カミスト
丸刈り校則被害者の会
第1話 制服採寸
「ちょっとキツめでいいのよ。今は髪の毛があるけど、中学校に上がったら坊主だから。ピッタリのサイズにするとゆるくなっちゃうよ」
1月下旬のある晴れた日。
勇一もその中の一人で、試着コーナーに立っていた。彼は、4月から進学する予定の桜野西中の制服を着て、制帽をかぶってみていた。しかし、それが少しキツく感じたため、顔をしかめ、店のおばさんに向かって、「この帽子、ちょっとキツいんですけど」と言ったのだ。
「えっ?」
今はキツめでもそれがちょうどいい、というおばさんの意外な言葉に、勇一の口から不安そうな声が漏れる。おばさんは、「勇一くんは西中でしょ。校則で坊主なの、知ってるよね」と、笑顔で続けた。勇一はその言葉に、胸の奥底から強い拒否感を覚えた。
翔陽小のある桜野市は、県庁所在地である飛鳥山市の南東部に隣接し、ベッドダウンとして発展してきた人口10万の中都市だ。了和から慶成へと元号が変わった春。桜野市でも新しい時代を迎えるにあたり、昔ながらの風情を残す街並みにも、少しずつ変化の兆しが感じられるようになっていた。
勇一が通う翔陽小の生徒は、その住んでいる地域によって、桜野市中央部にある桜野中学校(野中)と、隣の塚川町と校区を接する桜野西中学校(西中)の2校に分かれて進学することになっていた。ところが、この西中にだけ、男子生徒に対して独特の校則があったのだ。
それは、入学する全ての男子生徒が頭を丸刈りにしなければならないというものである。この校則は、西中の創立以来30年の伝統に基づいており、中学生活を通じて、規律を重んじる精神を養うというのがその目的とされていた。
この丸刈り校則は、西中の生徒たちにとって、中学生活の大きな壁となっていた。特に、見た目に自信があり、髪型にこだわる生徒たちにとっては、この校則が大きな悩みの種となっていた。勇一もその一人で、丸刈りになることへの恐怖と抵抗が彼の心を苦しめていた。
一方で、野中にはそのような校則が存在せず、男子生徒たちは自由に髪を伸ばすことができた。この事実は、西中の校区に住み、そこへ進学することが決まっている勇一にとって、心に大きな影を落としていた。
制服採寸でのおばさんとのやり取りに勇一は、なぜ自分は坊主にならなければならないのかという思いが頭の中を巡り、激しく抗議したかった。しかし、その場では何も言えず、沈む心で採寸を受けるしかなかった。
体育館内では、野中に進学する予定のほかの子供たちも親と一緒に制服を試着し、新しい生活への期待に胸を膨らませている。しかし、勇一にとっては、制服採寸のこのシーンが、これから始まる中学生活への恐怖をより一層強めることとなったのだ。
彼は、制帽をそっと外し、心の中でこれからの生活に対する憂いを抱いていた。
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