第14話:同志
「不知くん、大事な話って? 一体どういう……」
──ガシャァン!
八童子なんでもサービスの作業場のシャッターが勢いよく閉められる。まだ開店時間だったが、不知は話をするために、閉鎖された空間が欲しかった。
不知のただならぬ雰囲気に燕児は気圧される。
「これじゃ防音がまだ不十分かな。燕児さん、防音材に使えそうなのないですか?」
「あ、ああ……そこの緩衝シートを使っていいよ……」
燕児は正直な所、なぜ防音が必要なのか分からず、なんとなく犯罪のような雰囲気を感じ、少しの恐怖心を抱いた。
不知はシートを慣れた手付きでシャッターと一部の壁に貼り、防音処理を部屋に施した。そうして不知は燕児の方を振り返った。
「最近話題になってるパーカーの男を知っていますか?」
「え? あ、ああ……聖浄学園に現れたヒーローっぽいのだっけ……」
「あれは俺です」
「え……?」
──パァアア。
不知は自分がパーカーの男であることを証明するために、プラズマのアーク光を体表に発生させる。燕児の目を焼かないために光の威力を抑えたそれは、不知の腕を白く輝かせた。
「……う、嘘だろ……じゃあ、あのデビルシックスを殺したのも、君が……? けど、なんだって僕にそのことを教える必要が……」
「俺一人では限界がある。だから一緒に戦ってくる人が欲しかったんです」
「た、戦う!? そ、そんなの無理だよ! 僕に戦闘能力はないし、犯罪者と戦うなんて危険なことはできない……娘がいる、僕が死んでしまったら娘は、
不知の提案を拒否する燕児、それも当然な話である。誰が”殺し”もやる、過激な自警団員、それも犯罪組織に目をつけられていそうで、自分からぶつかって行きそうな男に協力しなければいけないのか。
どう考えても危険過ぎる。燕児からすれば協力などありえない、なんのメリットもないように思えた。
「きっと、俺の協力者になるのはあんたしかいない、これは運命なんだ」
「運命? 一体何を言ってるんだ! 僕は自分や娘の平穏を壊すような真似はしたくない……!」
燕児は目の前の男が殺しも厭わない、手段を選ばない男だと判断する。自分に戦う力はないと言った燕児は、己の弱さを自覚していたが、震えながらも、勇気を振り絞って強い意志を不知に見せる。
「俺は未来を知っている。過去に戻ってきたと言えばいいのか……俺は、過去の未来で、大事な人の未来を奪われた、殺された。殺した者の名はクラックタイル、自分の存在を巧妙に隠して、世に出る頃には世界を壊す準備を終えていた。もっとも、俺は奴が世界を滅ぼす所は見ていないが……」
「はぁ? 今度は未来からやってきただって? いい加減にしてくれよ!!」
「石透雪夏、それが俺の守りたい者の名前、今の俺は彼女を守るために生きている、そのためだけに行動している。彼女は過去の世界で、クラックタイルに精神を殺され、魔法によって生きた人形に変えられ、操られた状態で俺の前に立ち塞がった」
「……それが本当だったとして、悲しいことだとは思うけど……僕には関係のないことだよ。君の大事な人のために、命は掛けられない……僕は知らない人のために命を張れるような、ヒーローにはなれない」
不知の淡々と話す語り口、真剣さに、燕児はもしかしたら本当のことなのか? と思い始める。信じ難いと否定しようとしていた心は、揺れていた。けれど、それでも燕児の選択は変わらない。
「俺はこの世界の魔法という力を理解し、元あった世界の力、機械の力を組み合わせたあなたの作品を見て、凄いことだと思った。悪い言い方をすれば、使えると思った。クラックタイルと戦うために、必ず役に立つ、そう思った。あなたには俺に協力する理由なんてないとは思いつつも、俺はあなたを、燕児さんのことを調べた。家族構成、趣味趣向、性癖から行動パターン、行動範囲まで」
「え……?」
「だからあなたが同性愛者であることも知っている。というか、それであなたがクラックタイルではないことが確定したんだ。けど、あなたには娘がいる。あなたを監視してすぐに分かった。あなたは娘さんを深く愛している、とても大事なんだと……過剰なぐらい過保護で、少し疎まれるぐらいにはね。しかし……俺はあなたの娘さんを知っていた。燕児さん、俺があなたと知り合い、あなたを調べるよりも先に、俺はあなたの娘さんを、その顔を知っていた」
「ま、待ってくれ……娘になんの関係が……」
「あなたの娘さん、
過去の世界で、クラックタイルと対峙した不知の前に立ち塞がった二人の少女、その片割れが八童子燕児の娘、八童子烏衣だった。不知と同じ、聖浄学園の制服を着ていた。
「……いや、そんな。こんな馬鹿げた話……」
不知の話を俯きながら聞いていた燕児は、顔を上げ、真実を見極めようと不知の顔を見た。一点の曇りもなく、真剣そのものな、誰かを強く思う心が、不知の顔には現れていた。
「本当のこと、なのか……なら、君の言う運命というのは……そういうことなのか。このまま君の宿敵を放置して、時が経ってしまったら、あの子は……烏衣は……殺されてしまう……いや、ただ殺されるよりももっと酷い、人形として、死後もその肉体を弄ばれるのだとしたら……それは……存在の凌辱だ」
「俺はあなたに、なんの根拠も見せてやることはできない……だけど、本当のことなんだ。信じてくれ……! 俺は、クラックタイルを絶対に止めなきゃいけないんだ!」
不知は燕児に対し深々と頭を下げ、懇願した。
「……選択肢なんてない。烏衣は、あの子は、僕の命よりも大事な、大事な娘なんだ。悪党が僕の娘を殺すと言うのなら……そうなる前に、そいつを殺してやる! 不知君、僕は君に協力する!」
燕児の不知に対する恐れ、警戒心は消えていた。不知と燕児は互いの手を取り、決意と結束を固めた。
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