第11話

「蒼太くん、朝ですよ? 起きてください」

「悪い母さん、朝から体が怠くて、熱計ったんだけど38度でーー」


って誰だこいつ!

母さんは俺を蒼太くんなんて呼ばない。


起き上がって確認してみないと分からないが、俺を蒼太くんなんて呼ぶのはあいつしかいないしな。


しかも普通に返しちゃったけど、今絶対朝じゃないし。母さんに風邪を引いたことは伝えて、休みなさいとも言われた。


だったら――


俺は寝ていた体をゆっくりと起こした。


「運命ボール……」


まず起き上がった先にいたのは里運。

窓際に飾っていた爆ぜてしまった大切なサッカーボールを見ながらなぜか楽しそうに笑っている。


「おい、なにやってる里運」

「え? 蒼太くん起きてたの!?」


なんでといった表情で里運がこっちを見てくる。


なんでってなんで俺の部屋にいるのかこっちが問いたいんだが……。それと、そのボールを絶対に運命ボールなんて、ダサい呼び名で呼ばないでほしい。


そして隣にはーー


「やっぱりお前か、如月!」


ニヤケ顔の褐色少女がいた。

「お母さんだって」と笑っていた。

里運の保護者役を、俺の代わりをつとめられるのはこいつしかいないが、まさかからかいにきやがるとは。


「やっほー、どうだった私のおはようボイス、元気になった?」

「元気になった? じゃねぇよ、誰かと思ったじゃねぇか」

「うんうん、元気だね、私のお陰で」

「おい、人の話無視して、自分のお陰にすんじゃねぇ」

「……運命ボール」

「そして里運、いつまで触ってるんだ。おい、破裂したところを引っ張ったら原型がなくなるからやめろ! あとそれを運命ボールって呼ぶな」


俺と如月が話している間も、里運はまだボールをさわっていた。

なにがそんなに気になるんだよ。


「でも、爆発しちゃった運命的なボールだよ?」

「友達からもらった大切なボールだよ」

「運命だよ!」

「運命じゃない!」


爆発はしちゃったけどな。

それでも週に一回は磨いたりして大切にしている。運命なんかで扱われたくはない。


「で、どうしてお前らが来たんだ?」


 いったん深呼吸をして、俺は本題を聞いた。


「そんなの心配してやって来たに決まってるじゃん!」

「お前が心配って」


 小学校の頃から如月とは話したりしているが、こいつに心配されたことなんて一度もない。里運に巻き込まれたことを聞いてずっと笑ってるやつだぞ? 


 そう思ってたら如月がいきなり俺の耳元でこっそりと呟いてきた。


「里運ちゃん、めっちゃ心配してたよ? 蒼太くんが私のせいで風邪ひいたって」

「そうかよ」


 バレてるかもしれないのは分かってたが、そこまで心配させてたとはな。

 

「けど、私たちがここに来たのはついでだよ?」

「ついで?」

「そう、さっき里運ちゃんとパフェを食べに行ってたんだよねぇ」

「雨宮くんも誘って3人でいってきたんだよ! はいこれ!」


 はい、といって里運に手渡されたのは、昨日行った喫茶店のロゴが描かれた紙袋だった。中にはケーキらしき箱が入っている。


 昨日の今日で友達を誘って店に行くなんて、なんて店主思い――


「ってそうじゃねぇよ。俺だけはぶられてんじゃん!」


 雄介も誘うって、あいつにとってそのくらい美味しかったんだろうけど。


「じゃ、それ渡したし、私はもう帰るね!」

「おい、ちょっと待て!」


 俺の言葉を無視して、如月は部屋から出ていった。


「じゃあ蒼太くん、風邪ちゃんと治してね?」


 そう言って、如月の背中を追い、里運は部屋から出ていった。

 

「ああ、もちろんだよ」


 運命と言って何度も振り回されているが、こういうところがあいつの良い所で、どうしても助けたいと思っちまう。


 明日はちゃんと風邪治して学校行かないとだな。
















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