第49話:共闘、死闘



「リカイフノウ、リカイフノウ!! ナゼダ、ヨリニヨッテ、アウラデリート7ゴウキト、キョウトウスルトハ……」


「安心しろォ!! 貴様をぶっ壊したら、すぐにまたナイトメア・メルターと殺し合うからなァッ!! サーツサツサツサツ!」


(アウラデリート7号機? もしかして俺のことを言ってるのか? この仮面の機械獣人は……クロムラサキだけじゃなく俺とも何か関わりがあるのか……)


 仮面の機械獣人は地を転がりながらナンゾーアンサー、ナイトメア・メルターとの距離を取る。そして──


「──姿が消えた!? そうか、時が破壊された空間の範囲外にっ……また時の裏に隠れたのか!」


「なるほどなァッ! なら隠れんぼできないようにしてやろうッ! 眼前一切の空間、その時の全てを破壊してやるッ!! ヘアアアアアアアアアッ!!」


 ナンゾーアンサーがオーバーレールガンを構え、連射する。仮面の機械獣人が隠れたと思われるポイントで、弾丸は時を破壊する。


「お、おい! ちょっとやり過ぎだ! 時だけじゃなく、空間まで破壊したら俺達も入れないぞ!」


「ふん、破壊された空間に留まれないのはヤツも同じッ! 何も問題ないッ! ワレハイの完全なる計算に口を挟まないでもらいたいッ!!」


「あぁ!? 戦いが終わったあと、ここの空間が壊れたままだったらどうするんだ! 環境に配慮しろよっ!!」


「そんな配慮を悪党に求めるなッ!! ワレハイはワレハイを侮辱したヤツをぶち殺せればそれでいいのだアッ!!」


 ──ドボゴッ!! ナンゾーアンサーが苛つきからナイトメア・メルターを思いっきり殴った。物理干渉力が強化されたナンゾーアンサーの拳は尋常ではない威力で、ナイトメア・メルターは地面に叩きつけられ、そのまま1m程地面にめり込んでしまう。


「……っ、あぁ!? 何すんだお前!! クソッ、共闘中じゃなければ……」


 ナイトメア・メルターも元から馬鹿力な事もあり、腕力で強引に地中から脱出することに成功。ナイトメア・メルターは一瞬だけナンゾーアンサーに対し殺意を抱いたが、ここは仮面の機械獣人抹殺のため、その気持ちを抑えた。


「グ、グギギ……」


 ナンゾーアンサーの空間破壊により仮面の機械獣人は再び姿を現す。


「魔法が扱えない状態のはずだが……それでも消えたということは、時の裏に隠れるのは魔法的な力によるものじゃないってことか……だとすると……ヤツは元々物理世界で力を持っていた存在かもしれない……気をつけろ! ナンゾーアンサー!」


「ニクタイ、カンカク、ヒサシク、ナレナイ……サイテキカ、カイシ──」


 仮面の機械獣人が胸部に付いた装甲を両手で開く、すると真っ赤なコアが露出し、コアからは光る流体が放出された。真っ赤に光る流体が、蜘蛛の巣のように広がっていく。


「なんだあれは……地面に刺さった……? なっ、地面が、枯れて、腐って……」


「なるほどエネルギーの吸収かッ!! なんという技術力ッ! 実体があるものを高効率でエネルギー変換、他存在を消費することに特化した存在……物質概念の捕食者……マズイッ、今のワレハイの力は全て、ヤツに食われてしまうゾッ!!」


「干渉は可能になったが、力は増した感じだな……だが肉体があるなら滅ぼすことができる。ナンゾーアンサー、オーバーレールガンをチャージしろ、最大出力だ!」


「バカかッ!? エネルギーをチャージしようものなら、すぐさま吸収されてしまうッ。ヤツを助けるだけだッ」


「問題ない、やってみろ。戦うのはお前だけじゃないんだ」


「チッ、生意気なァッ! それもまた良しッ!! ウオアアアアアアア!! オーバーレールガン! アルティメット! フル! チャアアアアアアアアアアァァジッ!!」


 極限のエネルギーがナンゾーアンサーの両手、ガイドレールに収束していく。仮面の機械獣人はそれを見て、光る流体の触手をナンゾーアンサーへと飛ばす。


 ──しかし、仮面の機械獣人の手は届かない。ナイトメア・メルターが壁となり、仮面の機械獣人の触手をカット、ナンゾーアンサーの代わりに受け止めたからだ。


「き、貴様ッ!! そんなことをすれば、肉体が消滅してしまうゾッ!!」


「消えないさ──俺の中には消えないモノがある。永遠の炎、消えない炎、クロムラサキを焼いた炎は、俺の中にあるッ!! 俺を吸収したければしてみるがいい!! お前が生み出した呪いに、お前自身が耐えられるモノならなぁッ!!」


「──ッグ、ヤ、ヤメ……ッ」


 仮面の機械獣人の光る流体触手が、ナイトメア・メルターの両手で掴まれる。触手はナイトメア・メルターのエネルギーを吸収し、ナイトメア・メルターの肉体は崩壊へと導かれていく。不安定となったナイトメア・メルターの肉体からは発煙、腐敗が始まる。


 それと同時に、ナイトメア・メルターの体から青と黒の炎が、流体触手を伝って仮面の機械獣人へと伝っていく。


「ッグ、グアアアアアアアアアア!?」


 蒼き炎が、その仮面を溶かす。獣のような姿のその者の内側は、人の顔をしていた。人であることを隠し、人を超えた存在であると自己を演出する仕掛け。


「お前は吸収をもうやめられない。やめても炎は消えない、お前は一か八か、俺を吸収仕切って殺し、俺が死ねば炎は消えるかも、そんな希望に縋るしかないッ!! どうだ、熱いかッ! 苦しいかッ!! アイツが受けた苦しみは、こんなもんじゃないぞ!!」


「アア、アアアアアアアアアア!!!??」


 仮面の機械獣人は燃える。仮面の機械獣人はクロムラサキに使用していた、炎を操る杖を取り出し、それをナイトメア・メルターの炎に使用するが──


「ナ、ナゼダッ!! ナゼ、セイギョ!! デキナイィイイイイイイ!! グアアアアアアアア!!」


 仮面の機械獣人の杖はナイトメア・メルターの炎に対し、機能しなかった。炎は制御されない、しかし炎には意志がある。仮面の機械獣人を焼き殺すという、意志が。


「呪いの炎は、彼女を焼き続けた、ずっとずっと……ずっと共にあった。その呪いに意志はなく、命ぜられるままに彼女を焼いた。けれど、彼女はその呪いを憎むことはなかった。それは呪いの意志ではないから、お前も可哀想だと、哀れみさえした!! 永久の苦しみを超えたその先で、呪いの炎はいのちを持った! 己を憐れみ、愛を向けてくれた、彼女のために、何かしたいと思った! 意志ある炎が、貴様に従うことはないッ! 炎は俺の心と共にある! 俺達の心は同じ、愛する者を守る為にあるッ!!」


 ナイトメア・メルターの叫びと共に、青と黒の炎、永遠の呪いは大きく燃え上がる。他存在を吸収する、その機構ごと、焼いていく。機械獣人の恐怖、思考、希望、何もかもを。


 自身が無という静寂へと近づいていく中で、仮面の機械獣人は理解する。最早自分は助からない、ここで終わりだと。


「──シネ、シネシネシネシネ! キサマモシネェエエエエエエエ!!」


 仮面の機械獣人は最後の力を振り絞り、命を燃やして能力を使用する。せめてこの痛みの恨みを晴らすため、ナイトメア・メルターを吸収しきり、殺してやると。



 ──フォーーーン、ズギャアアアアアアアアア!!


 礫が機械獣人の頭を横から貫いた。ナンゾーアンサーのオーバーレールガン、その最大出力が直撃した。


 その凄まじき威力は機械獣人の頭部に命中した後、その衝撃を機械獣人の全身へと伝え、瞬時の内に機械獣人の体を血飛沫レベルにまで分解した。


 そうして生まれた煙のような赤い血飛沫は、青と黒に燃え、最後には跡形も残らず、滅した。


 オーバーレールガンの最大出力は機械獣人に命中した瞬間、時空間の崩壊を引き起こし、その不安定な崩壊の中で無限の衝突現象をも引き起こした。観測者からすれば一瞬に感じられる機械獣人の最後は、当人にとっては永遠に感じられた。当人だけが感じる無限ループ、永遠に撃ち抜かれ、永遠に焼かれた。しかしそれでもクロムラサキが受けた苦しみに届くことはない。


 何故なら、最早機械獣人には苦しみを感じるだけの精神強度が保たれていなかったから。強すぎる痛みは限界を超えて知覚できないし、ここへ至るまでにすり減った心は、痛みを感じる機能を失いつつあった。


 ただ、それでも無限に続いた永獄は、機械獣人を苦しみだけで満たした。その永獄は誰からも知られることなく、一つを終わりなき終わりへと導いた。


「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ! っぐ……最大出力、ワレハイながら凄まじいッ! まさか、これを撃つだけで死にかけるとはッ……」


「はは、お互い死にかけだな。俺も体が消えかけた……さて、決着を付けようか……」


 ナイトメア・メルターは勝利の余韻に浸ることなく、次の戦いのために構える。


「……っ、そうだなッ! そういう約束だったッ! オーバー、レール、ガンッッ!!」


 互いに満身創痍の中、ナイトメア・メルターはプラズマの光球を発生させ、ナンゾーアンサーはオーバーレールガンを構えた。


 そして同時に解き放つ。このたった一撃で勝敗は決する。


 オーバーレールガンの弾丸は、ナイトメア・メルターのプラズマに、無慈悲に溶かされ、蒸発する。そうしてそのまま、プラズマは──ナンゾーアンサーを食らった。残ったのは頭の胸だけ、胸像のような有様となったナンゾーアンサーは、自身が敗北したにも関わらず、その表情は穏やかだった。


「やっぱ、勝てなかったかぁっ……体が死にかけだろうと、貴様の魔力にはまだまだ余裕があったようだし、当然かッ……面白い……面白かった」


「面白い……? なんでだよ。お前は……死ぬんだぞ?」


「死ぬことと面白いことは、矛盾なんてしやしないぜッ! 貴様と共に戦って、なんだか気分が良かった。グッ……エホッ!? 闇の力にも、共生するものが、あるんだなぁ……ワレハイも、そうか……融合した……違う可能性も、あったのかもなぁ……今の今まで、気が付かなかった、知らなかった……教えてやってくれ、ナイトメア・メルター、ワレハイの可愛い子供たちに、お前の示した可能性をっ……」


 ナンゾーアンサーが最後の力を振り絞り、電磁力を使って地面に地図座標を書き込む。それが終わると、ナンゾーアンサーは事切れていた。


「……勝手に託すな……答えを返す前に消えられたら……断ることもできんだろう……」


 ナイトメア・メルターは時を失った空間の中で、誰も知らない戦いを制した。強敵二人を倒し、死に体の男は、一息をつく。


「はぁ……はぁ……疲れた……少し休もう……もう、限界だ……」


『おい、不知! 待て、こんな不安定な空間で寝たらどうなるか分からないよ!』


 焦るクロムラサキのことなど不知、不知は地に倒れ、死ぬように眠った。



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