第6話
「はい、じゃあこの英単語を――」
神崎先生の英語の授業は続いていた。基本的に神崎先生の授業は挙手ではなく指名。当てられたら答えなければいけないんだけど――
眠い。
先生の声はおっとりしすぎていて、眠気を誘われる。それは俺も例外ではなかった。はぁ、とあくびをして寝る態勢に入る。机の真ん中くらいに両肘まで付ければほら、枕の完成。これは俺のせいじゃない、先生が悪いんだ。隣を見てみろ、如月なんてすでに寝ている。
さ、俺も今日は――
「さてこの英単語を――小鳥遊さん、小鳥遊里運さん。この英単語を日本語に訳してもらえないかしら」
……気のせいか? 先生、里運を当てなかったか?
さっきの「運命」って言ってたのも気になる。俺はそっと黒板をチラ見した。そして、すぐに覚醒した。
先生ってあいつのこと知ってるよな? 春日井先生は職員会議で里運のことを話したって言ってたしな。そうだよな、あははははは――
「ってなわけねぇよな!」
黒板に書かれていた文字は「destiny」つまり――
「先生ちょっま――」
「うんめ――」
俺は急いで席を立ちあがり、左前の窓際の席に座る里運の口を手で塞いだ。よし、危なかった。こいつに運命なんて言わせたら何をやらかすかわかったもんじゃない。
――あの二人、授業中なのにまたやってるよ。
――今度はなんの運なんだろうね。
――運命だなんて、笑っちゃうよね。
ああちくしょう、クラスメイト達のひそひそ話が聞こえてくる。二人ってなんだよ。せめて里運一人だけにしてくれ。
――小鳥遊のやつも災難だよな。
――小鳥遊さん可愛いのにな。
――あれじゃあ、近寄れねえよ。
反対の席からも聞こえてくる。
もう慣れたよ。
「なにやってるの、小鳥遊くん。席に戻りなさい」
神崎先生はそう言って、俺の背中を押してくる。くそ、先生が里運にあんな問題出さなければ――
「先生、何で里運に運命なんて言わせようとしたんですか!」
俺はキレ気味に先生に訴えていた。
「なんでって、ねぇ?」
それでも先生はよく分かってないうな表情を浮かべて「席について」と言うばかりだった。やっぱり、先生分かってなかったのか?
「先生これからは、里運に「運命」なんて言わせないでください!」
「分かったわ」
「絶対ですよ!」
神崎先生に背中を押され、俺は席に戻る。どうしたのかな?と言っていたように聞こえたが、無視をした。
「はい、授業を再開するよ!」
そう言って、手を叩きながら神崎先生は授業を再開した。もうこれで何もないよな。もう一度溜息をつき、寝る態勢に入る。眠くはなかったけれど、眠れるはず――
そう、思っていた。思いたかった。
「さっきの続きだけど、これ訳せるかしら、小鳥遊さん」
先生がまた同じ問題を里運にあてていた。ねぇ、さっきのやりとりはなんだったの? 話聞いてなかったの?
「ちょっと待って――」
ただ、俺は一手遅かった。里運はすでに答えていた。
「宿命です」
運命ではなく違う答えを。
運命はいたずらっ子なのだ。
「どうしたの? 蒼太くん」
どうしたのじゃないよ。里運の席にスライディングしていた俺に、里運は「大丈夫?」と心配そうな声で聞いてくる。そんな里運に呆れながら、先生に二度目の注意を受けながら、俺は席に戻った。
もう、運命に振り回されるのは懲り懲りだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます