第35話 美しい坊主コンテスト

11月、文化祭の予定が発表され、その中に「美しい坊主コンテスト」なるものが含まれていることを知った勇一は驚いた。これは1年生のあるクラスが提案した企画で、出場者は全員五厘刈りとなり、その頭の形の良さや美しさを競うというものだった。一部の生徒たちはこのアイデアに興奮し、競うように五厘刈りになり、大会にエントリーをしていた。


入学から半年もすると同級生たちの中にはこのように、自分自身の丸刈りを楽しんでいる者もいたが、勇一はそんな彼らとは異なり、未だに自分の丸刈りに馴染めずにいた。しかし、宏太もこの大会にエントリーをしたと聞いた時、そのステージで最も輝くのは宏太であると勇一は確信していた。なぜなら、彼の五厘刈りは完璧で、容姿も誰に劣ることもないほど整っていたからだ。


文化祭の当日、コンテストの会場は熱気に包まれていた。舞台の上では各出場者が順番に名前を呼ばれ、パフォーマンスを披露する。そして、宏太の名前が呼ばれたとき、会場中が一瞬静まり、次に爆発するような拍手が起こった。宏太は笑顔でステージに上がり、頭を丸めるように手を滑らせ、審査員と観客にその均一な五厘頭を見せた。


結果発表の時が来て、文句なしの優勝者として宏太の名前が呼ばれた。その瞬間、勇一は不思議と嬉しさを感じた。それは自分が思い描いていた通りの結果だったからだ。


優勝者への賞品、新品のバリカンを手渡す役割を果たしたのは、この学校で唯一の丸刈り免除生、伶司だった。伶司が丸刈りを免除されていることは、生徒たちにはすっかり受け入れられていた。彼がからかわれたりいじめられたりすることもなく、今では皮肉にも美しい坊主コンテストの審査員にすら選ばれていたのだ。そのバリカンを受け取った瞬間、宏太は一瞬だけ勇一の方を見た。その視線を受け取り、勇一の心はときめいた。


賞品を受け取った宏太は、少しだけ照れ臭そうな顔をしたものの、マイクにすっと向き直り、微笑みながらスピーチを始める。


「実は俺、西中に転校するまでは、髪がめちゃくちゃ長かったんだ。だから、この学校が丸刈りが校則だって聞いた時、驚いたし、正直、怖かったんだよ。夏休みの間もずっと髪を切れなくて、結局最終日に普通の髪型に切るのがやっとだった。でもさ、初日に教室で、クラスのみんながすんごい自信を持って丸刈りしてるのを見て、なんか、素直にかっこいいと思っちゃったんだ。だからその日のうちに床屋に行ったんだよ。


今となってはさ、前の学校で長い髪にこだわってた自分が、ちょっと馬鹿馬鹿しく思えるんだよね。今はこの西中で自分も丸刈りになって、そんな自分が大好きだって思えるし、みんなの丸刈りも、マジでかっこいいと思ってる。この気持ちはこれからもずっと変わらないって確信してるよ」


宏太のスピーチが終わった瞬間、会場は大きな歓声と拍手に包まれた。その景色を見て、勇一はまた、自分が別世界にいることを強く感じた。それは丸刈りを全うに受け入れ、それを自分の一部として生きる宏太と、まだその丸刈りを受け入れられない自分との違いだった。

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