第23話:行方不明者



『ふぅん……行方不明者ねぇ』


「クロムラサキ、行方不明者がどうかしたのか?」


 不知の自宅、クロムラサキは不知のスマホで魔力ネットを探索していた。クロムラサキは実体がないため、基本的に現実世界に干渉できないが、何故か魔力ネットには干渉できたので、不知のスマホから魔力ネットへと自身の体を入り込ませている。


『最近行方不明者が増えてるという話があってね。それでオカルト好きな子が行方不明者について調べてたんだけど……異七木に行方不明者が多いのは結構前からだったんだよ。異七木大学図書館に地元新聞が所蔵されてて、そこから調べたみたいだよ。大体15年前ぐらいから、他地域より多いみたいだよ』


「15年前から……? 相当前じゃないか……待ってくれ、昔から異七木に行方不明者が多かったとして、実際行方不明者は増えてるのか?」


『ちょっと待っておくれ~……っとと、返事早っ! どうやら増えているみたいだよ』


「クロムラサキ、お前……誰かと、いやさっき言ってたオカルト好きなやつと直接やりとりしてるのか」


『うん、彼女とは魔力ネットで仲良くなったんだ。恨んでる対象がいて、それについて調べてるみたいなんだけど、熱量が凄くてね、まるで悪霊だよ』


「まぁ……お前も霊的な存在ではあるし……真面目にそういった可能性もありえるな」


『ははは、そんなまさかぁ~……だって幽霊だったらどうやって図書館に行って調べ物をするんだい? 私のように強い力を持つ霊的な存在は稀だよ? けれど不知、どうして行方不明者が増えているかを知りたかったの?』


「異七木に昔から行方不明者が多かった、それが今も続いているというのは、そもそも同一の個人、または組織によって行方不明者が発生している可能性がある。そして……もし異世界転移の後に、行方不明者が増加しているとすればそれは……」


『ふぅん? 不知の言いたいことが私にもわかったよ。行方不明者が発生する原因を作っている悪党が、魔法の力を身に着け、より多くの者を狙えるようになった、そう言いたいんだね?』


「ああそうだ。けど行方不明者か……消えた人間はどこに行っているのか、やはり死んでいるのか? 人身売買、臓器売買、個人的な欲求を満たすため……理由は分からないが、俺達の追う裏組織やクラックタイルと繋がっている可能性がある。クロムラサキ、そのオカルト好きの知人と俺が接触することはできるか?」


『えぇ……まぁ一応聞いてみるよ……えぇ!? いや彼氏じゃないよ……えっと……あるヴィランを追うのに協力してるだけ……と……返事早ッ!! 何々……? わたしは自由に動けないから、そちらから会いに来てくれるなら……? 異七木ワダチ精神病院、そこに行けばいいのか?』


「異七木ワダチ精神病院だって……? あそこって……かなり重度な精神疾患の人が、殆ど幽閉みたいな感じで閉じ込められてる場所だぞ……それがどうやって異七木大学図書館に出入りしてたんだ? 言ったら悪いが……も、妄想の可能性が出てきたな……」


『おい不知! 彼女を馬鹿にするなよ? 彼女は私の友達なんだよ? 受け答えもハッキリしているし、優しい子なんだ。確かにちょっと恨み成分が強すぎる所もあるけど……』


「わ、悪い……だが異七木ワダチ精神病院に潜り込むのはちょっと難しそう……どうなんだろうな……とりあえず、彼女との接触は置いといて、俺の方でも行方不明者について調べてみるか」



◆◆◆



「えぇ? 不知くん異七木大学図書館に行きたいの? どうして急に? 不知くんが行くんならわたしも一緒に行っちゃおうかなぁ~」


「構わないが、面白いものじゃないぞ。過去の新聞記事を記憶しにいくだけだから」


 聖浄学園、特進クラス二年の教室、全ての授業が終わり、帰り際となった頃、不知はいつものように雪夏から話しかけられていた。ただ、いつもとは違う要素が、この日は入り込もうとしていた。


「こんにちは黒凰君、ちょっとアタシに付き合ってくれないかしら?」


「ふぁっ!? つきあっ……えっ!? えぇ、えーー? 論道先輩!? どういうことなの不知くん!!」


 いつもとは違う人、論道朱玲音が赤く長い髪をたなびかせ、不知の元へやってきた。雪夏はパニックだ、女っ気のない不知が突然美人の先輩、それも最近彼氏と別れたという先輩が、不知のことを何かに誘おうと言うのだから、雪夏は焦り散らかしてしまう。


「どうって何が? 先輩、付き合うとは一体何にですか?」


 しかし不知はそもそも恋愛的なあれそれに繋がる話だと認識していないので、雪夏の追求をスルーしてしまう。


「こ、このスルーっぷり……そっか、あっち方面の話じゃないのね~……まぁ……不知くんがそういうのに興味あるわけないよね……」


 皮肉にも不知の朴念仁的な態度で、雪夏は不知と朱玲音がそういった関係ではないことを理解できた。


「あなたの力を借りたいのよ」


「お、俺の力を……ですか……?」


 不知は少しビクリと挙動不審になる。


(もしかして、俺の正体がバレたわけじゃないよな……? キツイ先輩だけど、頭はいいっぽいし……ちょっと怖いな)


「黒凰君、あなたのことを調べさせてもらったわ。まぁ調べたと言っても、母からあなたのことを聞いただけなのだけれど……それであなたに完全記憶能力があるってことを知ったのよ。あなたのその完全記憶能力で、憶えて欲しいことがある。ちょっと込み入った話だから、二人じゃないと詳細は話せないけれど……あなたしか頼れないの、お願いできないかしら?」


 そう言って朱玲音は不知を見つめた後、邪魔者を見るかのように雪夏の方を向いた。


(今……この先輩……ちょっとメスじゃなかった? あなたしか頼れない、お願いできないかしらの時……メスじゃなかった? き、危険な気がする……)


 雪夏は一安心していたはずだったが、再び焦ることになってしまう。そう、仮に不知がこの先輩に恋愛的な感情を抱いていないとしても、この論道先輩がそういった感情を不知に抱かないとは限らないのだ。


「だ、ダメですよ論道先輩! 不知くんは今からわたしと異七木大学図書館に行くんですから!」


「へぇそうなの? ならアタシも一緒に異七木大学図書館に行くわ。別にアタシの用っていうのもそんな急ぎでもないしね。あなた達の用事が終わったら黒凰君を貸してくれればいいわ」


「えぇーーーーーーー!?」


「何? そんなに嫌かしら? というか、あなた誰なの? 黒凰君の恋人か何か? ……いや違うか、だって余裕がないものね、見れば分かるわ」


 まさかのよく知らない先輩、しかもキツイので有名で不知に好意を抱いているっぽい先輩と一緒に図書館へ行くという、よく分からないことになってしまい、雪夏は嫌な気持ちになってしまう。


(う、うぜえええええ!! 余裕がないってなに? そっちだって彼氏と別れたばっかりなんでしょう? 余裕がないのはどっちよ)


「アタシに余裕がないから分かるのよ」


 ──ギクゥ!


 朱玲音に心の中を見透かされたかのようなことを言われ、雪夏は冷や汗をかく。


(この先輩苦手だ……)


 実際には雪夏だけでなく殆どの生徒から朱玲音はそう思われている。面倒だとは思いつつも好意的に向き合う者は不知ぐらいしかいない。それはとても悲しいことだった。


「わ、わたしは石透雪夏と言います。し、不知くんの友達で……一番仲がいい、と思います」


「いや一番仲が良いのは嵐登だぞ。俺は雪夏のことを好ましく思っているが……それと関係が深いかは別だ。嘘は良くない、俺達はこれからだ。お互いのことをよく知っていく必要がある」


「ちょ……」


「ふふ、あははは! 黒凰君、それはちょっと、石透さんが可哀想だわ。ふふ、あははは……アタシよりも不器用な人初めてみたわ」


「は? 流石に俺より先輩の方が不器用ですよ!! 心外ですね……」


「ははは、不知くん、アタシは論道先輩が言う事の方が正しいと思うなぁ」


「お、おい! 雪夏まで……もう一人で図書館行こうかな……」


『おいおい不知ぅ、そんなに拗ねるなよ。モテモテでいいご身分じゃないか』


「うわああああああああああああ!!!」


 最後、クロムラサキが脳内で囁いたウザすぎる言葉が致命的なものとなり、不知はついに奇声をあげてしまう。


「わかりましたよ! もう俺が一番不器用ってことでいいから! 早く図書館に行きましょうよ!」


 こうして三人と、脳内の一人は異七木大学図書館へと向かうこととなる。


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