第25話

「里運」


 校門で如月をあっていたんだろう。

 本を読み佇んでいた里運を見つけて、俺は声をかけた。


「……蒼太くん」


 こいつと直接話せたのは何日ぶりだろう。

 あのときから顔も合わせてくれず、どこかへ行ってしまった。


「なぁ、里運」


 俺はお前に――


「ごめんね? 蒼太くん。もう運命って言わないから。絶対迷惑かけないから」


 なんでそんなことを言うんだよ。

 お前は俺と一緒にいたかったんだろ。

『運命』なんて、それまで全然信じてなかっただろうに。

 俺との出会いを大切にしたかったんだろ。

 それなのに、そんな言葉をお前に言わせちまうなんてな。


「悪かった」


 俺は里運に頭を下げた。

 いつも運命として振り回してくる奴だった。

 面倒だと思っていた。


 だけどこいつの笑ってる顔、結構可愛いんだよ。

 何度ドキドキさせられたか分からないんだよ。

 あれだけウザかった「運命」だって、俺を笑わせるためだってさ、そんなこと聞いたら、聞く前だってそうだ。


 もう里運を心配させたくない。


「どうして、どうしてそんなこと、私が悪いんだよ?」

「お前は悪くない。運命なんて存在しないなんて言って悪かった」

「違うよ! 蒼太くんは悪くない! だって、運命なんて――」


 お前が運命を否定しちまうのかよ。

 俺は今だったら分かるぞ。

 あの日が、お前と会った瞬間が運命だったって。


「悪かったな」


 俺はポケットから四つ葉のクローバーを取り出した。


「それって」

「結構探すのに苦労したんだぞ? お前が探してた場所に行っても見つからねぇし、ようやく見つけた時は――」


「ありがとう!」


 俺から渡された四つ葉のクローバを受け取った里運は、誰が見ても分かるくらい本当に嬉しそうに笑っていた。


 ああ、ほんといつもこいつは。

 さっきまで喧嘩してたのに。


「それじゃあ里運、帰るぞ!」

「うん!」

 

 運命として振り回してくるやつだった。

 面倒だと思っていた。

 だけど里運は、運命少女は――


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る