第10話

「美味しかったです、ごちそうさまでした」

「美味しかったです! 如月ちゃんたちにも絶対伝えますね!」

「ありがとう! ぜひ、今度はお友達も一種に来てくれると助かるよ」


 店主の男性に感謝して俺と里運は店を出た。


 パフェを食べ過ぎてお腹いっぱいなのか、里運がお腹をさすっている。あれから里運はものすごい勢いでパフェを食べ終えていた。

 

 何度か一口ちょうだいと聞いてみたが、美味しそうに食べるだけ。話聞いても無視された。まさか、夕食の話聞いてなかったのを根に持ってないよな。まさかな。


「さ、満足したろ? 今度こそ帰るぞ」

「うん、今度は話ちゃんと聞いてよね」

「……ああ」


 根に持たれていた。ちょっと頬が膨らんでいた。今度また、さっきの店に連れていってやらないとな。


「じゃあ今から――」


 里運が話し始めようとした時だった。

 急に雨が降ってきた。

 上を見れば雲は少なく空の色は青い。


「通り雨か。里運、そこで少し休むぞ」

「……うん」


 傘を持っていなかった俺は里運を連れて、近くのコンビニまで走る。俺だけだったら濡れて帰れるが、里運がいる。風邪を引かれたりしたら嫌だしな。こいつは優等生なんだ。授業を一日でも休んで成績が悪くなったら困るだろ?


「なんか飲み物いるか?」


 俺は鞄に入れていたタオルを里運に渡した。


「いらないよ。さっき食べたばっかりだもん」

「まぁそうだよな」


 ザーザーとガラス越しからも分かるほど、雨が強くなっていく。

 通り雨じゃなかったのかよ。

 外はすっかり雲で覆われ、暗くなっていた。


 母さんは家に居ないはずだし、どうするか。傘を買って帰るしかねぇよな。その前に里運はこのままじゃヤバいよな。


「里運、おまえおばさんに電話しろ。このままだと帰ってもずぶ濡れだ」

「え?」

「え? じゃねぇよ。おばさん家に居るだろ? 迎えにきてもらえって言ったんだよ。俺は傘買って帰るから」


 里運がどれだけ危なっかしいといえど、ここにいれば安心だろう。もしも何かあれば店員さんが助けてくれるだろうしな。


「お母さん、蒼太くんも乗せてくれるよ?」

「わるいな、今日は早く帰って見たいアニメがあるんだよ」

「でも――」


 俺はすぐ入り口に置いてあったビニール傘を手に取り、レジに置いた。

 店員さんにピッタリ料金を払い、入り口の前に立つ。入り口はすぐに開いたが、風邪と大粒の雨が襲ってきた。


「じゃ、すぐに電話して帰るんだぞ」


 傘を開いて、家へと走る。すぐに傘はキノコになって使い物にならなかった。


「よし、あいつのためにレインコートと長靴と――」


 家に着いた俺は急いで、里運のために準備していた雨具を用意した。


「これだけあれば十分だろ」


 レインコートを着て、里運用の雨具を持ち、玄関の扉を開ける。まだ雨はやんでいなかった。


「大丈夫だと思うけどな」


 なぜ俺が一人で帰ったのか。

 もちろん理由がある。

 あいつ一回だけだが、携帯が故障したことがあるんだよ。

 そのときも「運命だよ!」と言いやがった。

 そのときから里運用の雨具は用意してある。


「普通に帰れてればいいけどな」


 俺は里運を一人にさせたコンビニへと走っていた。


 そういえば、何でコイツ里運のやつ「運命だよ!」って言わなかったんだろう。


 通り雨なんて不運。

 あいつにとっちゃ、運命だろうに。


 あ、結局だが里運はコンビニにはいなくて、家に帰れていた。

 俺は風邪を引いた。

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