玲音は早速過去の異七木に関する新聞を調べ始めた。
「いやぁ……恐ろしいわね……これで憶えてしまうなんて」
「うん……これはチートだねチート……勉強時間が殆どいらないわけだ……」
不知は大量にある新聞の全ページをそれぞれ一瞬だけ確認して、その一瞬で全てを記憶するという、傍から見ればふざけているようにしか見えないやり方で、過去の異七木について調べた。雪夏も朱玲音も、あまりに現実離れした不知の力に引いていた。
「ありがとう、これで全部終わったかな……結構量が多かったから一瞬見るだけでも、時間が掛かったな……」
図書館に所蔵された新聞の閲覧を始めてから三時間といった所で、不知は所蔵された全ての新聞の閲覧、記憶を完了した。
「でも不知くんは何を調べたくて新聞を見てたの?」
「ああ……どうやら異七木市というのは15年ぐらい前から行方不明者が他地域より多かったらしいんだ。でもそんなこと俺達全然知らなかっただろ? 不思議だなと思って調べたんだ。話題にならなかった理由があると思ってさ」
「えぇ? 確かに不思議だけど……だからってこんな風に調べようとは普通思わないけどなぁ……不知くんは調べ物をするハードルが低いから、気軽にそういうのやっちゃうってこと?」
「気軽なんかじゃないさ、最近は物騒だろ? 知り合いがいつの間にか行方不明者に、なんてなったら嫌だから、対策でも立てられたらいいなってさ」
「それはアタシも同意見ね。けど黒凰くん、新聞を調べて行方不明者達がなぜ話題に上がらないのかはわかったの?」
「いや、話題に上がらなかった理由は分からなかった。多分消えた人のこと自体を調べないとダメなんだと思う……けどなんとなくの予感はある……消えた人間に近しい人間は、声をあげられない状態にあるんじゃないかって」
「待って、それはどういうことなの? 声をあげられない状態って……」
不知の予測に朱玲音の表情は険しくなる。
「行方不明者は実際多かった。この数で話題に上がらないっていうのは異常だ……行方不明者の身内は必ず声をあげるはずなんだ。だけどそれがないのは……人を攫っている何者かは……攫った人間の身内の口封じも行っている、そうとしか考えられない」
「口封じって……不知くんまさかそれって……殺されてるってこと?」
「どうかな、そういうパターンもあるだろうけど……別の方法もあるだろう。例えば異常者として扱って周囲の者達から隔離したりとか。もしかすると、実際に精神疾患になるよう追い込む、ということだってあるかも……」
『あぁ、私のオカルト好きな友達が精神病院で隔離されてるからそう思ったのか。身内が攫われたのなら、恨むのだって当然だしね』
「なるほど? それで言うと、殺すまでいかないでも、寝たきりだとか植物状態だとか、そういったこともありえるわね。けど実際に調べないことにはなんとも言えないわね」
「そうですね……ああそうだ、俺の用事は終わりましたから、約束通り、今度は俺が先輩の話を聞く番ですね。雪夏、悪いけどちょっと先輩と二人切りにさせてくれないか?」
「えッ!! う、うん……そ、そうだよねぇ……」
雪夏はちらりと不知を一目見ては不知から一歩離れる、そんなことを繰り返して、徐々にスローペースで不知と朱玲音から離れていった。
『おい、雪夏はまだ姿を隠してお前たちを見ているぞ?』
(別にいいさ。距離さえあれば、どのみち話してる内容までは聞こえないだろうから)
「それで先輩、俺に頼みたいことっていうのは?」
「実はアタシ、異七木警察署に職業体験学習に行くことにしたのよ。生徒の自衛力を高めるとか、そういった話の流れで、実質的な自己防衛に関する学習を異七木警察署に協力してもらうっていうのが学園で決まった。だから職業体験というより、単なる校外学習に近い……最近の警察の腐敗っぷりを懸念して本当は民間の警備会社に協力してもらおうっていう話が主流だったんだけど、アタシが警察と民間どちらからも学んで、有用な知識は拘らず活かせばいいって軌道修正したのよ」
「先輩が軌道修正を……? 風紀委員長として先輩の意見を生徒会の意見としたってことですか?」
「そうよ、本当はアンケートも取ってないから、アタシの意見でしかないけど、ともかく生徒代表の意見として学園には伝わった。で……アタシが警察で自己防衛に関する学習を行おうと決めた理由だけど、それは警察の調査のためよ」
「えっ……待ってくださいよ……警察の調査? どうして先輩がそんなことを……」
「黒凰君だって行方不明者のことを調べたりしたでしょ? 別に関係ないでしょうに、それと同じことよ。誰だって気になれば調べる権利がある」
「えぇ……でも先輩はそのために、学園を巻き込んでるじゃないですか……ちょっと強引では?」
不知からすれば腐敗した警察署は危険地帯だと考えていた。腐敗していると理解しているのにも関わらず、生徒たちを学習に向かわせるのはどうかと不知は思った。
「っふ……わざわざ今の警察に学びに行く子なんていないわよ。学園側もあんまし、向かわせたくないみたいだから、警察の腐敗を匂わせる文言を体験学習の資料に入れてる。そもそも職業体験自体人気もないから、うちの学園だと異学年合同で希望者のみ、おそらく異七木警察署に行くのは殆どの確率でアタシだけになる」
「えっ!? 先輩だけ……? 腐敗してマフィアと繋がってるって警察署に先輩と、引率の先生だけで……? 流石に危険なんじゃ……いや、大勢が巻き込まれるリスクはないですけど……」
「そう、危ないのよ。だけど……これは堂々と警察署内部に入るチャンスだし、腐敗を暴くチャンスにもなる……あなたの完全記憶能力があれば、ちらっと重要資料を見ることができたら、それだけでかなりの情報を得られる……黒凰君、これはもう他人事じゃないのよ。警察は……ダントウが暴れた時、デモ活動を行っていた市民を意図的に閉じ込め、ダントウに殺させたわ。表向きは聖浄学園にヴィランが向かわないように守ったなんて言ってるけど……ヴィランは明らかに警察に手を出していなかった。これは……警察が自分たちの目的のためなら、平気で人を殺す存在に成り下がったことを意味するわ。あの時はデモ隊が対象だったけど、その矛先がいつアタシ達に向くのか、分かったものではないわ」
(先輩……よく見ているな……けど気になるからって、ここまで本気で調べようとするものなのか? この人は本当にただの高校生なのか……?)
『いやいや不知……ただの高校生かどうかは、お前も疑われる側だぞ? お前こそ例外なんだから、他の例外の存在も認めてやってもいいんじゃないのか?』
(クロムラサキ……そうは言ってもな……先輩は危険に飛び込もうとしている。このままでは先輩はいつか死ぬぞ?)
『だったらお前が協力して陰ながら守ってやればいいだろう? どのみちお前が協力しなくとも、この苛烈な少女は一人でやろうとするだろう。これは脅迫みたいなものだ、この少女を見捨てるには──お前は少々この子のことを知りすぎたように、私は思うけど?』
(クロムラサキ、そうやって俺を誘導するつもりか? 俺に罪悪感を感じさせようとしているんだ……)
クロムラサキと不知の脳内会議、心の声は目の前の朱玲音に伝わることはないが、その会議による表情の変化だけは朱玲音にも見えている。朱玲音は不知の苦虫を噛み潰すかのような迷いの表情を見て、これは協力を得られないかもなと思った。
『不知、この少女は多くの大人達が気づかないことを独力で気が付き、行動を起こそうと言うんだよ? その時点で資格を持っているんだ。見た目や年齢に惑わされるな、この朱玲音という少女は、今の世を、異七木の運命を動かしうる』
(先輩が異七木の未来を? クロムラサキ、流石に大げさじゃないのか? けど……そうだな……お前が正しい。俺が先輩を見捨てるのは無理そうだ……先輩は俺しか頼れないと言っていた。多分これは本当のことだ、俺が見捨てたら、本当に頼れる人は誰もいないんだ)
「分かりました。じゃあ俺もその体験学習を警察署で希望出しときます。警察だって俺の調べてる行方不明者達について何か知っているかもしれないですしね」
「えっ……? 本当にいいの? かなり迷っていたみたいだけど……」
「先輩に死なれたら寝覚めが悪いですからね。その点俺が協力すれば、調査は効率的になって、リスクは大幅に低減できる。けど……ここまでするんだ、ただじゃ協力できない」
「見返りが欲しいの? アタシにできることなら構わないけど」
「俺も先輩の力を借りる。先輩の風紀委員長としての立場だとか、影響力だとか、そういったものを利用させてもらう。例えば俺を風紀委員にして、学園内で動きやすくしたりだとかね」
「あなた……学園のことも調べるつもりなの……? どうして? 学園にも何かあるというの?」
「さぁ、けれど……聖浄学園は”すでに巻き込まれている”ヴィランを呼び寄せた何かが学園にはあるのかもしれない──誰だって気になれば調べる権利があるんでしょう? 先輩?」
「あなたでもそういう意地悪なところがあるのね。自分の言った言葉を否定するわけにもいかないし、わかったわ。アタシのことを利用させてあげる」
こうして不知と朱玲音は、単なる先輩後輩ではなく、互いの目的のために共闘する仲間となった。
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