第27話 抜き打ち頭髪検査

7月中旬の明るい日差しの下、教室は、生徒たちのざわつきで満たされ、まるで台風が来る前のような不穏な空気をたたえていた。生徒指導の教師が発表したのは、夏休み前の抜き打ち頭髪検査。そのニュースは男子全体を驚愕させ、教室には一気に張り詰めた空気が充満した。


男子たちは、6月ごろからしばらく散髪を控えることで、夏休みを少しでも長い髪の毛で過ごそうとしていた。しかしそんな彼らの期待は、抜き打ち検査の発表で一瞬で打ち砕かれる。中でも、球技大会で無理矢理五厘にされて以来髪を切っていなかった勇一の心は、特に混乱していた。髪を切っていないこと自体には罪悪感を感じていたが、抜き打ち検査という予想外の事態に、彼の心は震えていた。


やがて、全校の男子生徒が体育館に集められる。一列に並ばされ、検査を待つ間、自分の髪が丁度違反のギリギリにあることを自覚していた勇一の心臓は、猛烈に鼓動を打ち始めた。そして彼は、近づいてくる自分の番を前に、違反者として列からつまみ出され、並ばされていく生徒たちの数が、いつもの頭髪検査よりもはるかに多いことに気づく。今まで合格とされていたはずの髪の長さの生徒までもが、次々と違反とされ、引き立てられていたのだ。


ついに勇一の番が回ってくる。避けては通れない、必然の刻。教師の生暖かい手が彼の頭を包む。もう、結果は明白だ。


「違反です」


結果、違反者として体育館に残されたのは、勇一を含む生徒全体の3分の1ほど。異常な状況だ。これまで学校では経験したことのない緊迫したシチュエーションに、彼の心は激しく揺れ動いていた。


やがてなされた教師の宣告に、体育館は一瞬、静まり返った。「今からお前たちを五厘にする。服を脱いで、正座しなさい」と。


勇一は目の前が真っ白になった。耳鳴りすらしていた。確かに、散髪のタイミングを微妙に調整し、夏休みを少しでも長い髪で過ごそうと思っていた自分には、罪悪感があった。しかしこれは、ただの頭髪検査ではない。見せしめのための懲罰だ。教師が、夏休み前に気の緩んだ生徒たちを戒めるために、いつもより多く違反にしたのだと悟ったとき、勇一の心は深い絶望に包まれた。


体育館にブルーシートが広げられ、その上にいくつものバリカンが転がされている。ああ、ここでまた五厘にされるのだと思った瞬間、勇一の心は一段と深く沈んだ。


丸刈り頭にパンツ一枚という惨めな姿にされ、ブルーシートの上に正座させられた男子たちは、一様に肩を落とし、顔を伏せ、何も言えないまま静かに待っていた。その中には、勇一の姿も含まれていた。


やがて教師の手が一人ずつ、頭にバリカンを入れていく。周囲から上がる刈られた髪の落ちる音と、バリカンの機械音が混ざり合った音色は、その場に耐え難い重圧を生み出していた。


自分の額にバリカンが入る瞬間、勇一の心は絶望で満たされた。夏休みが始まる直前の、これ以上ない最悪のタイミングでの五厘。それは髪の毛だけでなく、自尊心まで刈り取られる感じがした。その絶望感は勇一の心を飛び出し、体育館全体を包んでいるようだった。

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