逃げても苦しい、でも生きるために逃げる選択がある「ボク達の生存逃走」感想

 「逃げてもいい」「逃げればいい」というメッセージは世の中にあふれるようになりました。しかし、その中には苦しい社会から脱出して楽しく生きられているという、どこか現実感のない理想郷の物語も少なくありません。でも、実際は、逃げたからといって苦しさがゼロになることはほとんどありません。

 自分のことを、問題から向き合えず逃げ続けていると思いながら、でも友達が生きるための力になりたい。そんな物語です。


 夜に作業できなくなっているまふゆのため、瑞希は昼休みにチャットを繋ぎ共に作業することを提案します。昼休みにこっそり校外の友達とやり取り、まふゆがニーゴのみんなを大好きなのは火を見るより明らかです。

 しかし、家での状況はさらに悪化。母にシンセサイザーとPCを奪われます。飲み物を壊してPCを修理に出しているという言い分、流石に引っかかるまふゆですが、一言で封殺されます。


 翌日、そのことをみんなに伝えるまふゆ(ボイスチャットにしているのがみんなに伝えたい感があっていい)。スマホまで無くなった時の対処法を決めておこうという瑞希と、反抗しないと壊されてしまうという絵名。対照的な2人ですが、どちらもまふゆを想っての言動で、どちらの性質も必要なのだと思います。

 瑞希は非常に自己評価が低いです。「まふゆを救うために曲を作り続ける」奏、「友達のためならずっと待ち続ける」絵名とは違う、逃げてばかりで自分の問題とも向き合えてないと思っています。そんな自分がまふゆのために出来ることはあるのかと。読者目線からは、あなたが何も出来ないわけがない、ボイスチャットの終わりに咄嗟に「明日も待ってるから」と言葉が出せるのは凄いことなんだ、と伝えたくなってしまいます。


 「逃げてもいい」と伝えるため、まふゆと1対1で遊ぶことにした瑞希。あえて話は後回しにし、スポジョイパークやショッピングモールで思い切り遊びます。そして帰り、自分も過去に心を殺さなければいけない状況があったこと、問題から逃げたから今こうしていられること、逃げるという手段があることを伝えます。あくまで「逃げ続けるのはおススメしない」、なぜなら「問題そのものが解決するわけじゃないから、本当に楽にはなれない」から。でも、「生きるために」。「誰でもない、まふゆ自身のために」。

 絶対に伝えたかったけど、あくまで選択肢。「今はピンとこないかもしれない。まだその時じゃないかもしれない」。状況的には今逃げなさいというメッセージを選んでもおかしくない場面ですが、あくまでいつ何を選ぶかはまふゆ次第。でも、自分達はいつでも味方。瑞希の想いのこもった言葉選びです。


★本感想のゲーム画像あり版はnoteで公開中:https://note.com/gakumarui/n/ndf5a7df2f926

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