悔しさをバネに出来るのは当然ではない「On Your Feet」感想

 目標の人から突如吹っ掛けてきた衝撃の過去と勝負。見つけた夢との距離を突き付けられ、散り散りになった仲間。今回は再起に向けた物語ですが、ビビバスとサブキャラ達との心情の差が、少年漫画的ストーリーの中で厳しく現実的でした。


 現状打破の方法はわからなくとも「立ち止まってしまうよりは、歩きながら考えていったほうがいい」。もっとも、様々なものを削ってより歌に集中する環境を作るという、歩くというより走る選択をしています。ビビバス4人の夢に向かう心は全く折れていません。(重すぎる想いを直接受け取った杏がいるという側面は大きいですが)

 ストリートとは無縁の憶病な少女だったこはねが抱く感情は「悔しい」。それはミクが言う通り、色々な経験を経て芽生えたシンガーとしてのプライドがあるからこそ。悔しさを大きな糧にしています。

 しかし、「悔しさをバネに」とはよく言われるものの、実際にできる人はそう多くありません。基本的に失敗体験で学習するのは、もう同じ行動をしない方がいいということです。根幹から自分たちの歩みを否定されればなおさらです。今回、仲間たちとは話をすることすらままなりませんでした。


 大河さんがアメリカへ発つ日、想いを伝えるビビバスメンバー。許していないということを伝え、宣戦布告をする杏。対して、今までの指導、そして戦いにも「悔しさを教えてくれてありがとうございました」と感謝を伝え、決意を示すこはね。直接言葉を伝えに行ける地点で立ち上がれない者達とは雲泥の差がありますが、(体裁のため本心を噛み殺してではなく恐らく心から)感謝まで示せるのはさらに違います。大河さんもこはねに対しては競える器だと思っているような態度を示しています。熱いやり取りなんですが、傍からは「トップに立つ奴らは違うな」と別次元に思えてしまう面もあります。

 もちろん、こはねは才能のみでここまで辿り着いたわけではありません。ビビバス・セカイ・学校・ビビッドストリートの心強い仲間たち、武者修行のごとく単身でイベントを渡り歩いた経験値、イベントごとに成長する成功体験、大河さんに認められ指導を受けたこと、最初の杏との強烈な出会い…。真っ直ぐな努力で環境を活かしきり、飛躍的な成長を遂げました。傍からはその一部しか見えないとはいえ、ぽっと出の少女があっという間に他者を追い抜いていく姿は、他者に器の圧倒的な差を感じさせます(杏でさえ並び立てなくなることに怖くなりました)。

 「みんなに追い付こう」その真っ直ぐさがこはねを成長させてきました。まだ自らの存在の大きさに自覚的ではありませんが(歌の自信はつけてきましたが、自分の影響力という意味で)、そこを自覚し、ついていけない・折れた仲間にも寄り添えるようになることが、4人だけでは達成し得ない伝説のイベントを超える1つのカギかもしれません。


★本感想のゲーム画像あり版はnoteで公開中:https://note.com/gakumarui/n/n8a9e8c642aed

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