第24話

 昔、お母さんにたくさん絵本を読んでもらった。

 もうタイトルは忘れちゃったけれど、ある本が好きでいつも「読んで」とお願いしていたのを覚えている。


 主人公はいつもいじめられている泣き虫な男の子。

 そんな男の子を近所の女の子が救ってあげるお話だった。

 女の子も泣き虫なんだけど、男の子のために男の子の前だけでは泣かなくて。

 そんな姿に幼い私は憧れた。

 だから蒼太くんが泣いていたのを見て助けようと思ったのに。


「間違ってたのかな」


 蒼太くんとの運命は一度だけ。

 他のはただの偶然だった。

 ただその運命が切れるのが嫌で、運命だと言い続けていた。


 あの本の男の子のように、私が笑わせてあげて、楽しんでもらえればいいなと思ってた。

 でも。


「蒼太くんは嫌いなんだよね」


 蒼太くんと会ったとき「運命なんて、ふざけんなよ!」って言われた。

 私が帰るのが遅くなったとき「運命なんてな存在しないんだよ」って言われた。

 蒼太くんには何度も迷惑をかけてきた。

 お母さんたちが蒼太くんを頼っていたのも知ってる。

 もう無理かもしれないけれど、運命なんてものはなかったのかもしれないけれど、それでも私はただ笑って欲しくて。


 運命って――

 

「里運!」

 

 私を呼ぶ声がしたので振り返る。

 そこには息を切らした蒼太くんがいた。

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