"良い子"像を疑わぬ母、真正面からあなたを信じられないと伝えた奏「イミシブル・ディスコード」感想

 ついに来たまふゆ母との対峙。正直、ニーゴメンバーと直接会うのはもう少し先かと思っていました。奏がかっこよすぎました。


 「25時、ナイトコードで。」の物語で重要な場所「誰もいないセカイ」の想いの主であるまふゆ、彼女が感情を失ったカギとなる人物として描写されてきたのが母親です。

 まふゆ母にとっては、全ては娘のためを思っての行動。自分の価値観に疑いがないからこそ、娘の友達を前にして、堂々とまふゆの人生に音楽サークルは必要ないと言い切ります。


 ユーザーから「毒親」と称されることもありますが、語の定義や是非は難しいので置いても、暴力や感情的で会話が不可能な人物ではありません。「娘にとって邪魔な存在である」奏に対しても怒る素振りも見せず、むしろ理性的に話しています。しかし、自分の価値観に疑いを持たないゆえに、相手の話を聞いても自分の考えを揺らがせようとしません。奏にはまふゆのことを「考えてるって、思い込んでいるだけ」と思われた点であり、どんな人物に接する時もこうした思考だと考えられます。


 実際、母としてまふゆに与えたものは多くあるでしょう。社交性も高く運動や勉強もでき、努力もできる。そもそも、暴力や他者への攻撃をしないというだけでも大切なことです。しかし、全てを自身の「良い子」像の通りに、まふゆから「間違った」言葉がきたら丸め込んで、思い通りにしようとしたことは大きな過ちです。結果、奏が救うと決意するまで自身の感情も全くわからない状態となりました。ニーゴとの関わりで少しずつ感情が芽生えだした段階ですが、今回も母に一度「嫌だ」と言ったけど丸め込まれただけで「もうどうしようもない」と折れてしまう脆さを見せています。これは人の期待に応えるだけの生き方に仕立て上げた母の影響が大きいです。

 母も似た脆さを抱えていそうです。理想的な良い子である娘が、嬉しいも悲しいも分からなくなり、味覚も失い、自身に全く価値を感じていない。そんなことは考えも及びません。ここまでは難しいとしても、自分が想像もしない悩みがあるという可能性すら考えもしない、だからまふゆが「消えたいと言っていた」と言われても、真に受けようとしません。「良い子」像が壊れる、それに伴い「良い母」でなくなるのを恐れているのかもしれません。


 奏は言葉をしっかり聞いて、対話した上で、まふゆ母の価値観を明確に否定しました。そして「絶対にまふゆのそばを離れない」と宣言。

 愚直すぎると言われればそうです。まふゆ母は、価値観は狭いとは言え、論理的に話ができる人物ではありますから、理詰めで説得していくのもありでしょう。サークル活動は強制じゃないですよと不安要素を除いていく、ニーゴの曲はこれだけの人が聞いてくれているなど価値を示す、勉強や睡眠に支障がないよう深夜には連絡しませんなど相手に譲歩するなど、うまくプレゼン・交渉してこともできます。その際は正直でもいいですし、絵名がまふゆを泊めた時みたいに相手に合わせてある程度の嘘を用いるのも手です。あの日まふゆを守るための手段として絵名の判断は的確だったと思います。

 実際、価値観と向き合うのはとんでもないエネルギーがいるし、どんな衝突が生じるかわからないので、現実的な判断として根幹は棚上げしつつ折り合いつけていくのはありです。

 しかし、まふゆが心から堂々とニーゴで音楽を作りたいと言えるようになる日が来るためには、「まふゆを救う」ためには、ごまかしなく本心をぶつけることは大切だったと思います。真正面から本心をぶつけ合うことが、まふゆと母双方にとって一番必要なことのように思えるからです。


 「そろそろ帰った方がいいわ。おうちのかたも心配するだろうし」といったまふゆ母が奏の人生を知った時、何を思うのでしょうか。


 難しい題材を正面から扱ってくれたプロセカ、私も1プロセカユーザーとしても教育学部教員としても、ニーゴの物語にしっかり向き合いたいと思いました。


★本感想のゲーム画像あり版はnoteで公開中:

https://note.com/gakumarui/n/nb0047c1035b4?magazine_key=m4114625ec7d6

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