第14話

「ほんとにそっちにしたんだ」

「当たり前だ」


 遅れてやってきた如月が、俺の番号の二つ隣に番号を書き始める。


「あとで後悔しても知らないよ?」

「後悔なんてするわけねぇよ」

「あっそ、じゃあこうしてあげる」


 如月はそう言って、中央に三本も横線を書いていた。


「それ違反じゃないのか?」

「先生は横線書いてって言っただけだからね」


 そういって、席に戻っていく如月。

 まぁいい、ただ本数が変わっただけだ。

 確率はどうやっても三十分の一。

 運命だろうが何だろうが、操作されてたまるか。


「これなら絶対に隣同士にはならないよな」


 席に戻った俺は、他の奴らが書くのを見ながら、里運の番号を逆から辿っていた。

 何度も確かめたが、里運の場所は廊下側の一番前。俺は窓際の一番後ろの当たり席だった。


 なぜか隣で如月のやつが「あ~あ、やっちゃったね」とか言っているが、俺は気にしない。


「お、やっと終わったか。じゃあ、今からやっていくぞ」


 最後の一人が横棒と番号を書き終え、春日井先生が立ち上がり、青のチョークでなぞり始める。


 最後の一人の奴のも確認したが、席の場所は変わらないままだ。

 さ、俺の最高の席での睡眠ライフが始まるぞ!


「じゃ、これがお前らの席だ」


 先生が黒板に席と名前を書き終える。

 俺の席はもう分かっている窓際の――あれ?


「先生、書いた場所と違うんですけど」


 同じことを思ったのか、委員長が手を挙げて、先生に質問していた。

 ま、そうだよな。

 俺があんな席なんてことはないよな。

 あはははは。


「あ、どうした? ああ、言い忘れてたな。書いてもらった出席番号は座席の番号だ。上の方が出席番号にしてあるぞ」


 俺と同じことを考えていたやつが委員長以外にもいたらしく、「え~っ」といたるところから声が上がる。


「は!?」

「ね、言ったでしょ?」

 

 如月が隣の席で嬉しそうにはにかんでいる。


「これは嘘だよな?」


 つまり俺の席はあそこってことだよな?

 もういちど先生が書いた席の場所を確認していく。

 俺の席は――


「運命だよ!」


 教卓の手前の席だった。

 里運と隣の席だった。

 如月は本来俺が座るはずだった席で寝ている。


 机を動かして席に座った瞬間、里運は思い切り手を掴んで「運命だよ!」と言いながら上下に振り回してきた。


 ――あいつらやっぱり隣の席か。

 ――運命(笑)だもんな。

 ――あんな恋してみたい!


 だれだ最後のやつ!

 俺はこいつを好きになったことなんてないぞ!

 

「じゃ、これからお前らはその席だからな。今度いつやるかは分からねぇから、楽しくやるんだぞ」


 そう言って先生は教室を出ていった。


 なんでこんなことになるんだよ!

 まさか先生、俺に嫌がらせを――ってなわけないよな。


「よろしくね、蒼太くん」


 隣では握手をやめた里運が太陽のように微笑んでいた。

 

 その日の数学の授業が終わった後だった。俺は先生から「小鳥遊さんと近くの方がお前も何かと都合がいいだろう」と告げられた。

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