第42話:火力発電所ドラゴン
「……なんなんだろうな、これ」
早朝、不知は起床すると白夜が身につけていたタイルの仮面を手に取り、調べていた。
『クラックタイルも同じようなのを身に着けていたけど、魔法の力を感じるねぇ。けれどこれは……クラックタイルでも白夜少年の魔法でもなさそうだ』
クロムラサキもまた、興味深そうにタイルの仮面をつつく。
「うーん、確かにそんな気はする。クラックタイルに関しては女性の能力者を支配下に置いて作らせたという可能性もあるが……はぁ」
『どうしたんだい不知、ため息なんてついて』
「お前は俺の心が分かるんだろ? 聞く必要あるのか? ああもう、分かってるよ。お前は会話をしたいんだよな……俺は、昨日……白夜とここで話した時、自分の過去を話そうと思ってた。俺も孤独だった、そんな過去があったって……だけど、思い出せなかった。辛いことがあったのは知ってて、感覚はあるのに、思い出せなかったんだ。おかしいだろ……? だって俺は完全記憶能力があるんだ、忘れるはずがない。精神的ショックで忘れたとも思えない……もしそうなら、俺は……雪夏を失った時に記憶を失ったはずだ」
『……不知も私も記憶の欠落があるのは同じ……もしかすると、私の記憶が戻れば、お前の記憶も戻るかもしれないね……根拠はないけど』
「なんとなくってことか……俺とお前は繋がっている。ありえない話じゃない……お前の記憶を取り戻す条件は、たしか俺が癒やされる事だったか……楽しい思い出を作ればいいって……中々難しいな。どうすればいいのかよく分からない」
『難しく考えるものでもないんじゃないかい? お前が楽しいと感じたら、そっちに進めばいいのさ』
「探すなら、日常の中か……学校、今まで通りに続けられるんだろうか? どうしようもない事だったとはいえ……生徒から結構な死傷者が出てしまった」
──ピピピ、不知のスマホに通知が来て、不知は内容を確認する。
「学園からのメッセージ……学園はしばらく休校、安全対策が万全なものとなるまでは……主な対策、最新技術である汎用魔法技術の導入、運用……これは、そうか……やっぱりそういう流れになってしまうのか……聖浄学園は、汎用魔法の研究を行うための、実験場になってしまう」
『学校に行けないんじゃ、お前の日常から楽しいモノ探しは難しそうだね』
「お、おい! 本当の事でも、言って良い事と悪いことが……──」
──ピピピ、再び不知のスマホに通知、今度は朱玲音からのメッセージ通知だった。
「学校が休止になったから、自分たちで自主的に学業、学外活動をメインで……ははは、あの人本当に行動が早いな……この速さはきっと、昨日のことがあってすぐに、学校が休校になるのを予測して、計画を立てていたのか……雪夏さんも誘ってみるつもり……か、なら行かざるを得ないな……いいだろう、論道先輩、あんたの思い通りに動いてやるよ」
◆◆◆
「こんにちはー! 集まってるのはこれで全員なのか?」
不知は朱玲音の自主学習会の集合場所である異七木大学図書館の近くにある
「こんにちはーー!! ははー! なんか新鮮かも、みんな私服だとなんかね!」
不知の好きな少女、石透雪夏。
「先輩は私服も最高ですね!」
バイト先の店主、燕児の娘、八童子烏衣。
「これはセーフだよな? だって学校じゃないしさ? なぁ不知、大丈夫だよな?」
不知の幼馴染であり親友、抜頭嵐登。
「だから大丈夫って言ってるだろう? 先生である俺がいいって言ってるからいいんだってぇ~、なんか言われても俺が守ってやるから安心しなさい!」
善人だが変人な教師、海凪竜蔵。
「これで全員よ。一応全生徒に連絡してみたけど、来たのはここにいる人だけよ」
風紀委員長の域を超越した先輩、論道朱玲音。
「ぜ、全生徒ってどうやって連絡を?」
「各学年の各クラスの知り合いに、この自主学習会のことを連絡させたのよ。文章をコピペして、グループメッセージに貼り付けるだけだから、そう手間は掛かってないはず。まぁ、アタシが来るべきだと判断した人には直接連絡を入れたけれど」
(多分俺と雪夏、海凪先生のことか? 来るべきだと思ったって言うのは。けどそうか、全生徒誘ってこの人数……やっぱりみんな精神的に来てるんだな。それとも単に学校が休みなのにわざわざ勉強したくないってだけか……)
「それより黒凰くん、あなたと一緒にいるそこの二人は? どういう関係なの?」
「ああ、えっと……俺の知り合いの子で、滅茶苦茶遠い親戚みたいな……今一緒に家にいるんですけど、置いてくるのもどうかと思ったんで、どうせなら一緒に勉強しようかなって」
不知はこの自主学習会に白夜とレルヴィスを連れてきていた。不知はロリータファッション店で女装した際、店員から化粧をされていた。不知は記憶したその経験を活かし、白夜とレルヴィスに化粧をした。さらに二人の髪色を黒く変えているため、余っ程注意深く見られなければ二人の正体を見破ることは難しい。
「滅茶苦茶遠い親戚? それってただの他人なんじゃ……まぁいいわ。けどそっちのモフモフした子はどういうことなの?」
「固有魔法ですよっ! こう、獣人ぽくなっちゃう感じの、まだ能力に目覚めたばかりで自分で制御できないみたいなんです」
「ふーん? 固有魔法ねぇ……話ばかりしていても仕方がないし、早速学外学習と行きましょう。今日は火力発電所に行くわ」
「論道、火力発電所ってあの、ドラゴンみたいな半魔体になったていう火力発電所のことかよ? どうやって許可を取り付けられたんだよ……」
(嵐登、論道先輩にタメ口だとッ!? だ、大丈夫か……? って、よくよく考えたら嵐登と朱玲音先輩って同学年か……それなら問題ないのか……? でもどうだ? 俺……同学年だったとしても論道先輩に敬語使ってそうだ……圧力が……)
「ああ抜頭くん、それはあれよ、事情を話したら分かってくれたわ。急な話で申し訳ないけど、学園がマフィアに襲われてまともに勉強できる環境がなくなってしまって、アタシ達可哀想なんです、助けてくれませんか? 駄目だったら新聞社に学外学習へ行くつもりですって」
「ちょっ、論道君ッ!? 駄目だったら新聞社に行くってそれ……半分脅しじゃないのか……? 拒否されたら可哀想な私達を助けなかった発電所の奴らはカスみたいなさぁ……記事を書かせちゃうよって、そういうことだろ? やめようよ、こういうのはさぁ……胃が痛くなってくるから……アイタタタ……」
「脅し? さて、なんのことやら……別にいいでしょ? 本当に次の学外学習は新聞社にしようと思っていたのだから。アタシ達は自分たちの生活に関わるモノを今一度正しく把握する必要があるのよ。日常というのが、簡単に崩れ去るのが普通になってしまったのなら、ね」
◆◆◆
異七木火力発電所、昭和中期に建てられ、それは異七木の工業化と発展と同時期のことだった。火力発電所を建てるという政府から提案があった時、異七木は建設地を指定した。その場所以外では建てることがないと。政府はこれを訝しく思ったが、建設がスムーズに進むのならとそれ意見を飲んだ。
火力発電所は規模としては中規模のもので、後々これだけでは異七木の電力全てを補うことは難しくなった。そのため異七木は水力発電所を建てることになるが、これも火力発電所と同様のことが起こった。異七木が指定した場所で建設するのであれば、反対する者は誰もいない。例え建設によって一つの村が水没するとしても。
「でっけー! これが噂の火力発電ドラゴンか!!」
「あー君! そんな風にアーモンドに近づいたら危ないよ!!」
山の麓にある火力発電所、山は一つだったが、今ではまるで二つあるかのように、大きな、生きた山がある。火力発電所が精霊と融合し命を持った半魔体、火力発電所ドラゴンのアーモンド。アーモンド色の鋭い眼光を持った、全高50m、全長150m、火炎の力を宿したドラゴンだ。
ロマンの塊、怪獣映画が大好きだった嵐登は興奮してしまい、走ってアーモンドに近づいてしまう。嵐登はどうしても正面からアーモンドの顔を見てみたかった。
──フゴオオオオオ!
「ぬわああああああああ!! あち、あちちちち!!」
嵐登はアーモンドの熱い鼻息に吹き飛ばされる。
「あーもう、危ないって言ったのに……アーモンドはこう見えて結構臆病なんだ。びっくりさせると駄目なんだ、機嫌が悪くなる」
「すみません、うちの生徒が……しっかり指導しておきますんで……発電ドラゴン管理官さん、発電ドラゴンの事を教えてもらってもいいですか?」
海凪は先日の警察署での出来事もあって、外の授業では可能な限り真面目に徹することにした。朱玲音と雪夏、不知からすると違和感があるが、同時に海凪の改善の意思が見られた。
「ええ、構いませんよ! アーモンドは、火力発電所ドラゴンは食べたモノを体内で燃やして、電気を生み出し、それを放出することができるんです。ほら、そこに金属の大きな輪っかがあるでしょ? あれを噛んで電気を流し込むんですよ。本当、この子凄いんですよ? 燃やせるなら食べるものはなんでもよくて、逆に言うと燃えづらい金属とか石が嫌い、一番好きな食べ物は木、ね、アーモンド?」
「グオオオン」
「おお! ドラゴンが返事したぁ! ドラゴン管理官さんにすっごく懐いてるんですね!」
雪夏はドラゴン管理官さんの言葉を肯定するように鳴いたアーモンドに動物を感じ「可愛い~」と感激している。そんな雪夏を不知は見ている。ニヤつこうとする口元をどうにか抑えようとしているが、ちょっぴりニヤつきがはみ出ている。
「ははは、うん、仲良しなんだ。ドラゴンに限らず半魔体は自分が気を許した相手、仲の良い相手にしか力を貸さないみたいでね。オレは元の世界じゃ火力発電所で働く下っ端の一人に過ぎなかったんだけど、ドラゴンと、アーモンドと相性がよかったみたいで、意思の疎通ができたんだ、そしたらドラゴン管理官になって、給料も凄くあがったよ」
「なるほど、では実質的にドラゴンの力はドラゴン管理官が居なければ人の元に還元されないということですか? もしそうなら、ドラゴン管理官はある意味で権力というか、影響力を持つことになると思うんですが、ドラゴンの力を狙う存在に狙われたりとかはなかったんですか?」
朱玲音は真面目にメモを取りながら、ドラゴン管理官に質問する。
「そうだね、ドラゴン管理官がいなければドラゴンの力は人々に還元されない……君は鋭いね、オレが悪いヤツに狙われた事もすぐに分かったんだ? じゃあこうして、オレがいることを不思議に思うんじゃないかな? その理由はこれさ」
ドラゴン管理官が手を空に向ける。すると手を伸ばした先の空に穴が空き、穴から真っ赤とオレンジの光がドラゴン管理官に降り注ぎ、包み込んだ。高純度の炎の魔力、炎の概念の力を宿した光が渦巻き、渦巻く光の炎はよく見ると生命体のように脈動していて、鼓動と感情があった。
「これはアーモンドの炎の加護、オレに危険があると自動的に発動する。オレを拉致しようとした悪い奴らは一瞬で消し炭になったよ。この炎は凄いんだ、悪党が燃える時、炎は辺り一帯を焼いた。悪党以外にも人は沢山いたのに、燃えたのはオレに敵対心を抱いていた悪党だけだったんだ。まぁ、所長も一緒に燃えちゃったんだけど……後で調べたら所長が悪党を手引していて、不正もかなり行っていたのがわかったんだ」
「加護……? う……あ……」
「どうした
優夜、白夜の偽名、不知が外ではそう名乗るように白夜に言った名だ。不知は白夜のそわそわとした態度を見て、聞きたいことがあるのだろうと、白夜の背中を押した。
「えっと……半魔体の加護って、どんな半魔体にもあるんですかね?」
「うーん、オレはアーモンドの加護しかないし、他の半魔体と仲のいい人って同じドラゴン管理官の人、水力発電所の半魔体と仲がいい人しか知らないからなぁ……でもあるんじゃないかな? なんというか、加護があるとこの子と、アーモンドと魂の繋がりができているような感じがするんだよ。だからドラゴン以外の加護がどんなものかは分からないけど、魂の繋がりがあるのなら、きっと加護はあるんじゃないかな。でも大事なのは、その半魔体も自分も、楽しく、幸せに過ごすことだと思う。加護っていうのはさ、幸せを守りたいと思う、願いなんじゃないかなって思うから」
「幸せ、楽しく……そうなんですね」
幸せも楽しさも、白夜は知らない。分からないことをすればいいと言われたようなもので、白夜は落ち込み、顔を伏せる。
「びゃ、ゆうや~! 大丈夫、れ、ゆうひもゆうやも、良いことあるよ。今日も、ドラゴン見て、凄くて、楽しかった! そうでしょ?」
不知はレルヴィスに偽名として
「そうだね、ドラゴン凄いよね!」
「そうだぞ、ドラゴンは凄いんだ。これ程大きな力を見るのは始めてだ、けど大きいだけじゃない、優しいんだ」
不知は白夜とレルヴィスの頭を両手でそれぞれ、わしゃわしゃと撫でた。
「……っ、ドラゴン管理官さんが加護をアーモンドの加護を見せてくれただろ? あの時見た光からは、なんだか、優しさを感じた。ドラゴン管理官さんの事が大好きだって気持ちがアレにはあった気がする。人だろうと、半魔体だろうと、大事なのはきっと、そういう優しさなんだよ。だから……それを守ることも、必要なんだ」
『不知……お前……思い出したのか……?』
(ああクロムラサキ、白夜とレルヴィスの頭を撫でた時、昔俺もされたことがあるって、そう感じたら。記憶が少し、蘇ってきた、俺の過去が……)
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