第4章 スポーツは運ですか? 本当ですか? 教えてもらってもいいですか?
第16話
「今日はスポーツ大会だからな。お前ら怪我だけはすんなよ」
五月初旬。俺たちの学校では新入生歓迎会と称した、全学年対抗のスポーツ大会が行われる。今年は男子がサッカー、女子はバレーボールで、それぞれの部活の生徒が張り切っていた。
去年はバスケだったからな。
あまり活躍できなかったけど、久しぶりのサッカー。
……でもなぁ、変に目立ってまたあらぬ噂が広まったら嫌なんだよな。
「じゃお前ら、運動場に移動しとけよ」
春日井先生はそう言って教室を出ていった。
「なぁ、蒼太、ポジションどこにするよ!」
先生が出て行ったあと、雄介が俺の席にやってくる。今日も眼鏡が似合っていた。
「ディフェンスでいいだろ」
フォワードで点を決めたかったが、そんなことできるはずがない。
なぜなら――
「うちのクラスにはサッカー部のエースの神谷がいるしな」
神谷寿一。一年生でサッカー部のエースに選ばれ、万年初戦敗退だったサッカー部を、地区予選決勝まで進出させた。サッカーの申し子なんて呼ばれてる爽やかイケメンだ。
「たしかに、寿一がいれば百人力だろうけどよ。俺はお前のプレーも」
「俺は別にいいよ。変に誤解されても嫌だし」
「そうかよ。俺はお前のプレー好きだけどな。ふじ――」
「おい、それ絶対言うのやめろよな」
サッカーをしていた頃、寿一と同じように、俺も二つ名みたいなものを付けられたことがある。恥ずかしくて言いたくねぇけど。
「はいはい。じゃ、俺は先に行ってるからな」
そういって、雄介は教室を出ていった。
「さ、俺も行くか、里運――」
って、いないじゃん。
隣にいるはずの里運も含め、教室には誰もいなかった。
如月と一緒に行ったか。
「って、俺もさっさと行かないと」
「では今からスポーツ大会を開始します!」
校長の長ったらしい挨拶も終わり、代表者の選手宣誓が終わった後、放送部の一言でスポーツ大会が始まった。
「げ、一回戦は寿一がいるクラスかよ」
「負け確定じゃん」
コートについた瞬間、聞こえてきたのは隣のクラスのサッカー部の愚痴。
寿一が強すぎるのは知ってるが、このチームでサッカー部なの雄介と寿一だけだぞ?
初戦の相手の二組はほぼ全員が運動部。一方俺たちのクラスは帰宅部がほとんどだ。
まぁ、負けるつもりはないけど。
「さ、頑張っていこう!」
放送部からコートに入るように指示され、俺たちはコートに入った。
真ん中でボールを持った寿一が、手を高く上げて叫んでいる。
「「「おう!」」」
寿一の声に合わせて、俺らは全力で叫び、ポジションにつこうとしていた。
さて、俺はディフェンス、ディフェンス、っと――
「なんでお前がディフェンスなんだよ」
……は?
俺がゴール付近に下がろうとした瞬間、何故か寿一が腕を掴んできた。
「いや、お前がいるし。なんとかなるだろ?」
「お前はこっちにこいよ」
俺の腕を強引に引っ張り、寿一が前へ行かせようとしてくる。
何でコイツこんなに俺をフォワードにさせようとしてくんの?
「覚えてるぜ。お前、富士見の小鳥遊だろ?」
ああそういうことかよ。
昔の俺のこと知ってやがるのか。
確かに俺は、小学生のときに富士見のサッカークラブに入って、少し活躍していたことで「富士見の小鳥遊」なんて呼ばれていた。
ただ、この富士見が不死身とも読めてしまうことで当時揶揄われて、小鳥遊という名字のせいで変に格がついちまったんだよな。
もうこの呼び名を知ってるやつは雄介以外にはいないと思っていたが、まさかコイツまで。
「あんとき俺も戦ったけど完敗でよ」
「いや、俺サッカー続けてねぇからな?」
リフティングはやっているが、サッカーの試合は体育以外でやっていない。
里運の運命のせいで体育もろくに参加できなかったしな。
「なにいってんだよ! 俺が認めたお前がディフェンスなんておかしいだろ! 俺と一緒にサッカーやろうぜ」
ああやべ、コイツ人の話聞かない奴だ。
「ま、お前がそういうならいいけどよ。負けても俺のせいにするなよな?」
「俺とお前が点取って、キーパーの雄介が守る。このチームはこれで負けることなんてない」
自信満々にそう言いながら、寿一はサッカーボールを中央に置く。
「他の奴らのことも考えてやれよ」
「考えているさ!」
ま、こうなっちまったらやるしかないよな。
久しぶりに思いきりサッカーしてやる。
「よし、キックオフだ」
俺は寿一からボールを受け取った。
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