第3章 運命少女は確率を操作する

第12話

幼馴染に運命少女がいたら、誰しもが一度はこう思うんじゃないだろうか。

ガチャやらせたら目当てのキャラ出るんじゃね? と。


 当然、俺もそう思った。


 だってそうだろ?

 運命、運命言ってるんだぞ? 勉強もスポーツもできるんだぞ? そんなの神様に愛されてるとしか思えないじゃないか、ガチャやらせたら当たると思って当然だろ?


そして俺は、毎日嫌がらせかと思うほど、里運に振り回されている。少しくらいは罰が当たらないだろう。


「ということで里運、このガチャ引いてくれないか?」

「嫌だよ」

「何でだよ!」


 風邪を引いた日の翌々週、里運と帰っていた俺は、ガチャ画面を里運に見せていた。ゲーム画面では猫耳少女・アイズがダンスを踊っている。


 約三ヵ月このときを待っていた。復刻ガチャ。当時はこのキャラ限定なのに弱くね? と言われ続けて回さなかったが、新規シナリオが追加されて人権キャラになった。このキャラがいないとゲームが進められない。フレンドから借り続けていたが、ついにこのときがやってきたんだ。


今日はガチャを引いてもらうために、里運のくだらない話をいつも以上に聞いていた。最近放送されたドラマの話だ。内容は――えっとなんだっけ? 忘れちまったが、何も悪いことはしていないはずだ。


 だから当然、OKを貰えていると思っていた。

 しかし帰ってきたのは真逆の言葉だった。

 いや、ほんとに何で?


「里運、俺何かしたか?」

「べつに?」


 別にじゃないんだよなぁ。

 ぷいとそっぽを向く里運。


 さっきからなんでそんな怒ってるんだよ。もしかしてこのキャラに嫉妬――なわけないよな。


「ここを一回押してくれるだけでいいんだけど」


 回すボタンを指さしながら、もう一度ガチャ画面を見せる。

 単発でも引けそうだが、念のため十連。


「だからいやだよ」

「頼む、押すだけだから!」

「いやです」

「じゃあ、この前言った喫茶店のパフェ奢るからさ」

「ほんと?」

「ほんとほんと」


 あれからというもの、如月たちだけじゃなく、里運はクラスメイト全員をあの喫茶店に誘っていた。里運が足しげく通っていたことで、学校があのお店は運命的な美味さだと話題になり、行列ができるほど人気店になっている。


 里運と帰っているときに店主の男性と再開したが、俺の前でありがとうと言って泣きそうになっていた人とは思えないほど、笑顔が満ち溢れていた。


 そんな人気店になってしまったことで里運も行けなくなっている。ま、里運がいけば店主も喜んで入れてくれると思うがな。


 そんな喫茶店を持ち出した瞬間、里運が満面の笑みを浮かべた。


 よし、これでいけるだろ。


「じゃあ、このところを押して――」

「けど、この子はいや!」

「何で⁉」


 この子は嫌って何?

 アイズが駄目ってこと?

 ただのゲームキャラですよ?


「だって蒼太くん、この子ずっと使ってるよね」

「そりゃ、使わないとゲームが進められないからな」

「だから嫌」


 ほんとにどういうことだよ。ゲームをクリアさせたくないってことにしか聞こえないんだけど。


「じゃあ違うキャラならいいのか?」

「うん」

「じゃあこっちにするから、ここを押してくれ」

「分かった」


 そう言って、里運は「回す」ボタンをタップした。


 よし、かかったな!


 里運に見せた画面はただピックアップの表示キャラを変えただけの同じガチャだ。今回のガチャはアイズのピックアップ確率が高く設定されている。


 これで俺もフレンド固定から脱出――


「あれ?」

「どうしたの、蒼太くん。よかったね、キャラ出たよ! 運命だよ!」

「……いや」


 いや、そうじゃないんだよ。

 確かに出たんだけどさ。


 なんでアイズが当たらずに、里運に見せたキャラが出てくるんだよ。

 里運に見せたキャラはすでに完凸。


 つまり――


「回さないとダメなのか」


 その後、当然のように爆死した。

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