第32話 強制丸刈りデー

10月がやってきた。西中では体育祭の季節だ。校庭には生徒たちの活気があふれ、もうすぐ訪れる本番の日に、誰もが期待で胸を膨らませていた。しかし、その中で一人だけ異なる感情を抱いていたのが勇一だった。


入学から半年経った今でも、彼はまだ丸刈り校則を受け入れられていなかった。他の生徒たちはすっかり丸刈りになじんでいたが、彼にとってそれはまだ心の中で大きな壁となっていた。体育祭の準備の中で笑顔を見せる同級生たちを見て、勇一はひとり心に深い孤独を感じていた。


体育祭の前日、全男子生徒が体育館に集められ、実行委員長の3年生から予期せぬ発表があった。「今から全員五厘にする」。


勇一が耳を疑ったこの言葉の意味は、体育祭を前に1年生全員を五厘刈りにするというもので、強制丸刈りデーと呼ばれていた。それは実は西中の長年の伝統であったが、その存在は先輩たちによって故意に隠されていたため、勇一たち1年生は何も知らずにこの日を迎えていた。


強制丸刈りデーでバリカンを使うのは3年生たちだ。彼らはかつて自分たちも、この驚愕を経験したに違いない。それなのに、後輩たちの頭を刈るのを楽しみそうに、ワイワイと儀式の準備を進めていた。2年前、彼ら自身、この日にどれほどの不安と怒りを感じたのだろう。しかし彼らは、同じことを次の世代にも強いていたのだ。その事実に対して、勇一はひどく複雑な感情を抱いた。また、彼らが故意にこのイベントの存在を隠していたという事実にも、彼は強いフラストレーションを覚えていた。


体育館の中は興奮で一杯だった。3年生たちは後輩たちの頭を次々に刈り上げていき、大声で笑っている。中には頭髪を十文字に刈られたり、ハート型に残されたりと、明らかに遊びながら刈られている者もいる。後輩の頭をおもちゃのように扱うこの行為、そして、白い体操服の短パンに上半身裸、裸足という格好で家畜のように扱われ、次々を頭を刈られていく1年生たちの不安そうな表情を前に、勇一の心は恐怖で満たされた。


勇一は、彼が唯一の救いと思っていた宏太の姿を探した。自分自身が再び五厘刈りにされる恐怖はあったが、それと同時に、同じ運命を迎える宏太の姿を目にすることへの期待感が、勇一の心を掻き乱していたのだ。


そして、その時、宏太が起こした行動に、勇一は息を飲んだ。宏太は刈り手の3年生からバリカンを取り上げ、堂々と自分の頭を刈り始めたのだ。それはあまりにも予想外の行為で、勇一は思わず息をのんだ。宏太の顔はまったく動じていなかった。毅然とした表情を浮かべて、自分の髪を刈り落とす彼の姿は、見ている者たちに強烈な印象を与えていた。しかし彼の目は、決して他人を見なかった。


その姿に、勇一は驚きと混乱を覚えつつも、何故か心に渦巻く感情を抑えられなかった。その驚きと混乱を抱きつつ、勇一自身も刈り手の前に座る。自分自身が再び五厘刈りにされるその瞬間、彼の頭の中は完全に、宏太が自分の頭を刈り上げる衝撃的な姿で埋め尽くされていた。

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