第42話 長髪中との練習試合
4月、2年生になった勇一と宏太。クラスはやはり別々になったが、宏太はバレー部に入部し、日々激しい練習に励んでいた。練習は厳しく、汗にまみれる日々だったが、体格に恵まれ、常に前線で活躍する宏太の姿は、部の中でも特に目を引く存在になっていた。
その汗で湿って光る丸刈りの頭は、一種独特の美しさを放っていた。頭皮の曲線がはっきりと浮き出て、それがさらに強烈な光を反射し、まるで光る彫刻のようだった。勇一はそれに思わず見惚れることが多く、自分の丸刈り頭に何となく劣等感を覚えることすらあった。
練習中、2人の仲の良さを目した部員たちから、「お前ら、付き合ってるんじゃないの?」と冗談めかした言葉が飛び交うことがあった。しかし、思わず焦ってしまう勇一とは裏腹に、宏太は冷静に「そうだよ」と笑って冗談にしてくれる。実際付き合ってはいないのだが、勇一は、自身が宏太に抱くこの感情は一体何なのだろうと、自分の内面と向き合うことが多くなっていた。友情以上、しかし恋愛とも違う何か。確かなのは、自分が宏太との強い絆を感じ、彼とずっと一緒にいたいという思いだけであった。
4月下旬、勇一と宏太は、隣町の川鍋市の中学校を練習試合で訪れていた。今年の1月から丸刈り校則を廃止したという対戦相手たちの髪の毛は少し伸びて、サイドはきれいに刈り上げられていた。それを見て勇一が思わずつぶやく。
「いいな…」
しかし、宏太は淡々と答えた。「髪を伸ばしてもバレーがうまくなるわけじゃないさ」その言葉にも関わらず、勇一の目は対戦相手たちの自由な髪型に引きつけられていた。そんな中、何度か試合で対戦したことのある顔見知りの男子が、勇一たちのもとへ詰め寄ってきた。
「お前ら、まだ丸刈りなの? 一生丸刈りでいるつもり?」彼は皮肉たっぷりに言った。言葉を失った勇一。その間にも男子は言葉を続けていた。「原始人だな、お前ら。うちまで田舎者に見られるから、もう来るなよ」
その言葉に宏太が反撃する。「だったら、わざわざ話しかけてくるなよ。自分たちが上だと思ってるの? 髪型で人を判断するなんて、原始人の方がまだましだよ」その言葉に男子の表情が一変。思わず手を上げ、宏太に向かって振りかざす。
男子の拳が宏太の顔面を直撃する。勇一の耳にはその音だけが鮮明に響き、周囲のざわめきが一瞬消えたように感じる。しかし、宏太はまるで機械のように反射し、相手に対し反撃の拳を繰り出した。男子は驚愕の表情を浮かべたが、再び宏太に向かってつかみかかる。互いに絡みつき、両者の闘争は一瞬で熱を帯びていく。
「やめてよ、宏太!」勇一がそう叫びながら止めに入ろうとするが、男子に突き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられる。強烈な衝撃が頭を貫き、意識がぼやけていく。それでも勇一は必死に目を開け、宏太の姿を追う。その場にいた人々は、ただ呆然とその光景を見つめていた。
勇一の視界は次第に暗くなり、聞こえてくる声や足音も遠くなっていく。力が抜け、全身が地面に沈んでいく感覚。だが、最後まで焼き付いたのは、すでに動かなくなった男子に、それでも拳を叩き込み続けている宏太の姿だった。
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