第13話
「今日は席替えをするぞ」
ガチャが爆死した次の日のホームルーム。春日井先生は教室に入って教卓にファイルを置いた瞬間、そう告げた。
よし、やっとこのときが来た!
先生のやつ、席替えのくじとかあみだとか、座席名簿作るのめんどくせぇとか言って、ずっと席替えしなかったからな。
隣のクラスはすでに二回もやってるのにだぞ?
俺の席は真ん中。
教卓からよく見えてしまう。
この席からどれだけ解放されたかったことか。
「せんせ~、何で席替えする気になったんですか~?」
前の席のギャルっぽい橘さんが先生に質問した。
そりゃ、思って当然だけど、そんなこと言ったら――
「なんだ橘、席替えしたくねぇのか? お前らがしたくないって言うんだったら、先生は止めるぞ?」
「やりたいんですけど~、先生ずっとしなかったし~」
「普通はこんなのやりたい先生なんていないんだよ。生徒のためにな、めんどくさくてもやっているんだ。今回も神崎先生に席替えしてあげたらどうですかと頼まれたからしかたなくだな」
「せんせ、神崎ちゃん狙いなの? うける」
橘さんの言葉に、他のギャルっぽい奴らも笑い出した。
「わるいか、先生も神崎先生の――」
「はやく席替えしましょうよ、せんせ!」
「ああ、そうだな」
そう言って、春日井先生は黒板に縦線を書き始める。
途中で「先生もねラってやがるのか、〇せねば」といった声が神代の方から聞こえた気がするが気のせいだよな?
「よし、おまえら適当に横線と出席番号書いてけ」
クラスの人数分、三十本の縦線と座席番号を書き終えた先生が「はー疲れた」と言いながらファイルをトントンと叩く。
先生に言われ、前の奴らから順番に横線と番号を書き始めた。
さて、どこにしようか。
今度こそは絶対に後ろの席。
里運が近くなければベストだ。
だが、今回も「運命だよ!」とか言いそうだしな。
今まで席替えをして里運と隣の席にならなかったことがない。
今回は方針を変えて――
「如月、おまえどこにするよ」
俺は隣で寝ようとしていた如月を小突いて、聞いてみることにした。
「え、どこでもよくない?」
「そりゃ、どこでも変わらない気がするけどな」
運だからな。
操作できる奴がいたら別だけど。
里運の方をちらっと確認する。
あいつはすでに黒板に出席番号を書き終えて座っていた。
「私に聞くってことは、今回も里運ちゃんと隣の席になりたいってことだよね?」
「バカ言え、逆だ」
「そんなこと言って、照れちゃって」
「照れじゃない、本心だよ」
にやにやと笑う如月。
なぜかこいつ里運と俺をくっつけたがってるんだよな。
絶対にそうはならねぇけど。
「あっそ。だったら里運ちゃんの隣のところに書けばいいんじゃない?」
まぁ普通そう思うよな。
横線が行き交うあみだくじにおいて、隣に書いたものが近くにくる可能性はほぼない。
ましてや今回は三十本。
あるわけがないと思うのが普通だ。
ただ、里運に限っては違う。
あいつは運命に好かれている。
つまり――
「あいつと反対側を選べば勝ちってことだ」
「そ、じゃあいってらっしゃい」
「おう、いってくる」
俺はすぐに席を立って、里運の出席番号が書かれたところの上の縦棒二つの間に横線を書き、反対側に行って自分の番号を書いた。
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