第21話

「里運、おまえここで何やって」


 里運をみつけた俺は、何かあったんだろうと思い、そっと声をかけた。


 分かってる。

 迷子になって帰れなくなったんだよな。

 うん。

 そうに決まってる。

 そうじゃなきゃなんだってんだ。


「あ、蒼太くん! やっと見つけたんだよ」


 振り返った里運は土まみれだった。

 どこかでこけたのだろう。

 膝元がすれて血がにじんでいる。


「大丈夫か? 何かあったのか? 痛いところがあったら」


 俺は里運に駆け寄り、持ってきていた絆創膏を貼ろうとした。

 けれど里運はすぐに首を振った。


「大丈夫だよ。それよりこれ見て?」


 里運の土汚れた手には四つ葉のクローバーが握られていた。

 なんてことはない、ただの小葉が四枚になったものだ。


「テレビでこの公園で四つ葉のクローバーがいっぱいあるって言っててね?」

「……ああ」

「運命だよね!」

「…………」


 ああ確かに運命だよ。

 四つ葉のクローバーなんて普通に探してもなかなか見つからないもんな。

 ああそうだよ。

 ほんと、ほんとに――


「ふざけんなよ!」


「……え、どうしたの? いつも――」

「何が運命だ!」

「怖いよ、今日の蒼太くん」


 怖い?

 どっちがだよ。


「今何時だと思ってる、こっちは心配で探しまくったんだぞ、如月や祐介、他にもいろんなやつに手伝ってもらって」

「だって、四つ葉のクローバーだよ? ちょっと遅くなっちゃったけど、ラッキーアイテム!」


 はい、と俺の手に四つ葉のクローバーが渡される。

 ほんとに何もないただの四つ葉のクローバーだ。

 こんなののためにこいつは。


「何がラッキーアイテムだよ」

「……でも『おは占』で」

「『おは占』がなんだよ。そんなのただの占いだろ? そんなの信じやがって。俺たちを困らせて」

「でも運め――」

「……うんめいじゃないよ」

「ほんとに、怖いよ、そうたく――」


「運命じゃないってんだろ! 運命、運命って、どれだけの人が心配したと思ってるんだ。四つ葉のクローバー? 見つかったからいいものの、見つかんなかったらどうしてたんだよ」


 ほんとに、運命なんてくそくらえ。

 俺は里運から受け取った四つ葉のクローバーを地面に投げつけた。


「こんなのはな!」


 こうすればいいんだよ!


 そして、四つ葉のクローバーを踏みつけていた。

 俺はそのときどんな顔をしていたんだろうか。

 踏みつけた瞬間に見えた里運は、何も言わずに泣いていた。


「もう分かっただろ? 運命なんてな存在しないんだよ」


 何秒たっただろうか。

 四つ葉のクローバーを踏みつけた俺は、四つ葉のクローバーが粉々になっているのを見て、里運にそんなことを言っていた。


 原型が分からなくなったクローバーを里運は大事そうに手に取る。

 そして――


「大嫌い!」


 俺から逃げるように家の方角へと走っていった。


「どうすればよかったんだよ!」


 そのときすぐにでも追いかけていればよかったかもしれない。ただ、俺は里運と一緒にいられるほど冷静じゃなかった。

 

 その日から、里運は運命と言わなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る