第2話(2)あの方のお陰
「しかし……今更ながら異様な光景だな」
瘦身の男性は恐竜たちが平然と歩きまわる、竜京の町並みを見て呟く。
「気候変動などの様々な要因が積み重なり、この北陸地方を中心に恐竜が“復活”しました」
「様々な要因っていうのはなんだよ?」
小柄な男性に大柄な男性が尋ねる。小柄な男性はボサボサの青みがかった髪を撫でまわしながら答える。
「う~ん……それが……良く分からないのです……」
「なんだよそれ、その白衣は飾りか?」
「衣服で謎が分かれば喜んでレオタードだって着ますよ」
「見たかねえよ、お前さんのレオタードなんか」
「研究は進めていますよ」
「金の無駄遣いだなんだ言われているぜ?」
「研究にはお金がつきものなのです」
「目に見える結果を出してもらわねえと、こちとら戦費調達にも苦労してんだ」
「戦線をいたずらに拡大させすぎなのでは?」
「俺に言わず、『あの方』に申し上げろよ」
大柄な男性が両手を広げる。小柄な男性がため息をつく。
「言って聞いてくれるような方ではありません……」
「分かってんじゃねえか」
大柄な男性がくくっと笑う。小柄な男性が頭を抑える。
「頭が痛くなります……」
瘦身の男性が口を開く。
「とはいえ、あの方がいなければ、我々は他の道州の侵攻によってあっけなく蹂躙されていたことだろう」
「ええ……」
「元々、十の道州の中でも最弱と言われていた『北信越州』……さらに新潟県と長野県を奪われ、北陸三県のみの『北陸道』になった時、皆が最悪の未来を想定した」
「……」
「あの方の登場により、我々は活力を取り戻した」
「色々な意味でな」
大柄な男性が笑みを浮かべながら呟く。瘦身の男性は無視する。
「……あの圧倒的なカリスマ性と行動力、決断力、そしてなにより強さに引っ張られ、我々はまた立ち上がることが出来た」
「カリスマ性、行動力、決断力、強さ……あ、あと美貌な」
指折り数えながら話を聞いていた大柄な男性が一言付け加えてくるが、瘦身の男性はまたも無視をした。
「我々は新潟県と長野県を取り戻し、さらに山梨県を併合、新たに『北陸甲信越州』となって生まれ変わった! それも全てあの方のお陰である!」
「それは分かっているつもりですよ」
小柄な男性が頷く。
「もちろん、突如としてこの地上に復活した恐竜たちを手なずけ、調教、さらに大量繁殖させることが出来たのは、研究者諸君の不断の努力があってこそだ」
「ああ、ご理解いただけて嬉しいですよ……」
「我々は強力無比な生物兵器を多数手に入れた。あの方とこれらの恐竜たちがいれば恐れるものはなにもない!」
瘦身の男性が力強く拳を握りしめる。大柄な男性が口を開く。
「……とは言ってもよ~」
「ん?」
「油断は大敵だぜ?」
「それももちろん分かっている。決意を示したまでだ」
「あ、そう、それなら良いんだけどよ……」
「……貴様、『あの地』で何を見た?」
「報告は逐一受けているんだろう?」
「データだけでは分からないこともある」
「そうか……まあ、それについては遅かれ早かれ知ることになると思うぜ」
「?」
瘦身の男性が首を傾げる。小柄な男性が呟く。
「……着きました」
男性たちは竜京の街の中心部から少し離れた巨大な施設に到着する。男性たちは恐竜から降りると、その施設の中に入る。大柄な男性が周囲を見回す。
「はあ~まったくご立派な施設で……」
「それで? 急ぎの用とはなんだ?」
「それは……僕の研究室についてからお話ししましょう」
「ははっ、ここに来て焦らすね~」
大柄な男性が笑う。
「……こちらです」
巨大な施設の奥の方まで入り、小柄な男性がある部屋を指し示す。
「うむ」
「どうぞお入りください」
「失礼する」
「お邪魔しま~す」
男性たちが部屋に入る。
「おう、来たか!」
「なっ⁉」
「元気そうだな、お前ら!」
広い部屋の中心に立っていた金髪碧眼の女性が振り返る。動物の毛皮で出来た茶色系統のビキニを纏っただけの極めて露出度が高い恰好である。振り返った際に、セミロングの髪がなびくと同時にその豊満な肉体が揺れる。瘦身の男性は慌てて視線を逸らしながら、小柄な男性に小声で耳打ちする。
「か、閣下がおられるなら、それを早く言え!」
「い、いや、僕も知りませんでしたよ!」
小柄な男性が小声で言い返す。大柄な男性がもみ手をする。
「いや~閣下におかれましては本日も美しく……」
「おう、『イロ』! 今回の活躍も聞いているぜ!」
「あ、ありがたき幸せです……」
「ふむ……」
イロと呼ばれた大柄な男性がうやうやしく頭を下げる。女性がそこにつかつかと近づき、イロの顎をクイっと上げる。
「!」
「良い色のレンズだな、似合っているぜ……」
「あ、ありがとうごさいます!」
「『ダテ』!」
「は、はい!」
「う~ん……」
女性がずかずかと近づいてくる。ダテと呼ばれた痩身の男性は思わず後ずさりして、壁際まで追い込まれる。女性はダテの顔の真横の壁にドンと手を置く。
「‼」
「相変わらず良いフレームだな……センスを感じるぜ」
「あ、ありがとうございます……」
「『マル』!」
「あ、はい!」
「ふ~ん……」
女性は小柄な男性に近づき、頭をポンポンとする。マルと呼ばれた小柄な男性は驚く。
「⁉」
「レンズの縁の色変えたな、かわいいぜ……」
「あ、ど、どうもありがとうございます……」
「さてと……実験とやらを始めろ!」
女性が高々と右腕を掲げる。
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