第2話 先輩たちの丸刈り

勇一は、 翔陽小で4年生からバレー部に入っていた。彼が6年生に進級したばかりのある春の日、前年度に小学校を卒業した1つ上の先輩たちが部室に遊びに来たことがあった。


先輩たちの髪型には明らかな違いがあった。半数の先輩たちは丸坊主。彼らは勇一が通うこととなる西中に進学し、校則によって丸刈りにされていた。一方もう半数の先輩たちは、小学校時代と変わらない髪型を維持していた。彼らは、通う野中に丸刈りの校則がないため、自由に髪を伸ばすことができたのだ。


勇一は、つい先月まで一緒に部活を楽しんでいた先輩たちの髪が完全に剃られ、頭皮が露出している光景に、強い衝撃を受けた。そしてまた、残り半分の先輩が、髪の毛を切らずに普通に過ごしているという残酷な対比にも、強く胸を締め付けられた。


それまで勇一は、中学校での丸刈り校則を知ってはいたが、知人が丸刈りにした姿を実際に見るのは初めてだった。丸刈りの先輩たちの頭は、勇一にとって現実の一部ではあったが、それが自分自身にも関わることになるという事実が、一層の衝撃を与えたのだ。


この日を境に勇一は、自身も1年後には丸刈り校則のある中学校に入学し、坊主頭にならなければならないことを強く意識するようになった。彼は先輩たちの姿を見て、未来の自分がどんな風になるのかを想像した。そして丸刈りの校則に従わざるを得ない現実に直面し、やや重い心情を抱えるようになったのだ。


このとき勇一は、自分が自由に髪を伸ばせる時間が限られていることを感じた。自分に残された時間はごくわずかであり、来年からは丸刈り校則に従わなければならない。この事実は、彼の心に重くのしかかった。


勇一は、幼少期から容姿に恵まれていた。その端正な顔立ちと髪の艶やかさは、周囲からも頻繁に褒められることがあった。彼は自分の外見に特別な努力をせずとも、人々から好意的に接してもらえることを知っていたため、髪型やファッションにはあまり興味を持たず、自分の容姿に特に意識を向ける必要も感じていなかった。


ところが、小学校卒業を間近に控えた3学期。勇一は、周りの西中進学予定者たちが少しずつ髪を短くしており、眉毛にかかるような前髪を保っているのが、学年でも自身を含めた数人にまで減っていることに気づいた。この事実は、それまで髪型や容姿について無頓着だった勇一にも、不安と焦りを芽生えさせていた。


そんな中で、クラスでもう1人、西中に進学予定なのに長い髪を保っている光輝みつきの美しい容姿が、勇一の目には際立って見えた。光輝の髪はやや赤茶色で艶やかで、まるで陽光を受けた絹糸のように光り輝いていた。前髪は眉にかかり、彼の目をやや隠していたが、その透明な瞳は輝いて見えた。


勇一は、友人たちが次第に髪型を丸刈りに近づけていく中で、長いままの自身の髪型を異端的に感じていた。しかし、美しい容姿だけでなく、心の優しさや誠実さも備えた人気者の光輝が、ともに西中に進学し、丸刈りにされるという似たような状況に置かれている事実に共感し、内心で安堵していたのだ。

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