第23話

「よっ、如月」


 春日井先生に里運のことを打ち明けた俺は、真っ先に如月のもとへ向かった。


 俺よりも昔から里運と付き合いがある。

 こいつなら里運の過去のことを知っているはずだ。


 そう思って部活終わりの如月を待とうとしていたんだが、如月は制服姿で部室の壁にもたれかかっていた。


「どうせ来ると思ってた。里運のことでしょ?」

「そうだよ」

「じゃ、違うところで話そっか。里運ちゃん来ちゃうかもだし」

「そうだな」


 如月に連れられてやって来たのは使われていない空き教室だった。

 着いた矢先、如月は前の席に腰を下ろす。俺はその隣に座った。


「じゃ早速言っちゃうんだけど、って前にもいったことがあると思うけど、里運って昔は『運命』『運命』っていう子じゃなかったんだ」

「は?」


 そんなこと初耳だぞ?


「あれ? ごめん。言ってなかったかな?」

「聞いたことは――」


 言われてみれば、なんかそんなようなことを聞いた覚えはある。

 いつだったっけ。

 席替えのときでもねぇし、喫茶店のときでも――


「あ、スポーツ大会のときか」


 そうだ思い出した。

 里運のサーブが印象的で忘れてたけど、そんなことを言っていた気がする。


「それだ! その時に言おうと思ってたんだけどね。倒れちゃったでしょ? だから言えなかったんだけどさ。その続きにはなるんだけど、小学生の頃の里運は危なっかしくてね。いつも私がいないとダメで」

「今と同じだな」


 すぐ転んで、雨に打たれて、すぐどこかへ行って、里運はいつもそうだ。


「そうなんだよね、あの時は大変だったなぁ……。でもね、そのときは危なっかしいだけだったの。こけて痛くて泣いちゃったり、雨の日に傘もささずに濡れて帰ろうとしたり」

「え、じゃあ『運命』って言いだしたのは違うってことか?」

「違うよ。小学生の頃から」

「小学生?」

「それも、三年生のとき。覚えてない?」

「……三年生」


 小学生のときは明日夏や弘人たちとサッカーをしていた。

 三年生っていったって、そんな何もなかったと思うが――あ!


「それって、俺が――」


 俺がこの町に引っ越してきたときか。


「あ、ようやく気付いた? そうなんだよ。小鳥遊が引っ越してきて、里運ちゃんがそのときに言ってたんだよね。隣に引っ越してきた子が、同じ珍しい苗字の子で、同じ学年で、これって運命だよねって」

「……そのときに」


 確か里運と出会ったのは、お別れ会をして泣いていたときだった。

 表札を見せてきて、同じ苗字だと教えてきて笑ってて。

 その笑った顔が気に食わなくてあいつに、あいつに突っかかって、抱きしめられたんだ。

 そのときあいつは言っていた。


『運命だよ。これはきっと運命。大丈夫、わたしがずっと笑わせてあげる!』


 そうだ。

 何でこんなことを忘れていたんだろう。

 だから俺がいるときに何度もあいつは。

 運命って。


「それから『運命』ってよく言うようになって。って、聞いてる? だからね、『運命』って小鳥遊との――」


「ありがとう、如月!」


 俺は教室を飛び出した。


 待ってろよ、里運!

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