第26話 最底辺の丸刈り

バリカンの低い音が後頭部から近づき、ついには頭の上で鳴り響く。頭皮に触れるバリカンの刃の冷たさ、視界の中に落ちてくる髪の毛、そして他の男子たちの髪の毛でほぼ満杯になっていたゴミ箱の中に、自分の髪が混ざっていく様子。それらが全て、勇一の心をさらに深く暗闇に引き込んでいった。それでも、彼は何も言わず、ただ静かに涙を抑えつつ、その瞬間を耐え忍んだ。


刈り終わった後、勇一の手が自分の頭に伸びる。3回目のバリカン、そして彼の人生で最も短い五厘の刈り上げ。その冷たい現実に直面した勇一の心は、絶望感に飲まれた。


クラスメイトたちはみんなで写真を撮ると言い、大盛り上がりで担任にカメラを向けてもらっている。勇一は、その中で笑顔を作ることができない自分に、さらなる落胆を感じていた。周囲が一体となって楽しむその瞬間に、自分だけがその輪から外れているような感覚。勇一の心は孤独と無力感でいっぱいだった。


その日の塾の教室は、勇一にとって、まるで過酷な戦場と化していた。彼の丸刈り頭を指差し、クラスメイトたちは「うわっ、まぶしい」「出家でもしたの?」と残酷な笑い声をあげる。もちろん尊文も、最近西中で万引きで補導された3年生がいたという噂をもじって「刑務所みたいな頭だな」「お前らにはその頭がお似合いだよ」と、いつもの皮肉を言い放つ。


勇一が許せなかったのは、同じ西中の丸刈りの同級生たちでさえ、自分を下に見て、まるで勇一が最底辺の人間であるかのように扱ってきたことだ。彼ら自身も同じく丸刈り校則に苦しんでいるはずなのに、その不満の捌け口とでも言わんばかりに自分をバカにしてくるクラスメイトたちの態度に、勇一の心はさらに深い絶望感に打ちのめされていった。


夕食の時間、家族は勇一の五厘刈りを見て、笑いながら「ツルツルだね、お坊さんみたい」と言った。その無邪気な笑い声が彼の心に刺さり、深い傷を刻む。勇一は、息子が坊主になるのがかわいそうだと、丸刈り校区から逃れるようにして野中校区へ引っ越した光輝の家族の姿を思い出していた。


夕食が終わり、家族がテレビに集まる中、勇一はこっそりと廊下にある電話に手を伸ばした。指先で緊張しながらダイヤルを回すと、電話の向こうでほどなくして光輝の声が響いた。


「あ、勇一。どうしたの?」光輝の声はいつも通り、明るく元気だった。


「いや、特に…」勇一の声はわずかに震えていた。「ただ、久しぶりに話したくなってさ」


勇一はその後、学校のこと、友達のこと、最近読んだ本のことなどを話し始めた。しかし、彼が一番話したかったこと、今日、自分が五厘にされたことは、一言も口に出すことはなかった。


電話を切った後、勇一は心が少し軽くなったことを感じた。それと同時に、逆になぜ光輝が、今の電話の中で、一切丸刈りの話をしなかったのかが気になっていた。光輝が彼の気持ちを思いやってあえて話題にしなかったのか、それとも、もう西中の丸刈り強制のことなどすっかり忘れてしまったのか。勇一はその答えを探しながら、自分の心情と向き合っていた。

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