第18話

「よ、如月、お前らのとこどうなってる?」


 里運の様子を見に体育館に行った俺は、ギャラリーで眠たそうにしていた如月を見つけて声をかけた。


「私たちのチームは初戦敗退。相手が三年生でさ、嫌になっちゃうよ」


 本当に悔しかったのか、如月は、はぁと溜息を吐きながら、手すりに寄りかかった。


「で、こっち来たってことは男子負けた?」

「まさか、寿一がいるんだぜ?」

「それじゃあ、いいとこまでいったんだ」

「聞いて驚け? 決勝戦優勝」

「すごいじゃん、おめでとう」


 如月はそう言いながら、音のない拍手をしてくる。


「ま、ほとんど寿一の活躍だったけどな」

「いやいや何言ってんの。隣のクラスの子から聞いたよ? 点決めてたって」

「まぁな」

「さすがだね。不死身の小鳥遊くん」

「なに、もうそれ知れ渡ってんの?」


 あ、でも、一回戦で寿一がバラしたから当然っちゃ当然か。

 里運みたいに運命ちゃん呼ばわりみたいなのは嫌だが……。


「さっき隣のクラスの子から教えてもらったんだよ。不死身の小鳥遊くん」

「おい、富士見だぞ? いま不死身とか言わなかったか?」

「言ってないよ。何度も倒れない不死身の小鳥遊くん!」

「ぜってぇ意味ちげぇじゃん」

「そ?」


 クスクスと楽しいおもちゃを見つけたように笑いだす如月。

 ほんとコイツまた俺をからかってやがるな?


「今度からそれ言うの禁止な?」

「え~カッコいいのに! 里運ちゃんだったら絶対「運命的だよ!」とかいうよ」

「言いそうだな」


 帰っているときに、富士見、富士見と連呼している里運の姿が想像つく。


「で? その里運は?」

「みればわかるよ」


 如月が「あっち」と言って指を向けたところには、強烈なスパイクを綺麗にセッターに返す里運がいた。


「相手はほぼ全員バレー部なんだけどさ。里運ちゃんが全部返しちゃって、あれのせいで女子の試合が終わってないんだよね」


 はぁあ、とまた溜息を吐く如月。

 ボードを確認したら二八対二十八とデュースが続いているようだった。


「あいつあれでも運動神経抜群だからな」


 コートではまた里運がボールを返している。

 ほんと、運命って言わなければ、勉強できて、スポーツもできる完璧な奴なんだけどな。運命って言わなければ。


「そうだね。あ、里運がサーブだって」


 コートを見ると、里運が壁際でボールを回していた。

 まさか、ジャンプサーブもできるってのか?


「え? あの子、ジャンサーブもできるの⁉」


 近くにいたバレー部らしき女子が声を上げた瞬間、全員が里運に注目しだした。


「里運のやつ、あんなことできるんだな」

「いや、さっきまでやってなかったけど?」

「は?」


 いきなりやり始めたってことか?


「小鳥遊が来たから、見てほしくてやろうとしてるんじゃない?」

「まさか」


 まさかだよな?

 コート上では里運がボールを高く上げていた。


 一、二と歩いた里運が、両腕を翼のように後ろへと振り、そのまま前へと振り上げ、高く飛んだ。

 ラインぎりぎりに落ちそうなカーブを描いたボールは、里運の手のひらに吸い込まれるように落ちていく。

 そのまま勢いよく叩きつけられたボールは、相手のコートに落ちていった。


「すげぇ」


 Vサインをおくってくる里運を見て、思わず声が漏れる。

 隣の如月も前のめりになって驚いていた。


「このまま勝つかもな」

「勝っちゃうよ、これ絶対勝つよ。ああもうなんで負けたんだよ私!」


 里運のジャンピングサーブに感化された人は多いみたいで、周りの奴らも驚きながらも悔しそうに拳を握っている。


 コートではもう一度、里運がジャンプサーブに挑戦しようとしていた。


「運命だからな」

「小鳥遊が言うなんて珍しい」

「そのくらいスゲェってことだよ」


「前はそんな運命なんていう子じゃなかったんだけどなぁ」


「えっそれって――」


 如月の言葉が気になり、試合を見ていなかったのが悪かったのかもしれない。

 顔面にボールが勢いよく当たって、俺はそのまま倒れた。


「運命だよ!」


 そう聞こえたのを俺は絶対忘れない。

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