第17話 塾でのからかい
すうっと深く息を吸い、胸を覆うさまざまな感情を一時的に横に置いた勇一は、家の門を開け、再び自転車に跨る。今日は彼が明日からの春休みに通い始める学習塾の、クラス分けのテストが行われるのであった。
それは翔陽小の校庭から見える位置にこの春開校したばかりの塾で、県内ではテレビCMも放送されている有名校の新しい校舎であった。小学校最後の掃除当番でその建物が建設されていく様子が見える場所を担当していた勇一は、新しい何かが始まるワクワク感から、自ら通いたいと親にねだったのだ。
自転車を駐輪場に停めた勇一が周囲を見渡すと、そこには西中の学ラン、野中のブレザー、そして少数ながら桜野東中のブレザーや隣町の塚川中の学ランを身にまとった生徒たちが集まっている。彼らは皆、新たな学びの場での出会いや成長を期待しているように見えた。
教室の前に立った勇一は深呼吸を一つし、その手でゆっくりと扉を開ける。その瞬間、勇一の目に入ったのは、机に座って椅子の背もたれに足をかけ、西中の制服を着た小学校時代のクラスメイトと会話する尊文の姿だった。
「あっははははは! なんだよ、その頭!」
彼は丸刈りになった勇一を目にした瞬間、爆笑を始める。教室中に響き渡るその笑い声は、勇一の耳に突き刺さるように感じられた。やがて尊文は、「触らせてくれよ」と、勇一の頭に手を伸ばす。勇一は昼間の卒業式とは違う尊文の大胆な態度に戸惑いながらも、逆らえずにその場に止まった。
「すげえ、毛虫みたいだな!」
尊文の指先が勇一の頭に触れると、彼は笑いながらそう言った。しかし、勇一は言い返すことができず、ただ黙ってそれを受け入れることしかできなかった。彼は自分の弱さと無力さを痛感しながら、「これ何ミリ?」「なんで卒業式には切ってこなかったんだ?」などと言いながらクリクリと執拗に自分の頭を撫で回す尊文の手に身を任せる。勇一は、自分がただの道具のように扱われているような惨めな気分を味わっていた。
テストの最中も、周囲が自分の頭ばかりを見ているような気がして恥ずかしさを感じる勇一。とりわけ後ろの席の尊文に、自分の後頭部がどう見られているのかが気になっていた。
「おい、ハゲ!」
テストが終わった後、用紙を回収する際、尊文が後ろから用紙を渡しているのに気づかなかった勇一は、尊文からそう声を張り上げられる。それが自分に向けられた言葉だと思わなかった勇一がさらに気づかないでいると、尊文は再び声を荒げて「お前のことだよ!」と言い、答案用紙の束で勇一の丸刈り頭をパシャンと叩いた。
教室中に広がる笑い声。その瞬間、勇一は「ハゲ」と呼ばれているのが自分であることを理解し、悲しみで心がいっぱいになった。そして、その場から取り残されてしまったような孤独感を感じていた。
周囲の笑い声が収まると、勇一はただ一心に、今すぐ自分の丸刈り頭を隠したいと願った。しかし、そこにはそれを覆うものは見つからず、その代わりに突きつけられたのは深い孤独感と、自分が哀れみの目で見られているという屈辱感であった。
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