進むのが怖くとも「水底に影を探して」感想+『25時、ナイトコードで。』振り返り

 各チャプターで1人づつ焦点を当てるワールドリンクイベントの第1弾でした。セカイの変化=まふゆの想いの変化にそれぞれが触れながら、それぞれのこれからに向かう姿が描かれていたということで、感想も今回の話を踏まえつつ各人について改めて考えてみます。(今後もワールドリンクイベントの感想はこの形を取ろうかなと思っています)


朝比奈まふゆ

 空虚な優等生は家出少女に。いつしか期待に応える振る舞いが自動化し、感情も味も失った、一度捨てかけた命を拾われ、一緒に自分を探してくれる仲間と歩み出した、その繋がりを奪われそうになり、やっと少しだけ出せた自分の言葉は伝わらなかった…読者には見えるまふゆの1年間は宮女生徒にも家族にもほぼ見えていません。本人にとっては溜まりに溜まってプツリと切れたであっても、周りからは素振りが見えておらず突然の爆発だったということは珍しくありません。しかしプツリと切れても物語は終わらず、向き合いたくないことの処理を決め、自分の進む道を決める必要があります。個人的にもプツリと切れた後の大変さは身に染みています。

 救うと言ってくれた、「わからない」を一緒に考えてくれる仲間への愛着はいつしかとても強いものになり、奏がスランプに陥った際の「作り続けるって言ったのに」に象徴されますが、ニーゴの面々にはめちゃくちゃ甘えています。疑問と不快以外の感情が少しずつ出てきたところ、まずは「みんなと一緒にいたい」を思う存分味わいながら、何もないセカイに出てきた芽をゆっくり育ててほしいです。

 奏と暮らす上で穂波との接点が否応なしに生まれましたが、表の姿しか見せてこなかった宮女メンバー、特に他者の理想であり続けられなかった雫は他者の理想であり続けられたゆえに自分を失ったまふゆと対極かつ共通しており、どう物語に関わって来るか楽しみです。


暁山瑞希

 周りを気にせず自分を貫く自由人…になれたらどれだけ楽だったことか。明るく振る舞いながら誰よりも繊細で、その心の内を決して見せようとしません。ニーゴメンバーはおろか、読者というメタ視点でも心に壁を作るに至った過去はまだあまり分かりません。

 やっと居場所になった仲間にさえ心を見せられない自分を非常に低く評価していますが、まふゆに言葉が届き支えになったように、他者を思いやって支えられる心と能力を持っています。周りの人や状況が良く見える、授業に出ずとも勉強できるくらい要領がいい、チョコレートファクトリーでの即興劇に対応出来るほど頭の回転も早く、人当たりもいい、自分や他者のカワイイ魅せ方も上手い…。これほどの人物が生きづらいとは、先入観・偏見とは恐ろしいものです(現実の世にも大いに人のためになる力を持ちながら発揮できない人は山ほどいるのだろうと思います)。繊細な心は他者を慮れるということでもあるので、「逃げた先」のいつか、自信もって振る舞える日が来るといいなと思います。

 今回のメイコに対しての(白々しい)泣き落とししている姿はとても生き生きしていましたが、出来る人をちゃんと選んでいるのが瑞希だと思います。これからもニーゴの中ではこんな感じで存分に思うがまま振る舞って欲しいです。


東雲絵名

 天才集団に喰らいついていく執念の凡才。絵に拘らず生きられたら割と器用に生きられそうですが、どれだけ心を折られても絵を諦められない姿に、凡才にとって夢って呪いだなと感じさせられるし、でもとても共感します。身近にいる本物の才能にバッサリ否定されるって多分凄いエグイ。弟彰人のような「努力は当然」ストイック型でもない、でも歯喰いしばって、ちゃんと期日は守ります。当初の公式評は「自撮りで承認欲求を満たす絵描き」、それもいいねがついて喜んだらすぐ冷めるを繰り返すという結局全然満たされてなかった虚しい所から、もがいてもがいて「酷評されても描き続ける心の強さを持つ」へ成長を遂げました。

 感情が表に出やすく、褒められれば喜び、否定されたりからかわれたらちゃんと怒る。合わせ鏡のような対応で、奏にはデレデレ、まふゆ・瑞希にはツンツン、でも困った姿は放っておけない。ハリネズミというまふゆ評が面白かったです。(彰人への態度は一見わがまま姉ですが)なんだかんだお姉ちゃん気質で、素直に頼ってくる後輩に対してはちゃんと面倒見のいい先輩、レオニそして奏のもはや母である穂波が絵名の前では後輩しているのがまた良いです。

 ニーゴメンバーからは絵名の絵が無ければ成立しないと高く評価されているのですが、本人はあまり自信が持てていません。まふゆに書いた絵が今回まふゆの心に残っているとわかったことは、一歩になるでしょうか。才能の壁は一生消えずとも、必死こいて描き続けて、沢山評価されて欲しいです。


宵崎奏

 音楽に全てを捧げざるを得なかった悲劇の天才少女。母を亡くし残された父を自分の音楽が殺したという認識(これは客観的には正しくないと作中でも示されているものの本人の中では確固たるもの)により、音楽で誰かを救い続けるしかないと自分に罪を課すことでしか心を保てなかった、ように見えます。冷たく自分を追い込んでいましたが、ニーゴの関わりの中でどんどん出るようになった他者を思いやる温かい姿の方が彼女には似合います。

 ひ弱な身体でお日様が苦手、音楽以外に無頓着、穂波がいなければ確実に崩壊する生活…庇護される側という感じがありますが、「まふゆを救うこと」を決意して色々な経験をする中で、精神的にどんどん強くなっている気がします(身体面は…以前よりは…)。元より穏やかな温かさを持っており、感謝の言葉・評価を素直に言葉にするところは、ニーゴをメンバーの居場所にした要因でしょう。それに加えて、ニーゴメンバーの誘い、スランプの経験、主に穂波との接点から広がった交友関係などから音楽以外のことも楽しめるようになってきました。

 まふゆ母との対峙により、どう考えても曲だけではまふゆを救うことは無理という状況になったこともあり、どうすればいいかまふゆに寄り添いながら考え続ける決意を固めました。(まふゆの幼少期らしき)女の子が諦めそうになった時の、優しい「もういい、なんて言わないで」が奏の強さだと思いました。怖いことがあっても一緒に受け止める、時間が掛かっても活路はあるはずです。


 他ユニットに比べて、ユニット(ニーゴというサークル)としての社会的評価の広がりがあまり描かれない、というかあまり関係ない次元での内面・内々の関係性に焦点が当たるニーゴ。まふゆの想いを投影した何もないセカイに色々なものが現れるようになり、簡単に割り切れない想いをより繊細に描いてくれると思います。


★本感想のゲーム画像あり版はnoteで公開中:https://note.com/gakumarui/n/nc661d3c45a24

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