第28話:狂信者、異特隊
「──お前達が異特隊だな?」
「む……? ナイトメア・メルターか。我々異特隊に何用かな? 君との共闘であれば、我々は受け入れるつもりだぞ」
異七木警察署に向かう途中と思われる異特隊とナイトメア・メルターが接触する。それは異七木警察署を調べる朱玲音のために時間を稼ぐためで、不知がその選択を取ったのはシンプルに異特隊ではなく朱玲音の方を信用していたからだった。
仮に証拠が残っていれば異特隊よりも朱玲音に渡したかった。
(異特隊は実態のよく分からない組織だし、こいつらは朱玲音と違ってクラックタイルである可能性が残っている)
『はぁ、お前はそればっかだね。けれど噂じゃ異特隊はマフィアとかなりバチバチにやりあってるらしいじゃないか』
(クラックタイルはサイコ野郎だ。民衆を騙すためだけに手駒を殺し合わせるというのも十分にありえる。こいつらは得体が知れない、クラックタイルと関わりがないにしても、信用できるかはまた別……俺のことを好意的に捉え、共闘を提案するのも不気味だ)
『まぁそれはそうだね。けれど邪気のようなものはこの男からは全く感じないよ』
(はぁ? 邪気がないだって? クロムラサキ、お前は随分とこの男を庇うじゃないか……何かあるのか?)
『いや……私には関係ないけど……私にも分からない……』
「何やら考え込んでいるようだが、誰かと話でもしているのかな? 魔法のある世界だ、思念による通話だとか、そういったこともありえる。どうなのかなナイトメア・メルター君?」
「いや何、まさか共闘を申し込まれるとは思わなかったものでな……返答に迷ってしまった。お前達は異七木警察署に攻め込むつもりか? それなら無駄足に終わるぞ」
「だ、大隊長! この男、我々の妨害に来たのでは!?」
異特隊の最前列でナイトメア・メルターの対応をしたのは異特隊の大隊長、
「馬鹿者!! この男は特別なのだ、選ばれし
(え……? 神子? 何のことだ? それに俺……実際にこいつらの妨害をしに来たわけで……居た堪れないな……仮面をしていてよかった。もし仮面がなければ、俺の動揺が伝わっていたかもしれない……)
「そもそも俺は気にしてなどいない。俺が警察署に行っても無駄足だと言ったのは、あそこはすでにもぬけの殻だからだと知っているからだ。異七木警察は……警察署を捨て、どこかへ拠点を移した。お前達がここへ来る前、俺が署を偵察をした段階で、殆ど撤退を完了させていた」
「何……? 撤退を完了? 拠点を移した……? 我々が警察署を攻めると決めたのは二日前だぞ? 情報がどこからか漏れたにしても、対応が早すぎるな……」
「作戦は正式に決めたのが二日前であったとしても、お前達異特隊はそれ以前に正式に異七木警察との敵対を表明していただろう? その段階からすでに拠点を移すことを考えていたのでは?」
「……それもありえる……しかし……私の直感では、やはり異特隊の内部に警察の内通者がいるのだと感じている」
(直感? 俺がこいつらを妨害にしきたことを見抜けなかった直感なんて信用に足るものなのか?)
「よし! 異七木警察署を制圧するのは中止だ! 今からこの場で内通者の特定を行う!」
「だ、大隊長!? 今、ここでですか? 作戦を中止だって、現場を確認してからで……」
「黙れ巻田中隊長! またこの男を疑うというのか!? 仮にこの男が我々を騙そうとしたり、邪魔しようとしていたとしても、それは我々のためなのだ! そして何より、内通者は異特隊にとって最も重大な違反行為だ! この場ですぐに処理しなければ逃走の可能性がある……それだけは絶対に許してはならん!!」
(なっ……まさかこいつ……俺が妨害しにきたことを見透かしていたのか? その上で俺を尊重するっていうのか……? 意味がわからん……)
「全員整列!! これより神器を使い、貴様らの邪気を見る!」
オドロマの号令により、異特隊の隊員達は全員が一斉に素早く整列する。その整列のスピード、正確性だけでこの異特隊がよく鍛えられたことが理解できる。それ程に彼らは軍隊として洗練されていた。
オドロマは懐から拳ほどのケースを取り出し、小さな鍵を使ってケースを開ける。ケースの内部には金属の薄い板、爪のようなものが入っていた。
(金属製のなんだ? 爪? あれが神器なのか? というかこんなことをやっているのが、公的機関だったのか? 異特隊がオカルト部隊っていう噂は本当だったんだな)
『……っ、そのようだね。っぐ……なんだ……? あの爪を見ていると、妙な気分になる』
(クロムラサキ? お前さっきからどうしたんだ? 様子がおかしいぞ?)
『おかしいのは自覚しているけれど、私にも分からない……これが何なのか……私の記憶があれば分かるのか……?』
様子のおかしいクロムラサキに不知は不安を募らせるが、オドロマの内通者特定作業は続く。
オドロマは隊員一人ひとりの前に立ってはケースに入った爪を眼前に突き出した。それに何の意味があるのか、不知には理解できなかったが、何かが起こる予感だけはしていた。
そうしてオドロマの確認が30人を超え、31人目、そこでついに異常は起こった。
──ジィイイイイイイイイイ! バシュン!!
オドロマが神器の呼んだ爪が激しく振動を始め、一人でに宙に浮いたかと思うと、次の瞬間には31人目の脳天を装備したヘルメットごと貫き、殺してしまった。
「ふむ……どうやら内通者はこの者のようだ。爪が強い邪気に反応し、その魂を裁断した。引き続き特定作業を進める。内通者が一人だけとは限らない!」
(なんだこいつら……裏切り者だったとはいえ、一緒に過ごしてきた仲間じゃないのか……? なのに……まるで無反応だ……これでは……特殊部隊というより、カルト、狂信者じゃないか……こいつらの言う神とはなんだ……こいつらが信じる者とは……)
100人近くいる隊員の全てをオドロマは確認し終えると「よし!」と整列を解除した。不知はそれを見て「何がよし! だよ……」と困惑していた。
「全く何がよし! なんだか……内通者がいて、裏切り者とはいえ仲間が死んだっていうのに……」
──ビクリと少し跳ねて驚いてしまう不知、まさかこの狂信者集団に自分と同じ感想を抱くものがいるとは思わなかったからだ。
「確か巻田中隊長だったか、あなたはこの集団の中では気苦労が多そうだ」
「まぁね、でも仕方のないことですよ。自分は一族の中でもハズレの者、何の力も持たず生まれた。だから気苦労をしてでも、皆を支える必要がある。しかしナイトメア・メルター、あなたも真面目な方だ、まさかこんな大所帯の全員が確認するのを見届けるとは……先程は疑ってすみませんでした。あなたという存在を信用することは、まだ難しいですが……あなたの人間性はなんとなく分かった気がします」
(できるだけ時間を稼ぐために見届けたなんて言えないな……この流れは……)
「俺がお前達に接触した結果、コレが始まったからな。なにやら物騒な感じがしたから、見届ける必要があると思ったまでだ。例え悪党と繋がりのあった者だとしても、その命が失われると言うのなら……俺は関係がないと自分を騙すことができない。俺からすると、あれで本当に内通者が見つかったのかは分からないんだが、あの爪……神器と呼んでいたな? 一体なんの神の神器なんだ?」
「……え? わ、分からないんですか!? 神子であるあなたが!? これは……どういうことだ……?」
神器の神を知らない不知/ナイトメア・メルターに対し、激しく動揺する巻田。巻田は信じられないといった表情で、ヘルメットごしにナイトメア・メルターを見つめていた。
「ふむ……神子であるあなたが神の名を
「──っ!?」
不知はオドロマに自分の名前を呼ばれたと思い、一瞬身構える。しかし少し経ってこれが自分のことを言ったわけではないと理解すると、落ち着きを取り戻した。
「ならばきっと、知らぬことにも意味があるのでしょう。どちらにせよ、いずれ知ることにはなるでしょうし、我々がここで伝える必要はない……流れに身を任せるとしようか。我々はいつでもあなたと共闘する準備ができています。何かあれば気軽に頼って頂きたい。それでは、我々は警察署の方を軽く調査していきます。ああ、一緒に調査をするならそれもいいですが──」
「遠慮しておく、俺は俺で他に調べたいことができたからな」
そう言って不知はその場を立ち去っていった。
『あいつらが内通者探しをその場でしてくれて助かったな。朱玲音は無事調査を終えて、海凪と共に学園に戻っていったよ』
人気のない裏路地でナイトメア・メルターは変身を解く。ナイトメア・メルターのスーツがプラズマの力、雷の力で制御され、不知から離れると大量の帯と板で構成されたスーツが巻き取られるような形でコンパクトな状態に変形する。それは不知の持つスクールバッグに簡単に収納できるサイズで、スーツであることを偽装するために参考書とシールの貼られた袋に入れている。
不知は参考書を使わないため友人達からすれば、見ないのになんで持って来てんだこいつ……と思われるだろうが、みんなわざわざ参考書に興味なんて持たないだろうと言うことで、不知は参考書に偽装した。
「ありがとうクロムラサキ。確認してくれて助かった……しかしどうしたものか、俺は先輩との約束を守れなかった。最初は俺が警察署の重要資料を確認して一瞬のうちに記憶するという計画だったが、俺は調査に関われていない……先輩は何かしらの資料を手に入れられたのか?」
『重要資料かどうかは分からないけれど……あのゴタゴタで逃げていった警官達の中には私物を忘れていったものもいた。スマホを充電したまま忘れて置いていったりとか、メモ帳を忘れたりとか、他にもエッチな写真とか……それらを朱玲音は回収したようだ』
「エッチな写真? なんでそんなものが警察の私物に……それはそうと、また先輩と話さないとな。俺は約束を守れなかったわけだし、俺が先輩に要求した風紀員として色々動きやすくしてもらうっていうのは……ナシになってしまうよなぁ」
『そうか? あの子はお前に対して甘いし、お前が約束を守れなかったとしても協力してくれそうだけどね』
「だといいけど」
不知はクロムラサキとの会話を切り上げ聖浄学園へと戻った。
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